神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

文字の大きさ
上 下
182 / 462
神の宿り木

ジョリジョリ

しおりを挟む
 どれくらいの時間が経ってしまったのか分からない。
 この部屋にとじ込もって、リーンの寝顔を見て、時折、誰かが運んでくる食事を食べて…。
 今にも目を覚ましそうな、リーンの側に居ることぐらいしか、今の俺には出来ない…。
 やらなくてはいけない仕事が有るのは分かっている。
 だが、手に付かない…。
 こんなにも、気持ちが沈んでしまうとは思わなかった。
 リーンが出掛けていって側に居なくても、必ず帰ってくると分かっていたから、寂しくても別に不安はなかった。
 …側に居るのに…いつになったら目覚めるのか分からない、リーンが側に居ることの方が、これ程不安になるものだとは思いもしなかった。
 リーンは、浅い息をしてはいるが、まるで時間が止まってしまったかのように、眠っている…。
 出会った頃から変わらない姿の…もともと人族のように成長しているわけでも無いようだったから、不思議では無いのだが…リーンの周りだけが時間の流れが違っているようだ。
 頬に触れればほんのり暖かいし、生きてはいる。
 生きてはいるが…。
 …堂々巡りだ…。
 分かってはいる。
 分かってはいるが…頭と身体が拒否反応を起こす。
 …側にいたいと…。


「…お父様…」
 遠慮がちに小さな声が聞こえた。
 …幻聴が聞こえる。
 ここには居ない、子供達の声が聞こえたのだ。
 …だいぶん、弱ってきている…。
 自分で自覚しながも動けないでいると、ルークの両脇に暖かい温もりが触れた。
 ジーンとユーリ…。
 二人がルークの顔を除き込んでくる。
「お父様…おひげ、ジョリジョリ…」
 そう言ってジーンがルークの伸びた髭に触ってくる。
「本当だ。ジョリジョリ…」
 そう言ってユーリも髭に触ってくる。
 …そう言えば、リーンの側に居始めてから、髭を剃った覚えか無い…。
 ルークの思考が少し浮上してくる。
「…リーン、本当に眠っているね…」
「眠ってるね…」
 二人がベッドに眠るリーンを覗き込んでいる。
「どうしたら、目が覚めるかな…」
「…お姫様は王子さまのキスで、目が覚めたよ」
 ユーリが物語の、眠ったままのお姫様を目覚めさせた方法を話し出す。
「…何度もしてるが目覚めないんだ…」
 ルークはそう言って、子供達を見た。
 ジーンとユーリは心配そうにこちらを見てくる。
 …そんなに…ひどい状態になっているのか…?
「…リーンは眠っているだけ?」
「…そうだ。眠ったままなんだ…」
「…お父様は眠っている?」
「…。」
 正直、あまり眠れていない…。
 いつ目覚めるのだろう…。
 眠っているうちに、居なくなってしまわないか…。
 そんな不安に刈られて、浅い眠りにしか入れなくなってしまっている。
「…僕たちがリーンを見ているから、大丈夫だよ」
「目が覚めたら、直ぐに呼びに行くから」
 子供達にそう言われて、段々と現実に戻ってくる。
 …そう言えば、なぜココに子供達が居るんだ…?
「…学校は…」
 ルークがそう言うと、ジーンとユーリが顔を見合せ微笑む。
「お休みだよ」
「キリトとチイさんに連れてきてもらっての」
「…学校が、休み…」
 もう、そんなに時間が経っているのか…。
「お父様がリーンを一人占めしてるって…だから、会いに来たの」
「…一人占め…」
 そうか、一人占めか…。
「ずっと一緒に居るんでしょ」
「僕たちもリーンと、一緒に居たい」
 そう言って、ジーンとユーリがリーンの眠っている布団の中に潜り込む。
「リーンの身体、冷たいね」
「僕たちで暖めてあげよう」
 そう言って、ジーンとユーリは眠るリーンにぴったりとくっついて、温め始める。
 …そうだ。
 子供達にこんな、何も手に付かない、情けない姿を見せるわけにはいかない。
 リーンは眠っているだけ…。
 俺の側にいるのだから…。
 …子供達がリーンを見ていてくれるのだから…。
 ルークはゆっくりと立ち上がり、部屋に備え付けのシャワールームに向かった。
 …本当に、何日ぶりなのだろう…。
 シャワーを浴びて、髭を剃って…。
 リオナスを任せられた、カザンナ王国の王子に戻るのは…。
 …少し、やつれてしまったな…。
 鏡を見ながら、そう、自問する。
 …皆にも、迷惑をかけてるな…。
 一緒にリオナスに来ている側近は、俺の居ない分の穴埋めを必死にしているだろう…。
 …休んでしまった分を、取り戻さないと…。
 
 ルークがシャワールームから出てくると、リーンの横でジーンとユーリが寝息を立てて眠っていた。
「…。」
 そんな寝顔を見ながらルークは微笑んだ。
 ジーンとユーリのおかげで、正気を取り戻した。
 リーンが目覚めたとき、リオナスがリーンの望むような、獣人族と人族が共存できる町になっているように、しなければ…。
 ルークはリーンが目覚めるまでの目標を見据えた。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...