神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

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実を結ぶ

獣人族の二人

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 ルークと話が出きる間もなく、時間だけが過ぎて行った。
 宿り木ミーネは、光は安定した。と、言っていたが、油断は禁物だ。
 小屋で薬草を乾燥させた物を、小分けして、袋詰にしていたとき、獣人族のヒイロがやって来た。
 しなやかだが鋼のような瞬発せいを持つ、金茶色の髪のヒョウの獣人で、森の聖域に程近い場所に有る、獣人の町グオルクの聖域に入ることを許された一族の一人だ。
 彼は家族であって、友人で有り、兄のような存在でもあった。
 そんな彼が、真っ青な顔をして、小屋に駆け込んできた。
「リーン!」
「ヒイロ。…キリト」
 ヒイロの後ろから、灰色がかった黒髪と、鋭い目を持つ狼の獣人のキリトも姿を表した。
「『風使い』が来たときは、驚いたぞ!」
「ごめん。戻れなくなって…」
 心配かけたのは、分かっている。
「かまわない。身体は大丈夫なのか?」
「うん。宿り木ミーネは光は安定した。と、言っている。…でね、何でこうなったかと言うと…」
 ダイニングの椅子に座り、事訳を話し出した。
 『魔女の森』の『魔女の宴』の事。魔女王が言った事。
 二人は、ため息しか出てこなかった。
「それで、知りたいのは、他種族間の場合は、成長とか、どんな感じか分からなくって…」
「…。」
「そう言うことは、チイの方が良く分かると思うが、あいつも今は、動けない」
「えっ?怪我したの?」
「…子供が出来たんだよ」
 ヒイロは頬を染めて、リーンと視線を反らす。
「…おめでとう!て、事は、この子と同い年になるのかな?」
「多分な…」
「獣人の赤ちゃんって、どれくらいで、産まれるの?そう言ったこと、あんまり興味が無かったから、知らなくて…」
 リーンは罰が悪そうにそう言う。
「…4、5カ月くらいだ。種族によっても違う」
「人族は10ヶ月くらいだって言ってた」
 身体の造りが違うから、成長速度も違うみたいだ。
「…お前の場合はな…」
 ヒイロは頭を掻く。
 特異体質と、人族…。
「…匂いが変わった。魔法の匂いが殆んど消えた」  
 それまで黙って聞いていたキリトが、口を開いた。
 狼族は匂いにも敏感だ。
「…。」
 掛けられていた魔法が、消えた?
「リーン。ちょっと立て」
 ヒイロもソフィア程ではないが、『解読』が出きる。
 リーンが椅子から立ち上がり、壁際に立つと、ヒイロは魔方陣を作り出し、リーンにかぶせる。 
「…昔、獣人共にかけられた、獣人族の子供を宿す身体にする魔法が全部、消えてるぞ」
 獣人族の間を渡り歩いたとき、気に入られて、知らないうちに掛けられた魔法。
「…でも、それって、獣人族にしか作用しない魔法だから、放置しても大丈夫だからって…」
「ああ、そうだ。消えてしまっているから分からないが、誰かが、獣人族以外でも、宿せるように書き換えられてたら、可能性はある」
「…。」
 誰かが書き換えた?
 そんなことが出来るのは、上位者のみ…。
「でも、それだけでは、宿せない。俺たちの知らない何かが作用しているのかも知れない」
「そうだね…」
 リーンと、ヒイロは再び椅子に座り、話の続きをし始めた。
「で、相手はどいつだ」
「…。今は、忙しくて、ここにはいない」
 殆んど会えていない。
 だから、まだ、話をしていない。
「…あの男か?」
 キリトは思い出したかのように、言う。
 そうだ、キリトは一度会っている。
「…。」
「…保有魔力が強いのに、リーンが弱っているときに『魔力交合』をしてやらなかったヤツだ」
 いまいましく、キリトはそう言う。
 仕方ないよね…あの時は…。
「…魔力が、封じられて居るんだよ。だから、魔力が有ることを知らなかった…から」
 ルークの、ソフィアの『解読』の話をした。
 再び、二人は重いため息をついた。
「カザンナ王国の第三王子だと!国には関わらないように、言っていた筈だろ!」
「うん。王子らしくない王子で…気付かなかった」
「…。」
 キリトも、呆然としている。
「とにかくだな、獣人の魔法が関わって居るなら、成長は早い筈だ。キリトを置いていくから、世話させろ!無茶するな!産まれたら連絡しろ!」
 ヒイロは苦笑いして、リーンに言う。
「無事に産んでくれよ。俺はチイも心配だから帰るが、キリトに通信魔法を教えてある。こまめに連絡してこい」
「うん。ワザワザありがとう。ちょっと安心した。チイにも、よろしく言っといて」
「ああ。」
 そう言って、ヒイロは森へ帰っていった。

 で、キリトの事をどう説明しよう。
「…リーンの実家から従者を呼んだことにすれば」
 キリトは何でもないように、そう言う。
「獣人の姿が都合悪ければ、人族に姿を変われるし、手伝いが居た方が、楽だろ?」
「まあ、そうだけど」
「俺は、リーンの望むようにするから。リーンがここに居て、辛くないのなら、それで良い」
 その一言に、リーンは腹をくくる。
「うん。わかった。屋敷の人に紹介する。多分、獣人だって分かっても、平気な人ばかりだと思うよ」
 そう、この屋敷には、水人族も、獣人族も使用人として働いている。
 人族の姿では居るけれど…。
「…で、人族に話した方か良いと思うぞ。その腹の事」
「…。」
 まだ、ルークにも、いえてないのに…。
「どうなるか分からないんだろ。無事に産みたいんだろう。…特に王族だったら、良く分からないが、何か色々有るんじゃないのか?」
 知識が乏しい自分達だけでは、きっと大変な事になりそうな気がする…。
「…まだ、ルークにも言ってないんだ…」
「…。」
 キリトは呆れた顔をして、リーンを見る。
「…言ってないのか?」
「…私から言うから、秘密にしてもらおう…」
「…。」
 無事に産まれてくるために、用意周到に準備をしよう。
 …ルークも、なかなか帰ってこないし…。
 もし、産まれてから報告になったらどうしよう…。
 獣人の魔法で早く産まれるかも知れない…。
 その時は、その時だな…。

 リーンはあまり深く考えないようにしていた。


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