神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

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神の宿り木~再生 3~

イサキ 5 ~パンケーキ~

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「『転移』」
 眩い光りに包まれると、見たことのない豪華な屋敷の玄関ホールにいた。

 茫然とするイサキは、リーンさんに声をかけられて我に返った。
「彼の後に付いて行って。客室に運ぶから」
 母親を抱き上げていた護衛の青年は、部屋の奥へと進んで行き、イサキは慌ててその後を追った。
 リーンさんは別の部屋から出てきた男の人と何やら話して、再びこちらに向かってきて、声をかけてきた。
「今、お医者様を呼んでもらったから」
「…あ、ありがとう…ございます…」
 どうしてそこまでしてくれるのか、イサキには分からなかった。
 この間出会って、ペンダントを頼まれ、買ってくれたお客さんだったはずの人だ。
 母親を連れた護衛の青年が入っていった部屋に入り、目を疑った。
 ここもシンプルだけど豪華な部屋…。
 この部屋一つで、自分達の家位の大きさだ…。
 四人かけのテーブルと椅子、絨毯が敷かれてソファーが置いてあり、ベッドの柱にカーテンが付けられ柱に紐で結ばれている…。
 全くの別世界だ…。
 母親はそのベッドに寝かされ、イサキは近づいて、息をしているか確認した。
 …生きてる…。
 ほっとして力が抜け、ベッドの端にしゃがみこんでしまった。
 その間に別の人が、テーブルの上に飲み物や果物を置いていった。
 リーンさんって、一体何者なんだ…?
 そんな事を思っていると、医者がすぐにやって来た。
 …早い…ついさっき、呼んでもらったと言っていたはずなのに…。
 イサキはフラフラとベッドから離れ敷物の上に座り、医者に場所を譲って、祈るようにじっと見ていた。
 
 診断結果は疲労と栄養失調…だった。
 後は検査してみないと分からないので、体調が少し回復してからと言うことになった。
 イサキはホッとして大きなため息を付いた。
「…イサキ君」
 声をかけられて振り向き、イサキは驚いた。
「ロバートさん…」
 ロバートさんは、時々、装飾品を買ってくれる常連さんだ。
 いつも買いに来る普段着とは違って、執事のような格好をしている。
「…私はこのお屋敷の執事をしている。安心しなさいリーン様が良いように取り計らってくれる」
 イサキは思いきって聞いた。
「…あの…リーンさん…って、何者なんですか…」
 ロバートさんは驚いて、少し困った顔をした。
「リーン様は、何も言われなかったのですか?」
 イサキは頷いた。
 ロバートさんはどう答えようか、迷っているようだ。
 そこへ、さっきリーンさんと一緒に買いに来てくれていた男の子と女の子が顔を覗かせた。
 二人もここで暮らしているのか?
「…ジーン様、ユーリ様」
 ロバートさんが二人の姿を見て、イサキに声をかけてきた。
「イサキ君。お二人とおやつをしていただけませんか」
「…おやつ…?」
 …そういえば、お腹が空いている…。
 緊張しすぎて、いつもよりエネルギーを使ったのか…?
「イサキ君、こちらに座ってください」
 そう言って、四脚ある椅子の一つをロバートさんが引出し、イサキはフラフラと歩いて言われるままに座った。 
「ジーン様、ユーリ様。お静かに出きるのでしたら、御一緒しますか」
 二人は首を縦に振る。
「どうぞ」
 ロバートさんが椅子を引いて、男の子と、女の子が椅子に座り、それと同時に甘い匂いのパンケーキとお茶が運ばれてきた。
 …これって…食べて良いの…?
 イサキは不安になった。
 何もかもが、与えられ過ぎて…。
「あの…どうして…」
 イサキは何と聞けば良いのか分からなかった。
「…リーン様がお連れになったからです」
 ロバートさんはそう答えた。
 それが全てだと。
 それが良く分からなかった。
「えっと…僕はジーン。名前は?」
「…イサキ…」
「イサキの事、リーンが気に入ったんだよ」
 金髪の男の子ジーンがそう言う。
「違うわよ!私はユーリ」
 黒髪の女の子ユーリが言う。
「イサキが『水霊』と『風霊』に気に入られているから、リーンが連れて来たのよ!」
 ますます分からなくなる。
 『水霊』に『風霊』だって…?
「まあまあ…」
 ロバートさんが落ち着くように二人をなだめる。
「それより冷めてしまいますよ」
 ロバートさんに言われて、目の前のパンケーキを思いだし、お腹が鳴りそうだ。
「「いただきます!」」
 そう言って二人はフォークで一口サイズにカットして、口の中に入れ、美味しそうに食べ始めた。
 イサキもごくりと唾を飲み込み、二人の真似をしてフォークでカットして口の中に入れた。
 ふわふわのパンケーキに甘いクリームが、美味しくてたまらない…。
 イサキは黙々と口に入れた。
 そして皿の上のパンケーキが、ほとんどなくなる頃、ジーンとユーリは小声で…イサキとロバートさんには聞こえるくらいの声で話し始めた。
「…リーンが連れてきた子なら、お父様だって反対しないと思う…」
「そうだよね。綺麗な髪飾りを作れる才能が有るから、カザナに来ないかって言ってたんだと思うから…」
「リーン様がそう、おっしゃられていたのですか?」
「うん」
 ユーリがそう言って微笑む。
「では、そのように手配いたします」
 そう言ってロバートさんは部屋を出て行った。
「…あの…リーンさんて、君たちの…」
「家族だよ」
 ジーンがそう言って微笑む。
「僕達の本当の家はカザナにあって、今は学校に通うために王都に来てるんだ。お父様もリオナスに行ったままだし、リーンもたまにしか戻ってこないけど…大好きな家族なんだ」
「私だって、大好きよ!」
 黒髪の女の子ユーリがそう言う。
 …本当の家が、カザナにあって…お父様が…リオナスに…行ったまま…?
 確かリオナスとは、この国の第三王子ルーク様が、人族や獣人族などが一緒に暮らせる町作りを始め、人族と獣人族の食べ物や魔法道具などの貿易の拠点となっている町の事を言っているのか?
 そこへ行ったまま…とは…。
 それに豪華な、このお屋敷…まさか…だよな…。
 …えっと…確か…噂では、ルーク王子には…双子の王子と姫が…。
 …目の前にいる二人は…もしかして…双子なのか…?
「…。」
 イサキはパンケーキの最後の一口を口に入れようとして、止まってしまった。
 待て待て…気のせいかもしれない…けれど…。
 聞くのが怖い…。
「…ここは…」
 か細い声がベッドの方から聞こえてきた。
 
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