神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

文字の大きさ
上 下
241 / 462
神の宿り木~再生 2~

熊族の果実

しおりを挟む
 熊族の領主の元にたどり着くと、トワイデ自治区から連絡が行っていたらしく、昼食を準備して待っていてくれた。
 ルークはカザンナ王国の第三王子として挨拶し、領主と共に昼食を取り、キースの準魔法石の話になった。
 リーンに差し出されたのは、また一冊の本とケースに入った準魔法石だった。
 この本は、当時同行した町長まちおさの末っ子が、つがいを得てこの町を出ていくまで、書いたものだと言う。
 …と、言うことはアヤメが…。
 リーンはキースの記憶を探り当て、思い出していた。
 ココでも本だけは受け取り、準魔法石の入ったケースだけは返した。
 パラリと捲ると、最初のページに『キースさんが来たら渡して下さい。アヤメ』と、幼い文字で書かれていた。
 そしてペラペラと後ろの方に行くにつれ、大人びた文字に変わって行く…。
 アヤメの成長が文字だけで伝わるのが嬉しい。
 リーンはアヤメの日記を抱き締めた。


 落ち着いたところで領主に、熊族の町トワロの案内をお願いした。
 来るときに見た、露天や市場などを見て見たかったし、時間があれば、栽培している場所も見てみたかった。
 夕食までの間、熊族の領主の息子達、ショウタとリョウタが案内してくれることになった。
 熊族の二人は双子で、まだ学生だが学業の合間に、新種の果樹作りや品種改良の研究に取り組んでいるらしい。
 五人は歩いて市場に向かいながら、二人の話を聞いていた。
「甘いけど、固くて食べにくい果樹を柔らかく改良出来ないかなって…」
「酸味が強い果物をもう少し甘く出来ないかな…とか、まだ基礎の勉強中だけとね…」
 それでも興味を持って、そういった研究を間近で見ることが出来れば、いずれ作り出せるかもしれない。
 二人が楽しそうに話すので、あっという間に市場の側にまで来ていた。
 いろんな種族の獣人が市場を出入りしている。
 リーンは市場の入り口付近にある店の、握りこぶしくらいの楕円形の焦げ茶色の物体に目が止まった。
「アレは何?」
「マンゴンだよ。中はオレンジ色した甘い果物」
 ジュンタがそう言うと、リョウタが試食用のマンゴンをもらってきてくれた。
「本当にオレンジ色をしている…」
 リーンは一切れ口に入れる。
「独特の甘味だね」
 ルークもカズキも口に入れた。
「…これって、ドライフルーツで食べたことがある味だ!」
 カズキはそう言って驚いている。
「保存食用に作ってるよ」
 ジュンタはそう言って微笑む。
 ドライフルーツ…。
「宿でパンケーキを作るときに、刻んで入れていた覚えが有るんですよ」
 カズキはそう言う。
 カズキの実家はもともと、旅の休み処を家族ぐるみで経営している。
 その時のおやつにでも出していたのかもしれない。
「…やはり、気候が暖かいから果物も違うね…」
「一日で周りきれないぞ」
 まだ、市場の入口に入ったばかりだ。
 奥に延々と続いている。
 見たことの無い形をしているものとか、山積みにされた果物が、ちらほら見えて好奇心ばかりが先走る。
「ルーク様、リーン。…本来の目的とは違うことだけ忘れないで下さいね」
 …そうだった。
 今回は炎の魔法石をもらいに来たのだ。
 そしてキースが居なくなった後の事を知りたくて、町を巡るのだった。
 カズキはジュンタとリョウタの方を向いて言った。
「…この町のお勧めの果物と、食べ物などを案内してください。お二人の調子で進んでいくと、全く前に進めませんから…」
 ジュンタとリョウタは苦笑いして、
「この奥に、いろんな果物を食べれる店が有るから、そこで食べてみて、気に入った物の店を案内するよ」
「それでよろしくお願いします」
 カズキはそう言って、ルークとリーンを促す。
「さぁ、行きますよ。あまりよそ見しないで下さいね」
 …カズキが居てくれて良かった。
 たぶんルークと二人で歩いていたら、いつまででも屋敷に帰れそうにない。
 …うん。それは自覚している…。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

市川先生の大人の補習授業

夢咲まゆ
BL
笹野夏樹は運動全般が大嫌い。ついでに、体育教師の市川慶喜のことも嫌いだった。 ある日、体育の成績がふるわないからと、市川に放課後の補習に出るよう言われてしまう。 「苦手なことから逃げるな」と挑発された夏樹は、嫌いな教師のマンツーマンレッスンを受ける羽目になるのだが……。 ◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC) ※「*」がついている回は性描写が含まれております。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕

hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。 それは容姿にも性格にも表れていた。 なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。 一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。 僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか? ★BL&R18です。

処理中です...