86 / 462
人魚の泉~海の魔法石~
『海の魔法石』の指輪
しおりを挟む
リーンがベッドの上で目覚めると、『構築』した海の魔法石を握りしめていた。
身体を起こし、手を広げて『構築』したばかりの、二個のシンプルな指輪を眺める。
一つの指輪を作るには、海の魔法石が大きかったので、半分に割り、穴を空けて、甲高のシンプルな深い海の色の指輪を作り出した。
竜の神殿は魔力に満ちていて、魔法石の指輪を作るには最適な環境だった。
フールシアの気配はない。
ぼんやりと目覚めた時、水中都市に帰ると言っていたことを思い出す。
フールシアが素直に協定に同意してくれたから、今回の事はスムーズに話し合いが進んでくれた。
海の魔法石の事に関しても、ありがたい事ばかりだった。
しばらくは、人魚の湖周辺の、集落巡りになりそうだ。
『杭の枝』を全部使ってしまったので、本当は一度、森に帰りたかったのだけれど…。
何処かに、使えそうな枝が有るといいが…。
それより、使者として来た、カザンナ王国のローレンス王子の事だ。
会いたくは無いが、顔を会わせないわけにはいかないだろう…。
そんな事を考えていると、扉がコンコンとノックされ、声がかけられた。
「目覚められて、いらっしゃいますか?」
魚人のダレスだ。
「起きてるよ」
リーンが返事すると、ダレスがルークを連れて、部屋に入ってきた。
「リーン!」
ルークがベッドに駆け寄ってくる。
「フールシア様は、昨日、水中都市へ戻られました。後は、カザンナ王国の方とリーン様の指示に従うよう、言われております」
「そう…。分かった、ありがとう。…今までの生活が激変しないように注意して、作業に当たって貰うから、不安な事があったら言ってね」
リーンが微笑み、ダレスは頭を下げて、部屋を出ていった。
「リーン。…兄上が、リーンに会って話をしたいと言っていた」
ルークは不安そうに、リーンを見下ろす。
「…そう、言われるだろうとは、思っていた…」
リーンは苦笑いをする。
「…兄上の事…知っているのか?」
「一度だけ、会ったことか有る」
「…。」
そう、一度だけ、ほんの数時間、一緒にいただけ…。
ルークは複雑そうな顔で、リーンを見てくる。
「それより、海の魔法石を指輪にしたんだ。右手に剣。左手に魔法具。剣に魔力を込めて、魔法剣となる…」
リーンは手のひらに乗る指輪をルークに差し出す。
「二個、有るが…」
「海の魔法石が大きかったから、二個にしたんだ」
ルークは戸惑いながら一つ、指で掴み取り、左手の中指に嵌めてみる。
どうも少し小さいみたいで、第二間接で止まってしまったため、引き抜き、薬指に嵌めると根元まではまり、ちょうど良いみたいだ。
「これなら、失くさないかな…」
ルークは嵌めた指輪を眺める。
そして、リーンの指輪を持つ手を握り、指輪を握りしめさせた。
「これは、リーンが持っていてくれ。今の俺には、これ一個分に相応しいだけの魔力も力も無い…。自分に自信が持てるようになるまで、預かっていて欲しい」
ルークの真剣な眼差しに、思わず微笑んだ。
こう言う所は、真面目だよな…。
「…わかった。無くしそうだから、『物質保管』に入れておくよ」
リーンは『物質保管』を出し、『人魚の湖』で作った天水球の引き出しの中に納めた。
同じ地域の物同士、一緒にしておいた方が、馴染みやすいからだ。
「…兄上の事はどうすれば良い?」
ルークは心配でしょうがないようだ。
「…会うよ。ただし、この部屋の横の神殿で…。出来たら王子一人だけ、あぁ、ルークは一緒に居て大丈夫だから」
リーンは少し考えて、部屋の外に声をかける。
「ダレスも、一緒に話を聞いた方が心配無いよね」
「えっ?」
ルークは驚いて、扉の方を見る。
「ココは海の領域。気配を消しているけど、本当は同席したかったんじゃないかな?外で話を聞いてるよ。ダレス、神殿を使っても良いよね」
扉がガチャリと開き、ダレスが困った顔で部屋の中に入っていた。
「…よろしいですが」
あと、確認しておかなくては、いけない事を思い出す。
「そう言えば、満月まで後、何日?」
「…明後日です。そのお話をしたくて、待っていたのですが…」
ダレスは神妙な顔をして、リーンを見ると、リーンは頷き、ルークに言う。
「…。ルーク、王子との謁見を急ぐよ」
「何があるんだ?」
ルークは不思議そうに訪ねてくる。
やはり人族には、あまり伝わっていないようだ。
「満月の前後は人魚達の繁殖期。湖に近付くと、連れ去られる可能性が高い。だから、今日の夜、もしくは明日の朝までに、この集落を離れないと危険だ」
「…集落もか?」
「はい。ココに住んでいる者達の、恋人や妻も帰ってくるのです。…まぁ、賑やかになりますからね…」
ダレスは言葉を濁した。
「わかった。直ぐに、帰還の準備をするよう伝える。兄上との謁見は…」
「少し、時間をください」
珍しく、ダレスがそう言った。
「…リーン様の支度をさせてください」
「このままで構わないぞ」
別に顔を合わせて、話をするだけ。
まあ、昨日、あのまま眠ってしまったから、着替えくらいはするつもりだが…。
「ダメです。フールシア様の契約者で、森の守護者である、あなた様の威厳が無くなってしまいます!」
「そうか?」
そんな体した者ではないのだか…。
ダレスはため息をつく。
「…やはりそう言ったことに無頓着だと聞いてはいましたが…。主様が、あなた様に着せるのだと、衣装が保管されています。湯浴みして、着替えていただきますから…」
「…わかった…」
ダレスの勢いに負けて、着替えることになったリーンは、ため息をついて、ルークを見る。
「だ、そうだ。呼びに行くまで待っててもらえるか?」
「ああ。…俺も着飾ったリーンを見てみたい」
その言葉にリーンは赤くなり、ルークを追い出す。
「早く行って、帰りの準備をさせろよ!」
ルークはニッコリと笑い、部屋を出ていった。
「リーン様は、あの方を気に入っているんですね」
「…いつも一人だったから、ルークと居ると楽しい…」
そう、一緒に居ると楽しいのだ。
「そうですか…」
ダレスは何か言いたげだったが、直ぐに湯浴みと、衣装の準備をするよう水上集落の者達に指示を出し、水上集落は慌ただしくなった。
身体を起こし、手を広げて『構築』したばかりの、二個のシンプルな指輪を眺める。
一つの指輪を作るには、海の魔法石が大きかったので、半分に割り、穴を空けて、甲高のシンプルな深い海の色の指輪を作り出した。
竜の神殿は魔力に満ちていて、魔法石の指輪を作るには最適な環境だった。
フールシアの気配はない。
ぼんやりと目覚めた時、水中都市に帰ると言っていたことを思い出す。
フールシアが素直に協定に同意してくれたから、今回の事はスムーズに話し合いが進んでくれた。
海の魔法石の事に関しても、ありがたい事ばかりだった。
しばらくは、人魚の湖周辺の、集落巡りになりそうだ。
『杭の枝』を全部使ってしまったので、本当は一度、森に帰りたかったのだけれど…。
何処かに、使えそうな枝が有るといいが…。
それより、使者として来た、カザンナ王国のローレンス王子の事だ。
会いたくは無いが、顔を会わせないわけにはいかないだろう…。
そんな事を考えていると、扉がコンコンとノックされ、声がかけられた。
「目覚められて、いらっしゃいますか?」
魚人のダレスだ。
「起きてるよ」
リーンが返事すると、ダレスがルークを連れて、部屋に入ってきた。
「リーン!」
ルークがベッドに駆け寄ってくる。
「フールシア様は、昨日、水中都市へ戻られました。後は、カザンナ王国の方とリーン様の指示に従うよう、言われております」
「そう…。分かった、ありがとう。…今までの生活が激変しないように注意して、作業に当たって貰うから、不安な事があったら言ってね」
リーンが微笑み、ダレスは頭を下げて、部屋を出ていった。
「リーン。…兄上が、リーンに会って話をしたいと言っていた」
ルークは不安そうに、リーンを見下ろす。
「…そう、言われるだろうとは、思っていた…」
リーンは苦笑いをする。
「…兄上の事…知っているのか?」
「一度だけ、会ったことか有る」
「…。」
そう、一度だけ、ほんの数時間、一緒にいただけ…。
ルークは複雑そうな顔で、リーンを見てくる。
「それより、海の魔法石を指輪にしたんだ。右手に剣。左手に魔法具。剣に魔力を込めて、魔法剣となる…」
リーンは手のひらに乗る指輪をルークに差し出す。
「二個、有るが…」
「海の魔法石が大きかったから、二個にしたんだ」
ルークは戸惑いながら一つ、指で掴み取り、左手の中指に嵌めてみる。
どうも少し小さいみたいで、第二間接で止まってしまったため、引き抜き、薬指に嵌めると根元まではまり、ちょうど良いみたいだ。
「これなら、失くさないかな…」
ルークは嵌めた指輪を眺める。
そして、リーンの指輪を持つ手を握り、指輪を握りしめさせた。
「これは、リーンが持っていてくれ。今の俺には、これ一個分に相応しいだけの魔力も力も無い…。自分に自信が持てるようになるまで、預かっていて欲しい」
ルークの真剣な眼差しに、思わず微笑んだ。
こう言う所は、真面目だよな…。
「…わかった。無くしそうだから、『物質保管』に入れておくよ」
リーンは『物質保管』を出し、『人魚の湖』で作った天水球の引き出しの中に納めた。
同じ地域の物同士、一緒にしておいた方が、馴染みやすいからだ。
「…兄上の事はどうすれば良い?」
ルークは心配でしょうがないようだ。
「…会うよ。ただし、この部屋の横の神殿で…。出来たら王子一人だけ、あぁ、ルークは一緒に居て大丈夫だから」
リーンは少し考えて、部屋の外に声をかける。
「ダレスも、一緒に話を聞いた方が心配無いよね」
「えっ?」
ルークは驚いて、扉の方を見る。
「ココは海の領域。気配を消しているけど、本当は同席したかったんじゃないかな?外で話を聞いてるよ。ダレス、神殿を使っても良いよね」
扉がガチャリと開き、ダレスが困った顔で部屋の中に入っていた。
「…よろしいですが」
あと、確認しておかなくては、いけない事を思い出す。
「そう言えば、満月まで後、何日?」
「…明後日です。そのお話をしたくて、待っていたのですが…」
ダレスは神妙な顔をして、リーンを見ると、リーンは頷き、ルークに言う。
「…。ルーク、王子との謁見を急ぐよ」
「何があるんだ?」
ルークは不思議そうに訪ねてくる。
やはり人族には、あまり伝わっていないようだ。
「満月の前後は人魚達の繁殖期。湖に近付くと、連れ去られる可能性が高い。だから、今日の夜、もしくは明日の朝までに、この集落を離れないと危険だ」
「…集落もか?」
「はい。ココに住んでいる者達の、恋人や妻も帰ってくるのです。…まぁ、賑やかになりますからね…」
ダレスは言葉を濁した。
「わかった。直ぐに、帰還の準備をするよう伝える。兄上との謁見は…」
「少し、時間をください」
珍しく、ダレスがそう言った。
「…リーン様の支度をさせてください」
「このままで構わないぞ」
別に顔を合わせて、話をするだけ。
まあ、昨日、あのまま眠ってしまったから、着替えくらいはするつもりだが…。
「ダメです。フールシア様の契約者で、森の守護者である、あなた様の威厳が無くなってしまいます!」
「そうか?」
そんな体した者ではないのだか…。
ダレスはため息をつく。
「…やはりそう言ったことに無頓着だと聞いてはいましたが…。主様が、あなた様に着せるのだと、衣装が保管されています。湯浴みして、着替えていただきますから…」
「…わかった…」
ダレスの勢いに負けて、着替えることになったリーンは、ため息をついて、ルークを見る。
「だ、そうだ。呼びに行くまで待っててもらえるか?」
「ああ。…俺も着飾ったリーンを見てみたい」
その言葉にリーンは赤くなり、ルークを追い出す。
「早く行って、帰りの準備をさせろよ!」
ルークはニッコリと笑い、部屋を出ていった。
「リーン様は、あの方を気に入っているんですね」
「…いつも一人だったから、ルークと居ると楽しい…」
そう、一緒に居ると楽しいのだ。
「そうですか…」
ダレスは何か言いたげだったが、直ぐに湯浴みと、衣装の準備をするよう水上集落の者達に指示を出し、水上集落は慌ただしくなった。
0
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
皇帝に追放された騎士団長の試される忠義
大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。
帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか?
国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい
椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。
その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。
婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!!
婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。
攻めズ
ノーマルなクール王子
ドMぶりっ子
ドS従者
×
Sムーブに悩むツッコミぼっち受け
作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる