神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

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神の宿り木~再生 3~

王都に向かう途中

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 グオルクの家に戻ってくると、チイは家事仕事を終え、お茶を飲んでいた。
 リーンも一緒にお茶をして、ワイトデ自治区であった事の話をした。
 炎の竜キラの事、カズキの縁者がワイトデ自治区の領主だと言う事、人族の町に獣人族が普通に出入りしている事、知らない食べ物がいっぱい有った事…。
 チイは時々質問しながら、楽しそうに話を聞いてくれる。
 この話は、ヒイロが帰ってきたら、ヒイロに話すだろう…。
 …獣人族の…私のもう一つの家族…。

 話している間にお昼になってしまい、チイが昼食を準備してくれて一緒に食べ、そろそろ行かなくては…と、重い腰を上げた。
「今度はどこへ…」
 不安そうにチイが聞いて、リーンは答えた。
「カザナのルークのお屋敷に行って、王都のジーンとユーリに会いに行く。…いつも来てもらってばっかりだから、驚かせようと思って」
 リーンはそう言って微笑んだ。
「気をつけて行くのよ」
「うん」
 リーンは自分の部屋からカザンナ王国のカザナの小屋へ通じる魔法陣をくぐった。
 

 ここに来るのは久しぶりではないだろうか…。
 カザナのルークのお屋敷内にある、リーンがしばらく暮らしていた部屋。
 いつ来て泊まっていっても良いように、部屋は綺麗に整えられている。
 定期的に掃除をしに来てくれているのだろう。
 寝室からリビングに出ると、テーブルの上には小さな花瓶に花が生けられていた。
 小さな心遣いだ。
 リーンはその花を見て微笑むと、ミーネの元に向かった。
 ミーネはカザナの町を見下ろす丘に植えられた『宿り木』。
 以前に『宿り木』になる『苗木』を頼んでいたのが、どうなっているか確認しに来たのだ。
 『宿り木』に触れ、名前を呼ぶと姿を表した。
「『苗木』は…」
『準備出来てますよ』
 ミーネが微笑む。
「もう少し預かっていて…。後で取りに来るから…」
『分かりました』
「…『天水球』は、いくつ残っている?」
『…七個有ります』
「それも一緒にもらいに来るよ」
 リーンがそう微笑むと、ミーネは表情を少し曇らせた。
『…リーン。貴方は…』
「皆に秘密ね…」
 リーンはそう言ってミーネの元を離れた。


 カザナから王都に向かうには、徒歩で行くか、乗り合い馬車で行くか、『転移』の魔法を使って行くかだ。
 以前に一度しか行ったことがないので、『転移』のマーキングをしていない場所へ行くのは不安だし、徒歩だと時間がかかりすぎる。
 なので馬車で向かうことに決めた。
 ルークのお屋敷に顔を出して、王都に向かう馬車は何処から乗った方が良いのか聞くと、午後から王都に向かう者が居るので、一緒に乗せてもらう事になった。
 カザナの町の報告書や工事をするための費用の見積書など、王国から費用を出してもらうような書類などを運ぶためだそうだ。
 それには護衛もつき、ほとんど休憩も無しに王都に向かう事になっている。
 リーンにとって、早く辿り着くなら有りがたいことだ。
 途中、ジーンとユーリの住む屋敷の側を通るため、そこで下ろしてくれると言ってくれたので、乗せてもらう事にしたのだ。
 馬車は乗り合い馬車とは違い、丈夫な作りになっていて、扉もあるし、柔らかい座り心地の良い椅子になっていた。
 座席の奥くに書類の入った箱がいくつも置かれていて、担当の年嵩の男が座っていて、こちらの顔を見て驚いていた。
「…リーン様」
「こんにちは。同乗させてもらいます」
 リーンは微笑んで座席に座った。
 扉が閉められ、馬車は動き出した。
 二人とも何を話せば良いのか分からず沈黙していたが、ふと思い立ち、リーンは聞いてみた。
「あの…ルークのお屋敷には長いこといるんですか?」
 男は少し驚いて、微笑んだ。
「ええ、ルーク様の幼少の頃から、こちらで仕事をしております」
 やはりそうだ。
 リーンは頬を少し染めて言った。
「…あの…ルークの…子供の頃の…話を聞かせてもらいませんか」
 ルークは子供の頃の話をしてくれたことはない。
 多分それは、リーンの子供の頃の…と、言うものが無いからだ。
 でも、ジーンやユーリを見ていて、今さらだが、ルークの子供の頃の話を知りたいと思ったからだ。
 彼らは私がルークの子供を産んだことを知っているし、話してくれるのではないかと思ったからだ。
「私が知っている事で良いですか?」
「はい!」
 リーンは嬉しそうに男の話を聞き入った。
  
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