神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

文字の大きさ
上 下
273 / 462
神の宿り木~再生 3~

『森の聖域』

しおりを挟む
 魔女王ソフィアが言っていた、満月が近づいている…。
 魔法石が揃って、『宿り木の苗』を、カザナのお屋敷のミーネの元に取りに行くだけになっている…。
 もう少し…もう少しだけ、時間がある…。
 …あの魔法を使った後、どうなってしまうか分からない…。
 魔力を使い果たし、再び深い眠りに付いてしまうのかもしれない…。
 次に目覚めたとき、リーンで有る自信がない…。
 それでも…『リーン』は長い時間を生きてきた…。
 悔いはない。
 …心残りがあるだけ…。
 ジーンとユーリの成長をもう少し、見ていたかったな…。
 装飾品を作るイサキ君と出会って、ジーンとユーリに初めてプレゼントを送った。
 次の誕生日には、ジーンの元には『魔法石の図鑑』が届き、ユーリの元には魔力を制御する練習用の『魔法道具』が届く。
 今、私にしてあげれる事はそれくらい…。
 イサキ君がカザナへ移住するための段取りを終えると、リーンは王都を離れ、『森の聖域』に戻った。
 深い森の魔素の強い場所…。
 きっと仮死状態になれば、この森が『私』を眠りにつかせ、再び魔力を充電させて目覚める場所…。
 『私』が目覚める場所…。
 この森の入り口付近には、幾つか前の『私』が作った果樹園が有る。
 ここに出入りできる獣人族の者達が管理して、村や町に持って帰り、魔力を多く含む果実の恩恵をもらっていると聞く。
 ここは『私』がいなくても、誰かが管理してくれる…。

 森の中心に、『世界樹』と呼ぶ大木がそびえ立つ。
 多分、『私』が存在する前から、ここで大地を見守ってきているのだろう…。
 大地に溜まりすぎた魔力を根から吸収して、葉から放出し、この辺一体の魔力濃度を上げている。
 魔力の循環を担う大木の一つだ。
 そして、『私』が眠っていた場所…眠る場所…。
 …その近くに、二階建ての山小屋がひっそりと建てられている。
 『私』がこの地で生活するのに不便が無いように建てられ、定期的に熊族が点検して補修してくれている。
 何度も増築したり取り壊したりしながら存在する山小屋には、歴代の『私』が書いたとされる書物も幾つか有った。
 本棚に並べられた本の、一番端から一冊取り出し、ページをめくって、何も書かれていないページにジーンとユーリにプレゼントを贈ることを書き込んだ。
 これを書き始めたのは、『始まりの宿り木』の事から目覚めてから…。
 ここで目覚めて、ヒイロと遊んで、この森を出て、いろんな村や町を巡り初めて…記憶の有る限り、覚えている事を書き始めた。
 それはリーンの日記のような、覚え書きだった。
 次の『私』がそれを読んで、興味を持って、会いに行ってくれたらな…そんな思いで書き始めていた。
 それも、今日が最後かもしれない…。
 リーンは本棚にしまうのを迷って、机の上に置いたままにした。
 最初に読んでくれるように…。

 山小屋から少し下ると、川が流れている。
 少し上流に湧き水があり、そこから流れ出る水と、雨水が作り上げた、透明度の高い綺麗な川には魚が泳いでいて、ヒイロと一緒に捕まえて、焼いて食べた事を思い出す。
 今思えば、ヒイロも魔力が高かったから、魔力の宿った魚を食べても平気だったのだと思う。
 そうでなければ、魔力酔いをして動くことが出来なくなっていただろうからだ。
 ここには『水霊』も『風霊』もたくさんいて、新しい魔法作りを手伝ってくれた。
 『木霊』と『土霊』達は各地で採取してきた貴重な薬草や草花を、育てるのを手伝ってくれ、環境と土の合った場所を選らんでくれ、所々に薬草園が作られている。
 それも全て、あの一冊に書き込んである。
 あとは次の『私』次第だ…。
 …そうだ。
 『物質保管庫』を使えなくなるのは、もったいない…。
 あの中には、乾燥させた薬草や魔法石、魔法道具など、便利な道具も入っている…。
 …魔力のつがいである、ルークなら開けることが出来るかもしれない…。
 …ルーク…。
 まさか魔力のつがいになるなんて、思いもしなかった人。
 そしてそのルークとの、子供まで産むことになるとは思いもしなかった…。
 …歴代の『私』の中で、つがいを得たのも、子供を授かったのも、私が初めてだ。
 …何か、変わったのだろうか…?
 …『私』と言う存在が、何か変わっていくのだろうか…?
 ここで少し魔力を補充して、ルークの元に戻ろう…。
 残り少ない時間を、あの人と、のんびりと一緒に過ごしたい…。





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

けものとこいにおちまして

ゆきたな
BL
医者の父と大学教授の母と言うエリートの家に生まれつつも親の期待に応えられず、彼女にまでふられたカナタは目を覚ましたら洞窟の中で二匹の狼に挟まれていた。状況が全然わからないカナタに狼がただの狼ではなく人狼であると明かす。異世界で出会った人狼の兄弟。兄のガルフはカナタを自分のものにしたいと行動に出るが、カナタは近付くことに戸惑い…。ガルフと弟のルウと一緒にいたいと奔走する異種族ファミリー系BLストーリー。

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。 帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか? 国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。

処理中です...