神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

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アリミネ火山~追憶のキース~

予兆

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 リーンは眠ると思い出す。
 その地域にいた記憶が溢れてくる。
 また、昔の『私』の記憶…キースの記憶が流れてくる。


 キースは、地響きと気温の上昇に騒ぎ出した風霊達に呼ばれて、今まで行ったことの無い森へと足を踏み入れていた。
 見たことの無い植物や岩場が連なり、足場もいつもより悪い。
 風霊達は早く早くと騒ぐ。
 魔法を使って移動しても良いのだが、どこまで行くのかがわからないし、むやみに魔法を使って体力が奪われ、たどり着けなくては意味がない。
 足早に、風霊の導くままに、森の中を進んでいった。
「どこまで行くんだ…」
 風霊達は早く早くと言うだけで、答えてくれない。
 キースは出来るだけ早く足を動かして、長い黒髪を揺らしながら森の中を駆け抜けていった。

 
 煙臭い匂いに、キースは足を止めた。
 今までに嗅いだことの無い匂い…。
 山火事とも違う…。
 再び足を動かして進み始めると、空から何かがチラチラと降ってきた。
 …灰?
 山火事の時にも降ってくるが、その量が進むに連れて尋常な量ではなくなってくる。
 キースは布を取り出し、口元と鼻を押え隠すように頭の後ろで布を縛り、長い髪を服の中に入れて進んでいった。
 うっすらと森を覆い尽くすかのように、辺り一面が灰色に変わり出し、山の山頂付近の見渡しの良い場所に出て、目を疑った。
「…山が噴火しているのか…?」
 前方に見える山の山頂付近が赤く染まっている。
 鉄を高熱で熱したときに赤くなるような、熱気を帯びた熱さだ。
 今はかろうじて流れ出てはいないが、ブクブクと今にも溢れそうだ。
 山頂付近の木が燃えて、山火事を起こしていて、煙と灰が風向きによって地上に降り注ぐ。
 周辺に集落や町は無いのか?!
 キースは慌てて山を降り、風霊に誰か住んでいる場所に案内してもらった。
 もし、あれを止めるなどとは簡単なことではない。
 風霊達はこれを教えたくて呼んだのか?
 それとも、まだ何かあるのか?
 キースは急いだ。
 このままでは、作物も灰の下になってしまう。

 麓に降りてくると、人族の町は叫び声とざわめきで、パニックになっていた。
 家財道具を馬車や引き車に詰め込み、我先にと山から離れて港の方に向かっていく。
 キースは町の一番大きい建物に向かった。
 大抵、町や村のお偉いさんは、大きい建物に住んでいるからだ。
 上から見たとき大体の場所は把握していたので、逃げていく人混みを避けるように、端によりながら、建物にたどり着いた。
 しかし、もぬけの殻だ。
 …誰も居ない。
「…どこへ行けば現状がわかる…」
 そんな事を思っていると、若者が声をかけてきた。
「早く逃げろ!いつ噴火して溶岩が流れてくるかわからないんたぞ!」
 キースはここぞとばかりに、聞いてみた。
「誰か、あれを止めに行っているのか?」
「止めれるわけ無いだろ!自然現象だ!」
「そうか…」
「あいつらみたいなこと言ってないで早く逃げろ!」
「あいつらとは?」
 止めようとしている者がいると言うことだな。
 若者は嫌そうな顔をして、指差す。
「この町の魔力の強い、町護ちょうえい集団だ」
「ありがとう」
 そう言ってキースは若者が指差した方向に向かって走りだした。
「ヤバいと思ったら早く逃げろよ!」
 若者はそう言って、港の方に向かって走っていった。

 キースが向かった先は公園のような広場で、若い男達が五人集まって話をしていた。
 聞こえてくる会話には、どうやって溶岩を押さえるか、降り注ぐ灰を町中に入らないように、風とシールドでどこまで防げるかを話していた。
 キースが彼らに近付くと、じろりと睨まれた。
「早く避難しろ!」
「…私にも手伝わせて。これ以上森を焼きたくない!」
「…。」
 男達は顔を見合わせて、じろじろとこちらを見てくる。
「町の人間では無いな」
「風霊に呼ばれてきた」
「風霊だと!」
 五人の男達がざわめく。
「お前は風を扱えるのか?」
「風と水と…」
「…何か良い案はあるのか?」
 取りあえずは信用してくれたのだろう。
 それより、気になった事があった。
「…その前に、噴火はいつから?噴火の時、何か変わった事は無かった?」
 五人のリーダーらしき男が話してくれた。
「…噴火は今朝からだ。昨日から微弱な地震があって、山頂付近から少し煙が出ていた。山火事かと思って消化に向かったが、地中が熱くなっていていて近付けず、地面の裂け目から煙が出ているのを確認した」
「…それが予兆…」
「もしもの為に、町民には避難出きるように準備しておくようにと言ったが、聞いてくれなかった」
 男は気まずそうな顔をしている。
 目の前で起こらなければ、危険だと、なかなか信じてはもらえないだろう。
 実際に噴火を目にして、慌てたのが現実だ。 
「炎を扱える者はいるのか?」
「ああ、二人」
 男が二人頷く。
「あれを押さえられる?」
「まず近付くのが無理だ。熱風にやられて燃えてしまう」
「風を使えるものは?」
「二人いる」
「二人一組になって、風のフィールドで熱風を防御して、炎に近付けるかだな…」
 四人は頷き、風のフィールドで仲間と一緒に空に舞い上がる。
「様子を見るだけだ。どこまで近付けるか、何か気が付いた事を報告するんだ。無理するなよ!」
「了解!」
 二人一組になって、二つの風のフィールドはアリミネ火山に向かって飛んで行った。
 残されたキースとリーダーの男は、煙が出ていた裂け目に向かった。
「始まりがソノ煙なら、何かあると思うんだけど…」
 それはキースのカンだった。
 風霊は熱さに負けて、話しかけては来ない。
 けれど、何かある。
 …そんな気がした。



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