神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

文字の大きさ
上 下
215 / 462
アリミネ火山~追憶のキース~

保冷石

しおりを挟む
 風呂から上がり、イオが準備してくれていた服に着替え、入り口付近の広場に向かうと、呻き声が聞こえてきた。
「グウッ…っ」
 …イオの声…。
 イオは広場のソファーに座り、顔を苦痛に歪めてソファーのシーツを握りしめていた。
 そして、有翼族のシバがイオの足元に座って、手をかざし光を放っている。
 …治療だ。
 魔法で水脹れになった足を治してくれているのだ。
 部屋中にイオの呻き声が響く。
「ぐあああっっ…っ!!」
 ゆっくりと治療する分には痛みを伴わないが、早く治そうと思うと身体にも負担をかけるので強い痛みが伴い、気絶する場合もあると言う…。
 イオは耐えているようだ。
 …それにしても、この部屋は熱い…。
 良く見ると、灰が入ってこないように扉を閉めきっているからだ。
「…キースさんですね」
 いつの間にか側にいた、小柄な男がそう言った。
「僕はイオの屋敷の使用人であり、彼の幼馴染みのチハヤと申します」
 さっき、ソファーや椅子にシーツを被せていた男だ。
「…イオに『保冷石』を渡してくれてありがとうございます。おかげで、あれくらいの火傷で済みました」
 そう言ってチハヤは微笑んで、魔法の切れた石を渡してくれた。
 キースはポーチから石を二つ取り出し、チハヤから返してもらったのと、ポケットに入れていたもの四つを右手で包み込み、魔法をかけた。
「『冷却』!!」
 四つの石はみるみる凍りつき、冷気を放ち出す。
「これ、部屋の四隅に置いておいて。…この部屋熱すぎ…。熱いと冷静な判断が出来なくなるからね…」
 そう言ってキースはチハヤに『保冷石』を渡した。
 チハヤは突然の事で戸惑っているみたいで、キースと『保冷石』を交互に見る。
「…キースさん、あなたは何者なんですか?」
 キースは苦笑いする。
「さっきイオにも聞かれた。森を守るものだよ…」
 チハヤは納得いかない顔をしたが、チハヤは『保冷石』を持って部屋の四隅に置いた。
 すると、じわりと汗ばむような部屋の温度が下がっていく。
 その頃にはイオの治療も終わり、ぐったりとソファーにもたれ掛かっていた。
 キースは微弱な頭痛を感じた。
 …限界に来ている…。
 疲労と眠気と魔力の使いすぎ…。
 『風霊』に呼ばれて、仮眠を取る程度で夜通し歩き続け、ここまで来たのだ。
 そして着いてすぐに、熱風に煽られ風のシールドを展開して、『保冷石』を二つ、その後四つも作った。
 …久しぶりに、限界まで魔力を使った…。
 部屋の四隅に『保冷石』を置いたチハヤが戻ってきて、キースの顔を覗き込んでくる。
「…顔色…悪いですよ…」
「悪い…。しばらく横になる…」
 キースの身体がふらつき、チハヤが慌てて支え、部屋の壁側に有るソファーに連れていかれた。
「ここで横になってください。後で毛布を持ってきますから…」
 キースがソファーに横たわると、一気に身体の重みが増した。
 …ヤバい…落ちる…。
「…ありが…とう…」
 キースはそう言って意識を手放していた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

けものとこいにおちまして

ゆきたな
BL
医者の父と大学教授の母と言うエリートの家に生まれつつも親の期待に応えられず、彼女にまでふられたカナタは目を覚ましたら洞窟の中で二匹の狼に挟まれていた。状況が全然わからないカナタに狼がただの狼ではなく人狼であると明かす。異世界で出会った人狼の兄弟。兄のガルフはカナタを自分のものにしたいと行動に出るが、カナタは近付くことに戸惑い…。ガルフと弟のルウと一緒にいたいと奔走する異種族ファミリー系BLストーリー。

処理中です...