神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

文字の大きさ
上 下
150 / 462
蜜月

ヒイロの職場

しおりを挟む
 町の中心に来ると、ざわめきが溢れていた。
 人族も、獣人族も変わらない…。
 商店街があり、野菜や果物、日用品など、いろんな物が売られていた。
 ここまで来ると、獣人でも、いろんな種族が溢れていて、気にしなくなるのも分かる気がした。
 商店街を抜け、少し静かな場所に出ると、重厚な雰囲気の館のような建物が見えてきた。
 中に入り受付を済ませると、リーンはその建物の奥へと入っていった。
「ここは?」
「ヒイロの職場。…人族で言うところの、役所?町を統括している場所だよ」
「…。」
 そう言えば、この町の一族がどうとか言っていたな…。
 リーンに連れられて奥の部屋に入っていくと、山積みにされた書類の中で、チイと同じ豹の耳が、チラリと見えた。
「ヒイロ。まだ、仕事、終わらないの?」
 リーンが声をかけると、ガバリと顔が上がった。
「リーン!」
 豹の族の金髪の、恰幅の良い青年だ。
 どちらかと言えば、ガーディに近い体格だが、瞬発力が有りそうなしなやかさも持っている。
「…魔力のつがいを連れてきたのか…」
「そうだよ。会っておかないと、行き違いになりそうな気がして…」
「…。」
 リーンの意味は分からないが、彼には何か分かったのかもしれない。
 苦笑いして、こちらを向く。
「ヒイロだ。リーンの兄弟のような者だ」
「ルークです。…この書類の山は…」
 ルークは側に有るものを一枚手に取り見ると、貯水槽の工事現場の場所の見積りと、図面が簡単に書かれていた。 
「この町の、修繕や新手な貯水槽の計画の書類やら…」
「…一人でこれを?」
 かなりの量がある。
「いつもなら、補佐が手伝ってくれるが、今、休暇中で…」
 ルークはため息をついた。
 今日の夜は、ヒイロとチイの家族と一緒に食事をする予定だが、この分では帰りが遅くなりそうだ。
 見た感じ、自分が決裁している書類と似たり寄ったり。
 これならば手伝えるか…。
「独断で良いなら、急ぎの物と、後回しでも良いものと分けるが…」
 ヒイロの目がキラリと光る。
「ルーク?」
「…チイさんと、ルナちゃんが家で待っているんだろ。それに夕食一緒に食べるって言ってたし…。気持ちは分からないでも無いからな…」
 ルーク自身も時折、カザナ街の書類の山と格闘している。
 優秀な補佐が何人もいるから、最小限で済んでいるのだが…。
 ヒイロが期待に満ちた目でこちらを見てくる。
 リーンが肩をすくめ、ため息を付いた。
「分かったよ…」
 ルークはリーンの承諾を得て、ヒイロの書類の仕分けを始めた。
「その代わり、2時間だけ!!…まだ、町の散策に行ってないし…」
 リーンが寂しそうに言う。
 …ああ。いわゆるデートと言うものか…。
 ルークはアオに以前言われたことを思い出していた。
『リーンさんと一緒に買い物をしたり、食事をしたりする時間を作ってあげてください。いつ、長期間、会えなくなるか分からないんですよ!!』
 …そうだ。
 今は、こうして側にいてくれるが、この後、長期調査の為に離ればなれになる。
 だから一緒にいる時間を増やして、こうして獣人の町まで来たのに…。
「…分かったよ。俺もリーンと一緒に散策にしたい」
 そう言って微笑むと、物凄いスピードで、別のテーブルに書類分けを始めた。
 視界に、リーンが照れ臭そうに笑うのが見え、ルークはドキドキした。


 

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

けものとこいにおちまして

ゆきたな
BL
医者の父と大学教授の母と言うエリートの家に生まれつつも親の期待に応えられず、彼女にまでふられたカナタは目を覚ましたら洞窟の中で二匹の狼に挟まれていた。状況が全然わからないカナタに狼がただの狼ではなく人狼であると明かす。異世界で出会った人狼の兄弟。兄のガルフはカナタを自分のものにしたいと行動に出るが、カナタは近付くことに戸惑い…。ガルフと弟のルウと一緒にいたいと奔走する異種族ファミリー系BLストーリー。

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。 帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか? 国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。

処理中です...