神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

文字の大きさ
上 下
116 / 462
実を結ぶ

久しぶりの帰還

しおりを挟む
 カザナの屋敷にリーンを連れていってから、ルークの回りは忙しくなった。
 もちろん『人魚の湖』の集落関係だ。
 始は、住民登録をだけだったが、中には医者に行けず体調が悪化している者や、学校が無く、大人が知っている知識を教えているだけで、正しいものと不正解のものが入り交じっていた。
 なので、病人の事をどうするとか、教育をどうするとか、その他、考えることと、やることが有りすぎた。
 それが、集落十ヶ所分と、点在している住宅分。
 時折、屋敷に戻るが、深夜だったり、早朝には出発したりと、リーンとすら会話できていなかった。 
 リーンは魔力の迷走で、体調を崩してから、だいぶん良くなったものの、小屋で暮らしている。
 取りあえずは、リーンの寝顔を見て、まだ、ここにいてくれると、実感して、髪を撫でて癒されて、出掛けていた。

 
 リーンを、カザナの屋敷に連れていってから、三ヶ月が過ぎようとしていた。
 リーンに会えない!
 『人魚の湖』の集落の事がだいたいうまく回り始めた頃、王城から召集がかかった。
 今回の報告や経緯などを、改めて報告会が開かれ、今後の対応などを決めていくそうだ。
 今まで、それらから避けて、兄に任せっきりにしていたが、今回は『海の魔法石』の事もあって、逃げられない。
 リーンに会いたい…。
 こんなに誰かを欲して、会いたいなど思ったことはなかった。
 報告会が終わったら会いに行こう。
 ジェスは相変わらず、兄に連れ回されているし、ガーディは書類作成、カズキとアオは集落回りをしていて、あまり屋敷には戻っていないらしい。
 今までも旅に出ると、長い間、屋敷に帰らないことはあったが、そこにリーンが居ると言うだけで、早く帰りたかった。


 やっと報告会が終わって、カザナの屋敷に戻ることになった。
 その頃には、書類作成に追われたガーディは燃え尽き、一緒に帰る事になっていた。
 カズキとアオもそろそろ、屋敷に戻れるらしい。
 ジェスは、今度、真ん中の兄の元へ連れていかれた。
 何でも、王国警備隊長をやっている兄の、幼馴染みの神官が、行方不明になったらしい。
 俺も幼い頃、よく遊んでもらった覚えがある。
 早く見つかると良いが…。


 早朝に王城を出て、昼過ぎには、カザナの屋敷に到着した。
 何故か屋敷中がソワソワして、落ち着きがない。
 何かあったのか?
 執事はいつも通り落ち着いていて、
「リーン様は小屋に居られます」
 と、告げてきた。
 早く会いたい、と、顔に出ていてのか?
 ルークは顔を赤らめ、小屋へと向かった。

 小屋へ行くと、リーンはベッドに横たわり、眠っているようだ。
「リーン」 
 声をかけ、リーンの髪を久しぶりに撫でていると、目蓋がほんの少し開いた。
「…お帰り。…ルークに…伝えたい事…がたくさん有って、…でも、…夜泣きで…寝不足で…交代で…見てくれて…」
 まだ眠いのか、リーンの目蓋が閉じていく。
 いま、何て言った?
「夜泣きで寝不足?」
 何の話をしている?!
「おい!起きろ!説明しろ!」
 ルークはリーンの身体を揺さぶり、身体を起こさせて、何とか目覚めさせる。
「んっ…」
 このままでは、話にならない。
 ルークは、まだ寝ぼけているリーンの身体を抱き上げ、屋敷の方に戻り始めた。
 ルークがリーンを抱えて、屋敷の中へ入ると、やはり皆ソワソワしている。
 屋敷中で、何を隠している!?
 ルークがリーンの部屋に行くと、知らない女性とメイドが、絨毯の敷かれた床に座って、何かを揺らしていた。
「ルーク様!」
 驚いたメイドの子が立ち上がり、一礼する。
「…ありがとう。…私から…話すから…」
 リーンがそう言うと、メイドと女性は部屋を出ていった。
 ルークがリーンをベッドの端に下ろすと、ガーディと、カズキ、アオが部屋に入ってきた。
「リーン。これはどういう事だ?」
 彼女達が揺らしていたのは揺りかご。
 それも、赤子が二人、眠っている。
「…私が産んだ…ルークの子供だ」
「…!」
 いま、何て言った!
 俺とリーンの子供!?
 チラリと仲間達を見ると、アオ以外が硬直して固まっている。
「リーンが産んだ…俺の…子供…」
 リーンは、子供を産むことが出来る身体だったのか?
「嬉しくないのか?」
「嬉しいに決まっているだろ!ただ…、まだ…、頭がついていかない」
 俺はリーンの事が好きだから、リーンが子供を産んでくれたのは嬉しいに決まってる!
 絶対に無理だと思っていたから、よけいに嬉しい。
 …て、事は『魔女の森』での、あの時に出来たのか?
 体調が悪かったのは、…子供が出来たから魔力の迷走が起きたのか?
 に、しても、ルークはチラリと三人を見る。
 ガーディ青い顔をして、首を降る。
「俺は知りませんでしたよ。屋敷で子供が産まれたって話は聞いたけど、まさかリーンが…」
 そうだろう。
 王城で、一緒に書類と戯れていたのだから。
 視線をカズキに向ける。
 カズキは、ちょこちょこ屋敷に戻っていた筈。
「ミーネ様からは今はいつもと体調が違うから、気お付けて欲しい。とは、言われましたが。いえ、まあ、少し太ったのかと思ってはいたのですが…」
 何となくは、気付いていたな…。
「アオ」
 アオは知っていたから、驚きもしなかったのだ。
「うっ。リーンさんに口止めされていて…。満月に『人魚の湖』に、放り込まれたくないですし…。なかなか、ルーク様、帰って来られないし…」
 アオはしどろもどろで答える。
「なかなか帰ってこないルークが悪いんたぞ!」
 リーンは照れ笑いして、言う。
「名前、まだ、決めてないんだ」
「俺が、決めても良いのか?」
「当たり前だろ!それくらい考えろよ!」
「あ~、俺たちはそろそろ…」
 そう言って、ガーディと、カズキ、アオは部屋を出ていった。
「抱いてやってくれ」
 リーンはすやすやと眠る赤子を抱き上げ、黒髪の赤子をルークに手渡してきた。
「…双子…リーン…」
 ルークは目をキョロキョロさせ、慌てふためいた。
 いきなり二人の父親になるのか…。
 リーンはもう一人の金髪の赤子を抱き上げる。
「なぁ、この子達、ここで育ててくれないか」
 ルークはハッとして、リーンを見る。
「長くいすぎて、森に帰っていない。でも、この子達を連れていくわけにもいかない」
「出ていくのか?」
 俺たちを置いて…。
「…帰ってくるよ。…なるべく。この子達の成長も見たいし、ルークもいるし…」
 リーンは頬を染めて、言う。
「もう少ししたら、少しづつ、森に入るよ…」



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。 帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか? 国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

処理中です...