神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

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魔女の宴 

新たな旅の始まり

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 早朝、昨日の雨は上がり、外はひんやりとしていたが、空気は澄んでいた。
 カザンナのお屋敷を出発して、『人魚の湖』周辺の集落巡りが始まった。
 最初に行くのは、集落フールシアに一番近い、集落モフだ。
 モフは、人魚と獣人の間に生まれた子供達が主に住む集落で、容姿は獣人だが、水中に潜っている時間が長いと言う特徴を持っているらしく、漁業が盛んで、モフの魚の干しものが、美味しいそうだ。
 集落によって、特徴がはっきりと出ていて、何処に住むかを決めるのには、丁度良いらしい。
 水中都市のフールシアから伝令は行っているだろうから、ある程度、すんなり話し合いが進んでくれると嬉しい。
 あと、ルーク達には、『風霊』や『風使い』が、呼びに来たら、そっちを優先すると、伝えてあった。
 本来の森の管理は、おろそかにしたくない。
 馬車は北の街道から山手の道へ…フールシアへの横道を曲がらず、真っ直ぐ道なりに向かっていった。

 馬車には、御者にカズキ、後ろにルークとアオ、ガーディの五人の旅だ。
 また、置いていかれたジェスは、北の街道に泊まっていたルークの兄王子、ローレンスに呼ばれて、泣く泣く出掛けていった。
 王城まで『移動』が出来るジェスは貴重らしい…。


 異変が起こったのは、雑木林の開けた場所で馬車を止め、昼食を食べて、ルークの訓練の為に、近くの泉へ、リーンとアオの三人が馬車を離れていた時に起こった。
 ルークは今、もらった『海の魔法石』を使って水を使う魔法の訓練をしていた。
 フールシアは練習すれば、日常生活に使う程度は使えるようになると言っていたからだ。
 基本の水を自由に動かす、からだ。
 なので、休憩の時に湖や泉などの水場に止まり、少しづつ練習していた。
 
 草をかき分け、慌ててカズキが三人の元にやって来た。
「ガーディが、操られたように、ふらふらと歩いて森の中に入っていった!止めようとしても俺の声が聞こえていない!」
「えっ?!」
 三人は顔を見合せた。
 確か、ガーディとカズキは昼食の後片付けをして、出発の準備をしていたはず…。
 ルークも練習の手を止める。
「ガーディが何も言わずに、勝手に出歩くことはない」
 ガーディの性格上、勝手はしない。
「…もしかして『満月のうたげ』の歌が聞こえたのかも知れない…」
 リーンはふと、思い当たる事を口にした。
 そう、今日は満月。
 『人魚の湖』に近付いてはいけない。
 人魚に連れ去られてしまうから。
 それと、もう一つ。
 魔女の住む森にも、近付いてもいけない。
「『満月のうたげ』って、魔女の?!」
「今夜は満月。近くにいる男達を呼び寄せている…」
 私のミスだ。
 自分には、魔女の歌は聞こえないし、効かないから、気にした事はなかったが…。
「連れ戻さないと…」
 魔女の森に入ってしまう前に、連れ戻さないと大変な事になる。
「…カズキには歌は聞こえ無かった?」
 今後の為に確認して置かないと…。
「…多分あれが、歌かな…ってくらい。木の葉の音の方が耳に入って…」
「『木霊』が守ってくれたんだ」
「アオは?」
「全然」
 アオは水の側にいて『水霊』が守ってくれた。
 と、言うことは。
「ルークは…フールシアの『海の魔法石』を持っているからか…」
 ガーディは『炎霊』の為、側で守ってくれる子達がいなかったのだ。
「迎えに行ってくる」
 リーンはそう言って、馬車に向かって歩き出す。
「迎えに行くって?!場所は分かるのか?!」
「うん。分かっている」
 リーンの後をルークとアオ、カズキが追いかけて馬車に向かう。
「今なら簡単に、中に入れる。出る方が至難だが…」
「俺も行く!」
「来ない方がいい。見つかったら宴に引っ張り出される…」
「見つからなければ、いいんだろ!」
 リーンが何に取り乱しているのか分からず、ルークは叫んでいた。
「…『満月のうたげ』がどんなモノか知っているのか?」
「…。」
「はぁ…」
 リーンは振り向いて、ルークに言う。
「魔女達が子供を授かるための、魔力の強い男探しだ。数年後に、『あなたの子供よ』って、魔女が訪ねてきても良いのなら、好きにするといい。あれを逃げきる男は中々いない…」
「…リーンは逃げきったのか?」
「…私はシラミネの魔女王のお気に入りだ。誰も手出しはしてこない」
 そう、何が気に入ったのか分からないが…。
「…。それは、魔女王とも…そういう関係なのか?」
 ルークが、複雑そうな顔でリーンを見る。
 …そう。私には『魔力の交合』をする相手が、何人もいる。
 …だけど、それは…。
「…利害が一致した。契約上の関係だ。これ以上は聞かないでほしい。私は本来、留まってはいけないのに、あまりにも居心地が良すぎて、一緒に居たいと思ってしまったから…」
 リーンが泣きそうな顔をしてうつ向くと、ルークがリーンを抱き締める。
「ごめん。分かってるから…」 
 抱きしめられたリーンは、ルークの背後にいたアオと目が合い、状況を思い出し、頬を染める。
 みんなの前で、何言って、やってるんだ!
 リーンはルークの腕から逃れて、馬車に向かって早足で歩く。
 恥ずかしい…。
 やはりルークといると、今までに感じたことのない、感情が涌き出てくる。
 リーンは馬車にたどり着くと、身に付けていた小物やポーチを外し、馬車に乗せる。
「余分なモノを持っていると、戻ってこなくなる」
 リーンは馬車に乗せてあったバッグから、ミーネにもらった『天水球』の入った袋だけ取り戻し、腰に下げ、歩き出す。
 ルークも、剣や小物を馬車に投げ入れる。
「アオとカズキはココで、馬車を守っていろ!『水霊』と『木霊』が守ってくれる!」
「ルーク様!!」
「ルーク様!」
 ルークはリーンを追いかけて、獣道へと入っていった。




 
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