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神の宿り木~再生~

水人の兄弟

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 リーンは思わす声をかけてしまった。
「顔色が悪いけど大丈夫?」
 二人はハッとして振り向いた。
 明るい青い瞳に耳元に残るエラ筋に、やはり水人族だと確信する。
 声をかけられると思っていなかった二人は、戸惑いながら立ち上がり、小川の中を後ずさる。
 …警戒されているよな…。
「二人で歩いてきたの?」
 リーンが訪ねると二人は頷く。
「どこから?」
 二人は顔を見合せて、答える。
「セイレン岬から…」
 セイレン岬はカザンナ王国の海辺の都市にある、突き出た先端の岬の事だ。
 そこから歩いて来たのだとすると、ここまでに何日もかかっているはず。
 疲れもピークになり、疲労がたまってきているのだろう。
 このまま、リオナスにたどり着くのは困難だ。
「…『水球』を作れる?」
「『水球』?」
 二人は首を傾げた。
 リーンは小川に右手を差し出し、
「『水球』」
 小川から水が吸い寄せられるように水が集まり、水の玉を作り出す。
「こんなのだよ」
 そう言ってリーンは小さい『水球』を手のひらに乗せて差し出す。
「水の玉なら出きるけど…」
 兄の方がそう答える。
「この先は、川があまりない。『水球』を確保してからリオナスに向かった方が良いよ」
 リオナスの地形が、どんな場所か知らずに行くのは無謀すぎる。
「…。」
「やっぱり無理だよ…」
 少し幼い青年は瞳を潤ませて、兄に伝える。
「…足も痛いし、僕は歩けないよ…」
「けれど…」
 兄の方は諦めきれないようだ。
「今の準備をしていない状態ではなく、万全の準備をしてからリオナスに向かって方が良い…」
 どう伝えてあげたら良いのか…。
「リーンさん。どうされました?」
 そう言ってカズキが近づいてきて、二人を見て驚く。
「…水人族の方ですか?」
「そうなんだ。リオナスに向かうのは良いんだけど、装備がね…」
 リーンが苦笑いしながら答えると、カズキは二人を見て唸る。
「…そうですね。このままでは、行き倒れになります。…出来たら、一、二年ほど待ってもらえますか?」 
「…一、二年?」
 水人族の二人はじっとカズキを見る。
「水人族の方達にも来てもらえるように、今、対策を考えているところですから…」
「カズキ。…二人をダレスの所で預かれるかな…」
 水人族の兄弟を見ていると、好奇心旺盛で、いろんな魔法を試していた頃の、ヒイロと自分を見ているようで、何とかしてあげたかった。
「…テリトリーが違うみたいなので、聞いてみないと分かりませんが、リーンさんのお願いだったら預かってくれると思いますよ」
 リーンは二人を見る。
「…人魚の湖フールシアを知っている?」
 二人は頷く。
「満月には近づいてはいけないな湖…」
「そこで『天水球』を習うと良い。そうすれば、早くリオナスに来ることが出きるようになる。紹介状を渡すから…場所は…」
「なんとなく、知っている」
 …そうだろう。
 セイレン岬からここまで来たのだ。
 道案内をしてもらえる魔法を使えるのだろう。
「そこに行って、『天水球』と言うのを覚えれば、リオナスに行けるのか?」
「そうだね。来れるんじゃないかな…。今、あそこの若い水人達も練習中だから、来るときは一緒に来ると良いよ」
 リーンはそう言って微笑む。
「…わかった。フールシアに向かう」
 兄の方がそう言うと、弟の方がホッとして、肩の力を抜いた。
 カズキは話は決まったとばかりに、馬車に荷物を取りに行って戻ってくる。
「お弁当、食べませんか?たくさんあるので二人では食べきれないし」
 カズキは川辺の日影に敷物を敷くと、お弁当を広げだした。
 パンに魚のフライを挟んだサンドイッチ。
 野菜スティック、魚のマリネを串に刺したものなど。
 片手で摘まんで食べやすいようにしたものばかりだ。
 移動しながら食べれるように配慮したされたお弁当だ。
 リーンも敷物に腰をおろして、二人に声をかける。
「おいで、道のりは長い。しっかり食べて、体力つけておかないと、簡単な魔法も使えなくなるよ」
 二人は小川から食事を見て、ごくりと唾を飲み込み、顔を見合せ近づいてきた。
「どうぞ」
 二人は敷物に座り、サンドイッチに手を伸ばし、一口噛る。
「…美味しい」
「久しぶりのまともな食事だ…」
 そう言って黙々と食べ出した。
 リーンもカズキも一緒に食べながら、二人に話を聞いた。
 道中、保存食を食べ繋ぎ、森の果実を見つけては食べ、川に魚がいれば捕まえてを繰り返していたそうだ。
 それで、よくここまで来たな…と、思わす感心してしまうくらいだ。
 きっと彼らなら、フールシアの若い者達と上手く交流出来る、そんな事を思った。

 
  

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