神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

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神の宿り木

アオとアレク 1

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 六人でココまで来たが、アオは限界を感じていた。
 急激に体温が下がり始め、冷や汗が流れ始める。
 これ以上、近付くなと、身体が拒否反応を起こしている。
 立ち枯れがまばらになり、森が開け、集落跡が見えると、いっそうソレが強くなった。
 遠目にも、家の土台の残骸が、あちらこちらに点在しているのが見え、背筋が震えた。
「…ごめん…ココから先は…無理…」
 そう言って先に立ち止まったのは、青ざめたアレクだった。
 最年少ながら、良くココまで付いてこれたよな…。
 …俺も一緒にギブアップだ。
「…俺も…無理そう…」
 アオはそう言って、冷や汗を拭った。
 無理をして付いていっても、足手まといにしかならない。
 何か有ったとき、皆にも迷惑をかける…。
 アレクと一緒に戻ろう…。
 …二人一組行動が基本だから、ちょうどいい。
「…戻れるだけの魔力は有るよね」
 リーンが心配そうに声を掛けてくる。
「うん。ギリギリ…」
「…何とか…」
 いざとなったら、あまり使いたくないが魔法石がある。
 出来たら使わないよう、急いで戻るしかない。
 アオはアレクと共に、四人に背を向け歩き出した。
 足取りは重いが、ココから離れれば、少しは楽になるだろう。
 二人は黙々と歩いて、元来た道を戻り始めた。


 二人の荒い息と、落ち葉を踏む足音だけが響く。
 日はだいぶん傾いているから、急がなくてはいけない。
 日が落ちて、辺り一面が暗くなってしまうと、今、来た道が見えなくなってしまい、下手をすれば迷子になってしまう。
 …アレクの歩くペースが落ちてきている。
「少し休憩するか?」
「…はぁ…はぁ…だい…丈夫…」
 かなりの疲労がまたっているようだ。
 …大丈夫と言うなら仕方ない。
 進めるところまで進もう。
 そして日が沈む前に、『瞬脚移動しゅんきゃくいどう』短い距離を連続して飛ぶ『移動』に切り替えて、森の中を走ろう。
 少しでも山小屋に近付いていないと、本当に帰れなくなってしまう…。
 …『魔法石』を使うしかないか…。
 アオはそんな事を考えながら、切り開いた道を進んでいた。


「…アレクは『瞬脚移動しゅんきゃくいどう』を使えるか?」
 必死に後を付いてくるアレクに声をかける。
 日が山に掛かった。
 …ココがギリギリラインだ。
「はぁ…はぁ…俺は…有翼族だ。…空を…飛んで…移動…するから…はぁ…はぁ…」
 …愚問だった。
 つい、有翼族だと言うことを忘れていた。
「少しは飛べるな」
「…魔力を…使い切ってしまう…」
 体力的にも、長距離は飛べないだろう…。
「…このまま歩くのと、飛ぶのと、どちらが山小屋まで近付ける?」
「…飛ぶ」
「…だったら、行くぞ!」
 アオはチラリと疲労困憊しているアレクを見る。
 これから、こう言う決断力もアレクには必要になるだろう。
「…わかった」
 アオは進む方向に狙いを定めて、魔法を発動した。
「『瞬脚移動しゅんきゃくいどう』!」
「『跳躍ちょうやく』!」
 二人は急いで、移動し始めた。

 
 だんだんと日が山に隠れ、辺りが薄暗くなっていく。
 アオは時折アレクが付いてきているか、確認しながら『瞬脚移動しゅんきゃくいどう』を使っていた。
 アレクの飛行高度がどんどんと、下がってきているからだ。
 …どこまで飛べる!
 辺りが暗くなり、視界にアレクを捉えにくくなってきた。
 ザサッと滑るような音がして、アオは足を止め振り向いた。
 アレクが墜落して、地面にへばり付いている。
 直ぐにアオはアレクの元に戻り、身体を起こした。
「はぁ…はぁはぁ…はぁ…はぁ…」
 苦しそうに息をするのが、やっとのようだ。
 アオは胸元から鎖を引っ張り、いつも身に付けているペンダントを取り出す。
 深い青色をした魔法石が嵌め込まれているペンダント。
 これは、リーンと出会った頃、リーンが研磨し、その中から選んだ魔法石。
 今まで一度も使ったことのなかった、最終手段の宝物。
 アオはアレクを背中に担ぎ、フラりとよろける。
 まだ、アレクが小柄な方で良かった。
 これがダグラスだったら、絶対に俺が潰れてる。
「アレク、俺の首に捕まるだけの腕の力はあるか?」
「…はぁ…はぁ…はぁ…」
 返事は無いがアオの首ともで、アレクの両手と両腕が重なり合い、しっかりと結ばれる。
「落ちるなよ」
 アオは両手でペンダントの魔法石を包み込み、同調する。
 …魔法石、俺に魔力を分けてくれ!
 すると、魔法石が淡く青色に輝きだし、アオを包み込む。
「『瞬脚移動しゅんきゃくいどう』!」
 アオはアレクの両足を支えて、薄暗森の中を移動し始めた。

 …遠くに、ほのかな明かりが見えた。
 多分あれが山小屋だ。
 あそこまで、たどり着けるだろうか…。
 森は既に真っ暗で、時折、月明かりが足元を照らしてくれるくらいだ。
 後少し…もう少し…。
 アオは必死に『瞬脚移動しゅんきゃくいどう』を繰り返した。
 
 
 山小屋の姿を視界に捉えたとき、魔法石の淡い光が弱まり始めた。
 …もう少し、もってくれ…。
 アオは祈りを込めて願ったが、だんだんと弱くなっていく。
 後、数回が限界か…。
 そう思ったとき、足がガクンと崩れ、地面に膝をついて、倒れ込みそうになった。
 背中にアレクを背負っているから、地面との激突は避けられたようだ。
「…はぁ…はぁ…」
 魔法石より俺の体力の方が先に限界に来てしまった。
 足が震えて、力が入らない…。
 …山小屋は見えている。
 身体を引きずってでも、たどり着けないことはない…。
「…アオさんは、休んでて…」
 背中に背負っていたアレクが声を掛けてくる。
「…歩けるくらい、回復したから…僕が…スーサーを呼んでくる」
 そう言って、アレクはアオの背中から降りて立ち上がり、アオの身体を支えて、側にある木に寄りかからせてくれた。
「…待ってて…くださいね…」
 アレクはそう言って微笑み、まだ重い身体を引きずるように山小屋に向かって歩き出す。
 アオはソレを見送りながら、ほのかな光を放つペンダントを握りしめる。
 …魔法石を使った反動が来はじめた。
 身体が重くて、動かない…。
「…。」
 アオはそのまま意識を失った。


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