神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

文字の大きさ
上 下
185 / 462
神の宿り木~遡る時間~

リーンの始まり 1

しおりを挟む
 「…あぁ…始まりの…宿り…木…」
 それが合図のように、リーンの脳裏に、たくさんの情報と記憶と映像が溢れ出す。
 それに頭が付いていかず、リーンはその場に崩れ落ち、意識を失った。


 リーンは深い眠りについていた。
 脳裏に映し出される記憶と情報…。
 膨大な映像の波にのまれ、深い深い場所にまで、沈んでいった。
 気が付くと、真っ暗な闇の中に、一ヶ所だけ光を放っていた。
 リーンはそれに近づき、それが始まりの映像だと知る。
 …誰かの記憶…始まりの…宿り木の…記憶…。


 宿り木に寄りかかる、息を絶えかけた女性のお腹が膨れていた。
 女性の息が絶えても、母胎の中の胎児は脈打ち、まだ生きていた。
 木霊が囁きかけ、女性の身体が、宿り木の中に取り込まれていき、胎児は宿り木の中で生きていた。

 時間が経過し、少しずつ成長していく胎児。
 長い長い時間がかかって身体だけが子供の姿になっていた。
 
 宿り木の隙間から、中に眠る子供が羊水に浮かんでいるのが見えた。
 旅人がそれを見つけて、手を差し込み、宿り木の中から子供を引き出した。
 旅人は木霊と水霊を扱えるみたいで、宿り木を傷付ける事無く子供を取り出していた。
 眠ったままの子供の身体を暖め、呼吸が出来るように介抱すると子供はゆっくりと目を開けた。
 黒髪の森の緑色の瞳。
 旅人は無垢な子供に言葉を教え、衣食住を教え、みるみる覚えていく子供に微笑んでいた。
 そして旅人は子供を連れて行くことに決めた。
 旅人と子供は、宿り木のある山を降り始めた。

 子供は不思議な力を使った。
 木霊や水霊、風霊が常に側にいて、子供を守っているみたいだった。
 旅人は木霊と水霊を見ることが出来たが、行く場所場所の住民達は見えない者が多くいて、気味悪がられていた。
 それでも旅人は子供を連れて旅をしていた。

 森の中で、旅人と子供が獣に襲われ、息を絶えようとしていた。
 子供の目から涙が一滴落ちると、大地からつたが出現して、子供を呑み込んでいった。
 そして子供を守るように、包むようにつたが大木のようになって、森の中に鎮座した。
 旅人は微笑みながら息を絶えていた。

 そんなことが幾度も繰り返され、森の中の場所を移動していった。


 ある時、一人の獣人が木の中に眠る子供を見つけた。
 その場所は魔素が濃く、ほとんど誰も近付かない獣人の集落より奥地にあった。
 獣人が中から取り出そうとしても、木霊が離してくれなかった。
 獣人は仕方なく、様子を見ながら、側に小さな小屋を建てた。
 立ち枯れた木や、木霊が『コレなら良いよ』と、言う木を使って、この場所で寝泊まりできる場所を作り上げた。
 ただ、その獣人も長時間はいることが出来ず、しばらくすると小屋を離れていった。
 しかしまた、やって来ては、子供を守る木霊に話しかけていた。
 何人もの獣人が様子を見にやってきた。
 
 どれだけの時間が過ぎてきたのかわからない…。
 木の中に眠る子供は少年になっていた。
 そしてある日、目を開けた。
 少年は自ら木の中から出てきたのだ。
 ほんの少しの記憶と、膨大な魔力を持って…。

 獣人達は少年に魔力の使い方を教えた。
 いつか、その魔力で森を破壊してしまわないように…。
 森を守るように…。
 魔力がコントロール出来るようになるまでは、この森から出ないように、言いくるめた。
 少年は素直に頷いた。
 …無垢なままの状態で、魔素の濃いこの森で、水霊や木霊、風霊達と一緒に、獣人達に教えられ、成長していった。

 時々少年は、獣人に連れられて、森を出ていった。
 困っている獣人の村に連れていかれ、獣人達の見えない水霊や風霊や土霊、木霊達の相談に乗って、二つの仲介者になって、村の役に立っていた。
 それが終わると、また森に帰り、魔法を使って遊んでいた。
 だから一部の獣人にとっては、村を守るため、森を守るため大切な存在だった。
 だが、どこにでも、一人占めしようと悪巧みを企むものがいて、村に行くため森を出たところを狙われ、少年は傷をおってしまった。
 再び蔦が少年を包み込み、大地に呑み込まれ姿を消した。 


 少年は、長い時間眠っていた魔素の濃い森の、木の中に戻ってきていた。
 少年は眠りながら、傷を癒していた。

 その間、少年の助けをもらえない為、獣人の村がいくつも消えた。
 代わりに行き場を無くした獣人が集まり、多種族の獣人の町が出来ていた。
 始めに魔素が濃い森で、少年を見つけた獣人の子孫が集落を町にしていたのだ。
 その町の名前がグオルク。
 眠る少年の元にたどり着けるのは、強い魔力を持ち、風霊や木霊達が認めたものだけ…。
 いろんな種族の獣人達は、眠る少年を見守っていた。

 少年は目覚めると、膨大な魔力を持ち、ほとんどの記憶を失っていた。
 獣人達は再び言葉を教え、衣食住を伝え…。
 それでも、一度記憶していることは、身体が覚えているのか、直ぐに身に付き、眠る前と変わらないくらい魔法を使えた。

 それでもまた、少年は瀕死の状態になり、眠ったり目覚めたりを繰り返した。
 そして獣人族のリーダー達のみが少年に会え、一族に代々伝えられていった。

 いつしか、森で暮らす獣人達を助けてくれる『森の管理者』と呼ばれて…。


 幾度も目覚めては眠って…。
 記憶をほとんど失ってしまう少年の名前は、目覚める度に変わった。
 別人なのだと思えるくらい、性格も変わったからだ。
 そして十八回目に目覚めた、その子の名前はリーンと呼ばれた。 

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

けものとこいにおちまして

ゆきたな
BL
医者の父と大学教授の母と言うエリートの家に生まれつつも親の期待に応えられず、彼女にまでふられたカナタは目を覚ましたら洞窟の中で二匹の狼に挟まれていた。状況が全然わからないカナタに狼がただの狼ではなく人狼であると明かす。異世界で出会った人狼の兄弟。兄のガルフはカナタを自分のものにしたいと行動に出るが、カナタは近付くことに戸惑い…。ガルフと弟のルウと一緒にいたいと奔走する異種族ファミリー系BLストーリー。

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。 帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか? 国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。

処理中です...