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神の宿り木~遡る時間~
リーンの始まり 1
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「…あぁ…始まりの…宿り…木…」
それが合図のように、リーンの脳裏に、たくさんの情報と記憶と映像が溢れ出す。
それに頭が付いていかず、リーンはその場に崩れ落ち、意識を失った。
リーンは深い眠りについていた。
脳裏に映し出される記憶と情報…。
膨大な映像の波にのまれ、深い深い場所にまで、沈んでいった。
気が付くと、真っ暗な闇の中に、一ヶ所だけ光を放っていた。
リーンはそれに近づき、それが始まりの映像だと知る。
…誰かの記憶…始まりの…宿り木の…記憶…。
宿り木に寄りかかる、息を絶えかけた女性のお腹が膨れていた。
女性の息が絶えても、母胎の中の胎児は脈打ち、まだ生きていた。
木霊が囁きかけ、女性の身体が、宿り木の中に取り込まれていき、胎児は宿り木の中で生きていた。
時間が経過し、少しずつ成長していく胎児。
長い長い時間がかかって身体だけが子供の姿になっていた。
宿り木の隙間から、中に眠る子供が羊水に浮かんでいるのが見えた。
旅人がそれを見つけて、手を差し込み、宿り木の中から子供を引き出した。
旅人は木霊と水霊を扱えるみたいで、宿り木を傷付ける事無く子供を取り出していた。
眠ったままの子供の身体を暖め、呼吸が出来るように介抱すると子供はゆっくりと目を開けた。
黒髪の森の緑色の瞳。
旅人は無垢な子供に言葉を教え、衣食住を教え、みるみる覚えていく子供に微笑んでいた。
そして旅人は子供を連れて行くことに決めた。
旅人と子供は、宿り木のある山を降り始めた。
子供は不思議な力を使った。
木霊や水霊、風霊が常に側にいて、子供を守っているみたいだった。
旅人は木霊と水霊を見ることが出来たが、行く場所場所の住民達は見えない者が多くいて、気味悪がられていた。
それでも旅人は子供を連れて旅をしていた。
森の中で、旅人と子供が獣に襲われ、息を絶えようとしていた。
子供の目から涙が一滴落ちると、大地から蔦が出現して、子供を呑み込んでいった。
そして子供を守るように、包むように蔦が大木のようになって、森の中に鎮座した。
旅人は微笑みながら息を絶えていた。
そんなことが幾度も繰り返され、森の中の場所を移動していった。
ある時、一人の獣人が木の中に眠る子供を見つけた。
その場所は魔素が濃く、ほとんど誰も近付かない獣人の集落より奥地にあった。
獣人が中から取り出そうとしても、木霊が離してくれなかった。
獣人は仕方なく、様子を見ながら、側に小さな小屋を建てた。
立ち枯れた木や、木霊が『コレなら良いよ』と、言う木を使って、この場所で寝泊まりできる場所を作り上げた。
ただ、その獣人も長時間はいることが出来ず、しばらくすると小屋を離れていった。
しかしまた、やって来ては、子供を守る木霊に話しかけていた。
何人もの獣人が様子を見にやってきた。
どれだけの時間が過ぎてきたのかわからない…。
木の中に眠る子供は少年になっていた。
そしてある日、目を開けた。
少年は自ら木の中から出てきたのだ。
ほんの少しの記憶と、膨大な魔力を持って…。
獣人達は少年に魔力の使い方を教えた。
いつか、その魔力で森を破壊してしまわないように…。
森を守るように…。
魔力がコントロール出来るようになるまでは、この森から出ないように、言いくるめた。
少年は素直に頷いた。
…無垢なままの状態で、魔素の濃いこの森で、水霊や木霊、風霊達と一緒に、獣人達に教えられ、成長していった。
時々少年は、獣人に連れられて、森を出ていった。
困っている獣人の村に連れていかれ、獣人達の見えない水霊や風霊や土霊、木霊達の相談に乗って、二つの仲介者になって、村の役に立っていた。
それが終わると、また森に帰り、魔法を使って遊んでいた。
だから一部の獣人にとっては、村を守るため、森を守るため大切な存在だった。
だが、どこにでも、一人占めしようと悪巧みを企むものがいて、村に行くため森を出たところを狙われ、少年は傷をおってしまった。
再び蔦が少年を包み込み、大地に呑み込まれ姿を消した。
少年は、長い時間眠っていた魔素の濃い森の、木の中に戻ってきていた。
少年は眠りながら、傷を癒していた。
その間、少年の助けをもらえない為、獣人の村がいくつも消えた。
代わりに行き場を無くした獣人が集まり、多種族の獣人の町が出来ていた。
始めに魔素が濃い森で、少年を見つけた獣人の子孫が集落を町にしていたのだ。
その町の名前がグオルク。
眠る少年の元にたどり着けるのは、強い魔力を持ち、風霊や木霊達が認めたものだけ…。
いろんな種族の獣人達は、眠る少年を見守っていた。
少年は目覚めると、膨大な魔力を持ち、ほとんどの記憶を失っていた。
獣人達は再び言葉を教え、衣食住を伝え…。
それでも、一度記憶していることは、身体が覚えているのか、直ぐに身に付き、眠る前と変わらないくらい魔法を使えた。
それでもまた、少年は瀕死の状態になり、眠ったり目覚めたりを繰り返した。
そして獣人族のリーダー達のみが少年に会え、一族に代々伝えられていった。
いつしか、森で暮らす獣人達を助けてくれる『森の管理者』と呼ばれて…。
幾度も目覚めては眠って…。
記憶をほとんど失ってしまう少年の名前は、目覚める度に変わった。
別人なのだと思えるくらい、性格も変わったからだ。
そして十八回目に目覚めた、その子の名前はリーンと呼ばれた。
それが合図のように、リーンの脳裏に、たくさんの情報と記憶と映像が溢れ出す。
それに頭が付いていかず、リーンはその場に崩れ落ち、意識を失った。
リーンは深い眠りについていた。
脳裏に映し出される記憶と情報…。
膨大な映像の波にのまれ、深い深い場所にまで、沈んでいった。
気が付くと、真っ暗な闇の中に、一ヶ所だけ光を放っていた。
リーンはそれに近づき、それが始まりの映像だと知る。
…誰かの記憶…始まりの…宿り木の…記憶…。
宿り木に寄りかかる、息を絶えかけた女性のお腹が膨れていた。
女性の息が絶えても、母胎の中の胎児は脈打ち、まだ生きていた。
木霊が囁きかけ、女性の身体が、宿り木の中に取り込まれていき、胎児は宿り木の中で生きていた。
時間が経過し、少しずつ成長していく胎児。
長い長い時間がかかって身体だけが子供の姿になっていた。
宿り木の隙間から、中に眠る子供が羊水に浮かんでいるのが見えた。
旅人がそれを見つけて、手を差し込み、宿り木の中から子供を引き出した。
旅人は木霊と水霊を扱えるみたいで、宿り木を傷付ける事無く子供を取り出していた。
眠ったままの子供の身体を暖め、呼吸が出来るように介抱すると子供はゆっくりと目を開けた。
黒髪の森の緑色の瞳。
旅人は無垢な子供に言葉を教え、衣食住を教え、みるみる覚えていく子供に微笑んでいた。
そして旅人は子供を連れて行くことに決めた。
旅人と子供は、宿り木のある山を降り始めた。
子供は不思議な力を使った。
木霊や水霊、風霊が常に側にいて、子供を守っているみたいだった。
旅人は木霊と水霊を見ることが出来たが、行く場所場所の住民達は見えない者が多くいて、気味悪がられていた。
それでも旅人は子供を連れて旅をしていた。
森の中で、旅人と子供が獣に襲われ、息を絶えようとしていた。
子供の目から涙が一滴落ちると、大地から蔦が出現して、子供を呑み込んでいった。
そして子供を守るように、包むように蔦が大木のようになって、森の中に鎮座した。
旅人は微笑みながら息を絶えていた。
そんなことが幾度も繰り返され、森の中の場所を移動していった。
ある時、一人の獣人が木の中に眠る子供を見つけた。
その場所は魔素が濃く、ほとんど誰も近付かない獣人の集落より奥地にあった。
獣人が中から取り出そうとしても、木霊が離してくれなかった。
獣人は仕方なく、様子を見ながら、側に小さな小屋を建てた。
立ち枯れた木や、木霊が『コレなら良いよ』と、言う木を使って、この場所で寝泊まりできる場所を作り上げた。
ただ、その獣人も長時間はいることが出来ず、しばらくすると小屋を離れていった。
しかしまた、やって来ては、子供を守る木霊に話しかけていた。
何人もの獣人が様子を見にやってきた。
どれだけの時間が過ぎてきたのかわからない…。
木の中に眠る子供は少年になっていた。
そしてある日、目を開けた。
少年は自ら木の中から出てきたのだ。
ほんの少しの記憶と、膨大な魔力を持って…。
獣人達は少年に魔力の使い方を教えた。
いつか、その魔力で森を破壊してしまわないように…。
森を守るように…。
魔力がコントロール出来るようになるまでは、この森から出ないように、言いくるめた。
少年は素直に頷いた。
…無垢なままの状態で、魔素の濃いこの森で、水霊や木霊、風霊達と一緒に、獣人達に教えられ、成長していった。
時々少年は、獣人に連れられて、森を出ていった。
困っている獣人の村に連れていかれ、獣人達の見えない水霊や風霊や土霊、木霊達の相談に乗って、二つの仲介者になって、村の役に立っていた。
それが終わると、また森に帰り、魔法を使って遊んでいた。
だから一部の獣人にとっては、村を守るため、森を守るため大切な存在だった。
だが、どこにでも、一人占めしようと悪巧みを企むものがいて、村に行くため森を出たところを狙われ、少年は傷をおってしまった。
再び蔦が少年を包み込み、大地に呑み込まれ姿を消した。
少年は、長い時間眠っていた魔素の濃い森の、木の中に戻ってきていた。
少年は眠りながら、傷を癒していた。
その間、少年の助けをもらえない為、獣人の村がいくつも消えた。
代わりに行き場を無くした獣人が集まり、多種族の獣人の町が出来ていた。
始めに魔素が濃い森で、少年を見つけた獣人の子孫が集落を町にしていたのだ。
その町の名前がグオルク。
眠る少年の元にたどり着けるのは、強い魔力を持ち、風霊や木霊達が認めたものだけ…。
いろんな種族の獣人達は、眠る少年を見守っていた。
少年は目覚めると、膨大な魔力を持ち、ほとんどの記憶を失っていた。
獣人達は再び言葉を教え、衣食住を伝え…。
それでも、一度記憶していることは、身体が覚えているのか、直ぐに身に付き、眠る前と変わらないくらい魔法を使えた。
それでもまた、少年は瀕死の状態になり、眠ったり目覚めたりを繰り返した。
そして獣人族のリーダー達のみが少年に会え、一族に代々伝えられていった。
いつしか、森で暮らす獣人達を助けてくれる『森の管理者』と呼ばれて…。
幾度も目覚めては眠って…。
記憶をほとんど失ってしまう少年の名前は、目覚める度に変わった。
別人なのだと思えるくらい、性格も変わったからだ。
そして十八回目に目覚めた、その子の名前はリーンと呼ばれた。
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