神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

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神の宿り木~再生 2~

炎の魔法石

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 リーン達がワイトデ自治区に戻ってくると、すぐに炎の竜の小屋の方に行くよう言われ、リーンとルーク、カズキは『移動』で、小屋に連れてきてもらった。
 そして小屋で待っていたキリトと一緒に、炎の魔法石を作る準備の整った『炎の竜の温泉』に向かった。
 小屋から少し上ったところに有る、『炎の竜の温泉』の横の開けた場所に出ると、遠目にでも分かるくらい、炎の結晶石が山積みにされていて、光を浴びてキラキラと光っている。
 いったい何処にそれだけ保管してあったのかと思うくらいの量だ。
 山積みにされた炎の結晶石に近付くと、『炎の竜の温泉』からキラが竜の姿で現れた。
 濡れた炎の竜の身体から湯気が上がり、水気が蒸発していく…。
 その美しい姿にリーンは感動していた。
 …記憶の中では抱えられるほど小さくて、幼かったキラが成長していると実感できるからだ。
「…炎の竜が魔法を使う間、気温が一気に上がります。それを防御してもらいたい」
 キリトがリーンにそう言ってきた。
「わかった」
 きっと熱風が吹き荒れるだろう。
 炎の竜がルークに近付いて来て正面に立ち、炎の結晶石の山を見る。
『…崩さないように、一つ選んで』
 ルークがリーンを見た。
 …意図が読めないからだ。
「…ルーク王子、一つ選んで下さい」
 そう言ったのはキリトだった。
「…炎の結晶石をほとんど使いきります。…貴方に渡したいんだと思いますよ」
 キリトは苦笑いして、そう答えた。
 ルークは炎の結晶石の山に近付き、無造作に一つ拾い上げた。
『…それを選ぶんだ…』
 キラは竜の瞳を潤ませリーンを見た。
 …キラ?
 ルークは手にした炎の結晶石をリーンに見せてきた。
「…これだけ…少し紫色をしていて、目についてしまった…」
『…それはキースが居なくなって、一人ぼっちになって、僕が火山を噴火させてしまって…泣きなから結晶化させた石だよ…』
 ルークとリーンは目を見開きキラを見る。
『…もう、要らないから…』
 何かを吹っ切るようにキラは微笑んで、大きな翼を広げた。
『始めるよ』
 キラはそう言って、炎の結晶石の山を見つめた。
 リーンもルークも少し離れ、防御の魔法を辺り一面に施した。


 山積みにされた炎の結晶石の周辺の、焼けた地面が赤い光を放ち出し、炎の結晶石を包み込むように炎を上げ始めた。
 そこから吹き上げる熱風を風で巻き上げ外に逃がす。
 ここも大変だが、町にも熱風が流れ込んでしまう。
「…町には通達が行っています。午後からは、外出しないように…町の防護隊が配備されていますから、安心して下さい」
 ここへリーン達を『移動』するために一緒に来た青年が、リーンの隣で障壁を作りながら教えてくれた。
「…あれから非常事態に備えて、いくつもの対策が取られているんですよ」
 …どこかで見たような…。
 今は、思い出せない…。
「…リーン。炎の結晶石の山が小さくなっていくぞ…」
 青年とは反対側にいるルークがそう声をかけてきて、炎の結晶石を見る。
 炎の結晶石の山の上に置いてあった、半分に割れた結晶石がゆっくりと沈み込みながら、その下に有る結晶石を溶け込ませ吸収しているように見えた。
 次第に結晶石の山の下に隠れていた、半分に割れた結晶石が姿を表し、上と下、回りから囲むようにそれらが向き合って球体を形どると、中心に向かって集まり凝縮されていった。
 赤い光を放ちながら、どんどんと大きさが小さくなっていく…。
「…綺麗だな…」
 凝縮されるときに放たれる光りは熱を持っているので、当たれば熱い。
 それを障壁で防護して、炎の魔法石が形どって行くのを見ていた。
 …めったにお目にかかることの出来ない情景だ。
 キラが小さくなっていく炎の結晶石を竜体の手の上に乗せ、息を吹き掛けている。
 その姿は物語や言い伝えによる、竜玉を持っている姿のようだ。
 しだいに炎が収まり、輝いていた大地の光も鈍くなっていく。
 …終わったのか…?
 キラは真っ赤な炎の魔法石を手に、リーンの所に向かって歩いてくる。
 そしてリーンの正面で立ち止まると、人の姿に変わって炎の魔法石を差し出した。
「…リーン…炎の魔法石」
「…ありがとう。キラ」
 リーンは炎の魔法石を受けとると、そっとキラを抱き締め、キラも抱き締め返してきた。
 キースの思いでは胸にしまい、リーンと名前を読んでくれた。
 …今の私を認めてくれたのだ。
「キラ様。服を着てください」
 そう言って、ここへ連れてきてくれた青年が服を差し出してくる。
「…分かってるよ」
 キラは涙を拭いながら、リーンから離れると青年から服を受け取って着はじめたが、その動きが急に止まった。
「…チハヤ…」
 キラは、リーン達の元に駆け寄ったカズキの姿を凝視して、目を丸くしている。
 …チハヤ…?
 確か、ワイトデ自治区のイオの幼馴染みの名前…。
 …まさか…。
 リーンはルークと話すカズキを見た。
 …記憶が曖昧だから、はっきりと顔は覚えていない。
 キラは急いで着替えるとカズキに向かって突進していった。
「チハヤ!」
 


 
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