神の宿り木~旅の途中~ルーク~ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

ゆう

文字の大きさ
上 下
74 / 462
人魚の泉~海の魔法石~

水竜の洞窟 ***

しおりを挟む
「フィオナ、これが何か分かる?」

 パンプキンパイを焼き終えた後、おもむろにレティシアはフィオナに訊いた。瓶に入った白い粉を見て、フィオナは首を傾げる。

「粉砂糖じゃないの?」
「いいえ、これは妖精の粉よ。母さん、苦労して手に入れたの」
「妖精の粉? 初めて聞いたわ、そんな調味料」

 目を瞬くフィオナ。

「違うわ、真実、妖精の粉なの。妖精を捕まえて、その鱗粉りんぷんを採取したのよ」
「お母さん、私、小さい子どもじゃないんだから、騙されないわよ?」

 フィオナがじっとレティシアを見つめるのに、レティシアはうふふと微笑む。

「これをかけた食べ物を食べると、どんな人でも笑顔になるの。鉄仮面……ロベルト殿に持っていって御覧なさい。絶対に笑うから」
「ロベルトさんが……?」

 信じられなかったが、見てみたいような気もしたので、フィオナはロベルトの所にパンプキンパイを持っていった。



「ロベルトさん、こちらを召し上がってみて下さいませんか?」
「ありがとう、フィオナ殿。美味そうだな」

 警備団のロベルトの執務室に顔を出してパイを差し入れすると、ロベルトはフィオナに促されるまま、パイを食べてくれた。
 ドキドキとロベルトを見ていたフィオナは、ロベルトがにっこりと笑ったのを見て、目を丸くして驚いた。同じく、その顔を見てしまったハンスが、世界の終わりに直面したかのように呆然として、手に持っていた書類を落とす。バサバサと音を立てて紙が乱舞する。

「~~~~~!?」

 ハンスの声の無い悲鳴が上がる横で、フィオナはぱああと表情を明るくする。

(すごい! 妖精の粉ってすごい!)

 嬉しさのあまり、一言断って、家へ急いで帰る。

「お母さん、すごいわ。本当に笑ったの。ねえ、妖精の粉ってすごいのね……!」

 いつになく笑顔のフィオナは、レティシアに報告した後、浮き浮きした足取りで部屋へと帰っていった。



「で、お母さん。いつ、ハッピーハロウィーンって言うの? 姉さん、今日がハロウィンってこと、全然気付いてないわよ」
「どうしようかしら、アイシス。ここでロベルト殿と三人で仕組んだ悪戯だって言ったら、お母さん、嫌われちゃうと思うの」

 頬に手を当て、レティシアは溜息を吐く。

「何でネタばらししてないのかしら、ロベルト殿ったら」
「あの様子で言う暇無かったんじゃない? でも、副団長さん、笑うの成功したんだね。ここ一週間の母さんのしごきの甲斐があったわけだ」
「だって、アイシス。あの人が笑ったら、一番インパクトあるじゃない? 一番良い悪戯だと思ったんだけど……」
「後でバラしましょ。例え悪戯の為とはいえ、成功したのは奇跡よ」

 練習中の光景を思い出し、アイシスはぶるると震えた。

「あたし、笑ってる人があんなに怖いと思ったの、初めてよ」
「私もよ。あれは子どもが泣くわけよねえ」

 二人は青ざめた顔で言い合って、恐怖の記憶を頭から追い出した。



 一方、ネタばらしされたハンスは、安堵の息を吐いていた。

「なんだ、悪戯ですか。天変地異の前触れかと思ったじゃないですか」
「……さりげなく失礼なことを言うな」

 低く返しつつ、ロベルトは顔を手で撫でる。やがて頬をつまんでマッサージし始めるのを、ハンスは不思議そうに見る。

「顔がどうかしたんですか?」
「この一週間、笑う練習ばかりしていたせいで、顔の筋肉が痛いのだ。引きつる感じがする」

 至極真面目な、悪く言えばただの無表情でロベルトは答える。

「無茶しますね、副団長」

 そう返したハンスだが、笑顔の練習で顔面筋肉痛という状況に、笑いをこらえきれずについ吹き出してしまった。


 ……end.


 ※後日、フィオナは悪戯と知ってがっかりしましたが、ロベルトの奇跡の笑顔を見れたので大満足してました。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

処理中です...