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人魚の泉~海の魔法石~

『海の魔法石』の指輪

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 リーンがベッドの上で目覚めると、『構築』した海の魔法石を握りしめていた。
 身体を起こし、手を広げて『構築』したばかりの、二個のシンプルな指輪を眺める。
 一つの指輪を作るには、海の魔法石が大きかったので、半分に割り、穴を空けて、甲高のシンプルな深い海の色の指輪を作り出した。
 竜の神殿は魔力に満ちていて、魔法石の指輪を作るには最適な環境だった。
 フールシアの気配はない。
 ぼんやりと目覚めた時、水中都市に帰ると言っていたことを思い出す。
 フールシアが素直に協定に同意してくれたから、今回の事はスムーズに話し合いが進んでくれた。
 海の魔法石の事に関しても、ありがたい事ばかりだった。
 しばらくは、人魚の湖周辺の、集落巡りになりそうだ。
 『杭の枝』を全部使ってしまったので、本当は一度、森に帰りたかったのだけれど…。
 何処かに、使えそうな枝が有るといいが…。
 それより、使者として来た、カザンナ王国のローレンス王子の事だ。
 会いたくは無いが、顔を会わせないわけにはいかないだろう…。
 そんな事を考えていると、扉がコンコンとノックされ、声がかけられた。
「目覚められて、いらっしゃいますか?」
 魚人のダレスだ。
「起きてるよ」
 リーンが返事すると、ダレスがルークを連れて、部屋に入ってきた。 
「リーン!」
 ルークがベッドに駆け寄ってくる。
「フールシア様は、昨日、水中都市へ戻られました。後は、カザンナ王国の方とリーン様の指示に従うよう、言われております」
「そう…。分かった、ありがとう。…今までの生活が激変しないように注意して、作業に当たって貰うから、不安な事があったら言ってね」
 リーンが微笑み、ダレスは頭を下げて、部屋を出ていった。
「リーン。…兄上が、リーンに会って話をしたいと言っていた」
 ルークは不安そうに、リーンを見下ろす。
「…そう、言われるだろうとは、思っていた…」
 リーンは苦笑いをする。
「…兄上の事…知っているのか?」
「一度だけ、会ったことか有る」
「…。」
 そう、一度だけ、ほんの数時間、一緒にいただけ…。
 ルークは複雑そうな顔で、リーンを見てくる。
「それより、海の魔法石を指輪にしたんだ。右手に剣。左手に魔法具。剣に魔力を込めて、魔法剣となる…」
 リーンは手のひらに乗る指輪をルークに差し出す。
「二個、有るが…」
「海の魔法石が大きかったから、二個にしたんだ」
 ルークは戸惑いながら一つ、指で掴み取り、左手の中指に嵌めてみる。
 どうも少し小さいみたいで、第二間接で止まってしまったため、引き抜き、薬指に嵌めると根元まではまり、ちょうど良いみたいだ。
「これなら、失くさないかな…」
 ルークは嵌めた指輪を眺める。
 そして、リーンの指輪を持つ手を握り、指輪を握りしめさせた。
「これは、リーンが持っていてくれ。今の俺には、これ一個分に相応しいだけの魔力も力も無い…。自分に自信が持てるようになるまで、預かっていて欲しい」
 ルークの真剣な眼差しに、思わず微笑んだ。
 こう言う所は、真面目だよな…。
「…わかった。無くしそうだから、『物質保管』に入れておくよ」
 リーンは『物質保管』を出し、『人魚の湖』で作った天水球の引き出しの中に納めた。
 同じ地域の物同士、一緒にしておいた方が、馴染みやすいからだ。
「…兄上の事はどうすれば良い?」
 ルークは心配でしょうがないようだ。
「…会うよ。ただし、この部屋の横の神殿で…。出来たら王子一人だけ、あぁ、ルークは一緒に居て大丈夫だから」
 リーンは少し考えて、部屋の外に声をかける。
「ダレスも、一緒に話を聞いた方が心配無いよね」
「えっ?」
 ルークは驚いて、扉の方を見る。
「ココは海の領域。気配を消しているけど、本当は同席したかったんじゃないかな?外で話を聞いてるよ。ダレス、神殿を使っても良いよね」
 扉がガチャリと開き、ダレスが困った顔で部屋の中に入っていた。
「…よろしいですが」
 あと、確認しておかなくては、いけない事を思い出す。
「そう言えば、満月まで後、何日?」
「…明後日です。そのお話をしたくて、待っていたのですが…」
 ダレスは神妙な顔をして、リーンを見ると、リーンは頷き、ルークに言う。
「…。ルーク、王子との謁見を急ぐよ」
「何があるんだ?」
 ルークは不思議そうに訪ねてくる。
 やはり人族には、あまり伝わっていないようだ。
「満月の前後は人魚達の繁殖期。湖に近付くと、連れ去られる可能性が高い。だから、今日の夜、もしくは明日の朝までに、この集落を離れないと危険だ」
「…集落もか?」
「はい。ココに住んでいる者達の、恋人や妻も帰ってくるのです。…まぁ、賑やかになりますからね…」
 ダレスは言葉を濁した。
「わかった。直ぐに、帰還の準備をするよう伝える。兄上との謁見は…」
「少し、時間をください」
 珍しく、ダレスがそう言った。
「…リーン様の支度をさせてください」
「このままで構わないぞ」
 別に顔を合わせて、話をするだけ。
 まあ、昨日、あのまま眠ってしまったから、着替えくらいはするつもりだが…。
「ダメです。フールシア様の契約者で、森の守護者である、あなた様の威厳が無くなってしまいます!」
「そうか?」
 そんな体した者ではないのだか…。
 ダレスはため息をつく。
「…やはりそう言ったことに無頓着だと聞いてはいましたが…。あるじ様が、あなた様に着せるのだと、衣装が保管されています。湯浴みして、着替えていただきますから…」
「…わかった…」
 ダレスの勢いに負けて、着替えることになったリーンは、ため息をついて、ルークを見る。
「だ、そうだ。呼びに行くまで待っててもらえるか?」
「ああ。…俺も着飾ったリーンを見てみたい」
 その言葉にリーンは赤くなり、ルークを追い出す。
「早く行って、帰りの準備をさせろよ!」
 ルークはニッコリと笑い、部屋を出ていった。
「リーン様は、あの方を気に入っているんですね」
「…いつも一人だったから、ルークと居ると楽しい…」
 そう、一緒に居ると楽しいのだ。
「そうですか…」
 ダレスは何か言いたげだったが、直ぐに湯浴みと、衣装の準備をするよう水上集落の者達に指示を出し、水上集落は慌ただしくなった。

 
 

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