神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

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神の宿り木~再生 2~

雨の午後

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 雨が降りだした。
 炎の魔法石を作るのに発生する熱風を、無理やり上昇気流にさせたから、雲が出き、そこから雨が降りだした。
 協力してくれたテオ達は、雨が降りだす前に帰れただろうか…。
 叩きつけるように降る雨は、熱風の強さと多さを意味する。
 さて、これからどうしよう。
 ワイトデ自治区に戻るには、『移動』を使うか徒歩で山を下りるかだが、ここからワイトデ自治区への『移動』は出来ない。
 夕食までには時間はあるし、かといって、この雨の中、山を下りるのは危険だ。
「ここには、連絡用の通信網は付いていないのか?」
「有るよ。向こうから連絡が来るだけで、使ったこと無いけど…」
 そう言ってキラは寝室に案内してくれ、壁にかけてある鏡を指差した。
 …寝室が綺麗に片付いている。
 目映いばかりの炎の結晶石が、ほんの少しインテリアとして置かれているくらいだ。
 この部屋に有った炎の結晶石をほとんど使ったのか…。
「綺麗に片付いているな」
 一緒に付いてきたルークがそう言う。
「本当ですね。この方が部屋らしいし、落ち着いて眠れますよ」
 カズキも一緒に部屋を覗いて微笑む。
 カズキが『通信鏡』を使って最初に開いたのは、カザンナ王国のリオナス。
 アオがルークの後を任されて、仕事をしているはず…。
 鏡に映ったのは青ざめて、やつれたアオの姿だった。
「…そろそろ帰ってきてください」 
「炎の魔法石は手に入れたから、そろそろ帰路につくよ」
 カズキがそう言うと、アオが珍しくこちらを睨んできた。
 …うわ、ストレスたまってそう…。
「ワイトデ自治区の領主にお願いして、固定の『転移移動』の魔法陣を作ってもらって下さい」
「…急ぎか」
 ルークが顔をしかめてアオを見る。
「王都からの手紙を送ります。カズキ、この『通信網』に『物質転移』は付いているか?」
「付いてない。少し待ってくれ」
 カズキは右手を掲げ、鏡の上に作り出した魔法を被せ青い光を放つ。
「…繋がったはずだが」
 カズキがそう言うと、アオがペンを差し出し、鏡を通り抜け、カズキがペンを受けとる。
「大丈夫みたいだ」
「急ぎで見てもらいたい書類を準備します。先に手紙に目を通してください」
 そう言ってアオは、王都からの手紙を差し出してきて、カズキは受けとるとルークに渡した。
 ルークはため息を付きながら手紙を読みはじめる。
 その間に鏡の『通信網』は画面が切り替わり、ワイトデ自治区の領主の元に繋がった。
 カズキが事の説明をして、『転移移動』を何処かに作れるように手配し、明日の昼には使用出来るようお願いしている。
 …そう簡単に作れる魔法ではないし、最終座標はカズキが組み込まなくてはいけない。
 …リオナスの執務室に繋げるつもりなのだろうか…。
 …後で聞いてみよう。
 キラは、そんなカズキの後ろ姿を見ながら、キリトに説明を受けていた。
 『物質転移』を使って手紙を送ってくるのを始めて見たらしく、興奮気味に『転移移動』って、いつもの『移動』とは違うの?とか、どうなってるの?と、横でキリトを質問攻めにしていた。
 …キラにとって『移動』は、飛んでいける距離だから、『転移移動』が長距離の移動だと、説明した方が分かるだろう。
 今後のために、新しい魔法ではないが、進化している魔法を使えるように、キラに教えておいた方が良いのかもしれない…。

 
 ルークが手紙を読み終わる頃、カズキはアオから送られてきた書類の束を、炎の魔法石が置いてあるリビングのテーブルの上に置いた。
 それを見て、ルークが顔をしかめる。
「…多いぞ」
「アオの判断で決めれない書類です。手伝いますから、今日中に終わらせて下さいね」
「…。」
 ルークは諦めて椅子に座り、準備された書類を手にした。
 リーンはカズキにお願いして、馬車からチハヤの日記を取り寄せてもらった。
 カズキが管理する馬車は、カズキの魔法がかけてあるので、馬車内のモノだったら魔法で取り寄せられるからだ。
 リーンはソファーに座ってチハヤの日記を読み出した。
 キラはキリトに教えてもらいなから、『通信網』『物質転移』の使い方を習っていた。
 これが使えれば、離れていてもカズキやリーンとも話が出来ると聞いて、やる気になったのだ。
 練習として、ワイトデ自治区のテオが向こう側で相手をしてくれているようだ。
 …離れていても…。
 もうすぐ帰るのだと言うことはキラも分かっているから、必死なのだろう。
 『転移移動』が繋がれば、子供達をキラに会わせてあげても良いのかもしれない。
 さすがにまだ、竜は見たことが無いだろうから…。
 
 雨はまだ降り続いている。
 …もうしばらくの休憩だ。


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