神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

文字の大きさ
上 下
180 / 462
神の宿り木

ヒイロの叫び

しおりを挟む
 ヒイロは役所内が一望できる、二階の階段上に向かい、アオがその後を追って付いて来た。
 見守り人として、付いてきたのだろう。
 二階の階段上に来ると、ヒイロは深呼吸して、大声を上げた。
「てめえら!!いい加減にしやがれ!!」
 ヒイロの声が役所内に響き渡り、しーんと静まり返る。
 アオは驚いて、目を見開いている。
 獣人族にカツをいれるには、どうしても、こう言ったやり方になってしまう。
 一階を覗けば、すべての者達がこちらを見ている。
 最初の目的は達成させた。
「自分達で解決できることは自分達で始末を付けろ!」
 ざわざわと一階が騒ぎ出す。
「出来ないから来てるんだろ!」
「何とか出来ないのか?!」
 獣人達は口々に言いたい放題言い出す。
「お前達は、ココで一旗上げたくて、来たのでは無いのか?ただ、ゴネる為に来たのか?!」
「…。」
 彼らは、本来の目的を忘れている。
 新しい町で、新しい生活をするために、ココに来たのではないのか?
「…でもよ…人族が仕切ってるって…頼りなくて…」
「…何で獣人族で、ないのだ…」
 やっぱり、最終的にはそこに来るんだな。
 人族と獣人族と仲良く協力し合って、新しい町を作る、始まりの町にするために、ココに集ったはずなのに…。
「…リオナスのリーダーが人族なのが、気に入らないのか?それが、人族の王族だとしても…」
 ヒイロは怪訝に思った。
 この町に集うものは、知っているはずの事を知らない…。
「それは、人族ではだろう…」
 ぼそぼそと呟く声が聞こえる。
 …知らないのだ。
 やはり、この町を作った目的を…。
 だったら、やはり仕方ない。
「…ならば、森の管理者リーンの、魔力のつがいであってもか?!」
「…。」
「…リーンだと…」
「リーンの番…?!」
 再び、ざわめきが起こり始める。
 やはり、それすら知らない。
 新しく入居する住民には、しっかりとその事を伝える場を作った方が良いのかもしれない。
 特に獣人には…。
「…何でルークが、このリオナスのリーダーに選ばれたのか、後から来た奴らは知らないんだな…」
 ヒイロはため息をついた。
 リオナスが出来た当初から、この町作りを手伝ってくれた者達は皆、知っている事…。
 改めて、言うことになるとは思わなかった。
「ルークは人族のカザンナ王国の第三王子だ。それと同時に、森の管理者リーンの魔力のつがいでもあり、二人の間には二人の子供もいる!それがどう言うことか、獣人なら分かるだろう!」
 そしてヒイロは叫んだ。
「そのつがいのリーンが十日以上、眠ったまま目覚めないんだ!憔悴して仕事にならないくらい、追い込まれているんだ!少しは仕事を減らしてやれ!」
 ヒイロの叫びに、獣人達は硬直して黙ってしまった。
 そしてヒイロは、ため息を付いて静かに言う。
「リーンが眠ったままと言うことが、どう言う事か分かるだろう。森で何かあっても助けてはくれない。自分達で森を守るしかないんだぞ…。小競り合いしている場合じゃない…」
 一階がざわざわとざわめき出す。
「一度家に帰って、頭を冷やしてこい!それでも、解決できないなら、グオルクのヒイロが面倒を見てやる!」
 ヒイロがそう言い放つと、一人二人と、役所を出ていく獣人達の姿が増え始め、最終的には、騒いでいた獣人全てが一度帰って行った。
 ヒイロは大きいため息をついた。
「俺だって調査から帰ってきて、疲れてるんだ。少しはゆっくりとさせてくれ…」
 ボソリと言ったヒイロに、側にいたアオが苦笑いした。
『お疲れさまでした。俺たちでは、なかなか言えない事です』
 アオが紙にそう書いて、ヒイロに見せてくる。
「…お前も結局、休まずココに来ているんだな…」
 声が出なくなって、魔力も戻らず、養生していると思っていたが…。
『じっとしているのは、一日で飽きました。ルーク様も心配ですし、雑用くらいは出来ますから』
 アオはそう書いて微笑んだ。
「無理するなよ…。さてと…」
 ヒイロは執務室に戻りながら、これからの段取りを考えた。
 何とかして、ルークをいつもの状態に戻さないと、こちらにも皺寄しわよせが来てしまう。
 ルークを正気に戻らせることが出来るもの…。
 一番はリーンが目覚めること…。
 その次は…。
 ヒイロは思い付き、アオを見て提案した。
「ジーンとユーリをココに連れてこれないか?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。 帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか? 国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。

処理中です...