神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

文字の大きさ
上 下
253 / 462
神の宿り木~再生 2~

炎の魔法石

しおりを挟む
 リーン達がワイトデ自治区に戻ってくると、すぐに炎の竜の小屋の方に行くよう言われ、リーンとルーク、カズキは『移動』で、小屋に連れてきてもらった。
 そして小屋で待っていたキリトと一緒に、炎の魔法石を作る準備の整った『炎の竜の温泉』に向かった。
 小屋から少し上ったところに有る、『炎の竜の温泉』の横の開けた場所に出ると、遠目にでも分かるくらい、炎の結晶石が山積みにされていて、光を浴びてキラキラと光っている。
 いったい何処にそれだけ保管してあったのかと思うくらいの量だ。
 山積みにされた炎の結晶石に近付くと、『炎の竜の温泉』からキラが竜の姿で現れた。
 濡れた炎の竜の身体から湯気が上がり、水気が蒸発していく…。
 その美しい姿にリーンは感動していた。
 …記憶の中では抱えられるほど小さくて、幼かったキラが成長していると実感できるからだ。
「…炎の竜が魔法を使う間、気温が一気に上がります。それを防御してもらいたい」
 キリトがリーンにそう言ってきた。
「わかった」
 きっと熱風が吹き荒れるだろう。
 炎の竜がルークに近付いて来て正面に立ち、炎の結晶石の山を見る。
『…崩さないように、一つ選んで』
 ルークがリーンを見た。
 …意図が読めないからだ。
「…ルーク王子、一つ選んで下さい」
 そう言ったのはキリトだった。
「…炎の結晶石をほとんど使いきります。…貴方に渡したいんだと思いますよ」
 キリトは苦笑いして、そう答えた。
 ルークは炎の結晶石の山に近付き、無造作に一つ拾い上げた。
『…それを選ぶんだ…』
 キラは竜の瞳を潤ませリーンを見た。
 …キラ?
 ルークは手にした炎の結晶石をリーンに見せてきた。
「…これだけ…少し紫色をしていて、目についてしまった…」
『…それはキースが居なくなって、一人ぼっちになって、僕が火山を噴火させてしまって…泣きなから結晶化させた石だよ…』
 ルークとリーンは目を見開きキラを見る。
『…もう、要らないから…』
 何かを吹っ切るようにキラは微笑んで、大きな翼を広げた。
『始めるよ』
 キラはそう言って、炎の結晶石の山を見つめた。
 リーンもルークも少し離れ、防御の魔法を辺り一面に施した。


 山積みにされた炎の結晶石の周辺の、焼けた地面が赤い光を放ち出し、炎の結晶石を包み込むように炎を上げ始めた。
 そこから吹き上げる熱風を風で巻き上げ外に逃がす。
 ここも大変だが、町にも熱風が流れ込んでしまう。
「…町には通達が行っています。午後からは、外出しないように…町の防護隊が配備されていますから、安心して下さい」
 ここへリーン達を『移動』するために一緒に来た青年が、リーンの隣で障壁を作りながら教えてくれた。
「…あれから非常事態に備えて、いくつもの対策が取られているんですよ」
 …どこかで見たような…。
 今は、思い出せない…。
「…リーン。炎の結晶石の山が小さくなっていくぞ…」
 青年とは反対側にいるルークがそう声をかけてきて、炎の結晶石を見る。
 炎の結晶石の山の上に置いてあった、半分に割れた結晶石がゆっくりと沈み込みながら、その下に有る結晶石を溶け込ませ吸収しているように見えた。
 次第に結晶石の山の下に隠れていた、半分に割れた結晶石が姿を表し、上と下、回りから囲むようにそれらが向き合って球体を形どると、中心に向かって集まり凝縮されていった。
 赤い光を放ちながら、どんどんと大きさが小さくなっていく…。
「…綺麗だな…」
 凝縮されるときに放たれる光りは熱を持っているので、当たれば熱い。
 それを障壁で防護して、炎の魔法石が形どって行くのを見ていた。
 …めったにお目にかかることの出来ない情景だ。
 キラが小さくなっていく炎の結晶石を竜体の手の上に乗せ、息を吹き掛けている。
 その姿は物語や言い伝えによる、竜玉を持っている姿のようだ。
 しだいに炎が収まり、輝いていた大地の光も鈍くなっていく。
 …終わったのか…?
 キラは真っ赤な炎の魔法石を手に、リーンの所に向かって歩いてくる。
 そしてリーンの正面で立ち止まると、人の姿に変わって炎の魔法石を差し出した。
「…リーン…炎の魔法石」
「…ありがとう。キラ」
 リーンは炎の魔法石を受けとると、そっとキラを抱き締め、キラも抱き締め返してきた。
 キースの思いでは胸にしまい、リーンと名前を読んでくれた。
 …今の私を認めてくれたのだ。
「キラ様。服を着てください」
 そう言って、ここへ連れてきてくれた青年が服を差し出してくる。
「…分かってるよ」
 キラは涙を拭いながら、リーンから離れると青年から服を受け取って着はじめたが、その動きが急に止まった。
「…チハヤ…」
 キラは、リーン達の元に駆け寄ったカズキの姿を凝視して、目を丸くしている。
 …チハヤ…?
 確か、ワイトデ自治区のイオの幼馴染みの名前…。
 …まさか…。
 リーンはルークと話すカズキを見た。
 …記憶が曖昧だから、はっきりと顔は覚えていない。
 キラは急いで着替えるとカズキに向かって突進していった。
「チハヤ!」
 


 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

処理中です...