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人魚の泉~海の魔法石~
水竜の迎え
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目が覚めると、暖かいものに包まれていた。
気持ちよくて頬を寄せ、二度寝したいくらいだ。
昨日の、夢見が悪く沈んでいた気持ちは、少し浮上していて、半分諦めの気持ちで割りきった。
フールシアが現れれば、どんな関係なのか、分かってしまうだろうし、隠す事など出来ない。
リーンは温もりに包まれ惰眠を貪っていると、頭上から声がした。
「起きたのか…?」
…えっ…ルーク…?
見上げると、真上にルークの顔があって微笑んでいる…。
「…。」
よく見れば、暖かかったのはルークの胸に顔を埋めて、身体を寄せあって眠っていたからだと気付き、何故か頬が熱くなる…。
「ルーク様。リーンさん。そろそろ起きてくださいね」
テントの外からアオが声をかけてきた。
「もうすぐ、朝食が出来ますよ」
「ああ、すぐ起きる」
ルークはそう言って身体を起こし、リーンの髪をくしゃりと撫撫で、テントを出ていった。
ど、どうしたんだ…私は…。
何を狼狽えているのだろう…。
ただ、添い寝しただけなのに…。
頬の熱が少し収まり、身体を起こした。
起きないと…。
リーンは皆と一緒に朝食を食べるため、テントを出た。
朝食後、予定どうりガーディは『水球』に炎の魔法を纏わりつかせる方法を教え、アオは塩分濃度の濃い湖から『水球』を作り、塩を分解する魔力を住民と共に初め、ルークはリーダーの魚人のダレスと、貯水槽の今後の段取りを話し始めた。
リーンはテントの側で、アオ達と同じように『水球』から塩の結晶を取り出していた。
やはり、住民達に私の事が伝わったのか、どう接したらいいのか、戸惑い、迷った感じで、近付いては来なかった。
仕方ない…。
リーンは塩作りに専念した。
この山間では、塩はとても貴重だ。
アオも気付いていたみたいだが、今後の貯水槽や土砂崩れの建設費の費用を、塩の売買によって使うことになるだろう。
そうでなくとも、この集落の収入源となる。
その為にも、少しでも多くあった方がいい。
少しは自分用の、ストックに頂いていくけれど。
…海の領域だから、たぶんフールシアが費用を支払うだろうが…。
そんな事を思いながら、『水球』と塩の結晶を作っていると、話し合いが終わったダレスが近付いて来た。
「今夜、お迎えに来るそうです」
「…わかった」
そう答えるしかなかった。
来るなと言っても、貯水槽の事があるし、必ず顔を出すだろう…。
しばらく戻って来れない可能性を考えると、ルーク達に何て言えばいいのか…。
魔力は戻ってくるが、なんとも言えないモヤモヤとしたものが身体の中で渦巻いている…。
「…。」
考えても仕方のない事なのだけれど…。
リーンは無心になって『水球』と塩の結晶作りに、没頭した。
夜が更けて、各自、皆が寝静まった頃、リーンはテントから出て、湖の水際を歩いていた。
空は満月に近い、少し掛けた月が湖の水面を照らし、時折吹く風が水面揺らしている。
『ちょっと出かけてくる』と、置き手紙を置いてきたから、心配はないだろう…。
荷物も置いてあるし、戻ってくるのは分かるだろうから…。
普段、一人でいるから、こんな風に誰かを置いたまま、出掛けることも無いし、これで合っているのかわからない…。
…心配…するだろうか…。
そんな事を思いながら歩いていると、背後で足音がした。
足を止め振り向くと、ルークが追いかけて来ていた。
「…。」
「どこへ行くんだ?」
月明かりの中、心配そうにルークが近付いて来る。
「…。」
…答えられない…。
今から、何をしに、どこへ行くなんて、答えられない…。
戸惑いが、リーンを襲う。
目の前に来たルークが、リーンに触れようとした時、穏やかだった水面に水柱が上がり、水飛沫が辺り一面に広がって、中から紺色の水竜が姿を現す。
そして、リーンの回りを透明の膜『水泡』が包む。
「リーン!」
ルークの伸ばした手は、リーンに触れることが出来ないまま、空をつかんだ。
リーンは苦笑いして、ルークを見る。
こんな筈ではなかった。
ただ、魔力を回復してもらう為だけなのに、フールシアの元に行くことが、こんなにも苦しいなんて思いもしなかった。
「リーン!」
ルークが叫ぶ声が聞こえる。
水竜はリーンの入った『水泡』を掴むと、水中に潜った。
何でこんなに、胸を締め付けるように…苦しい…。
リーンは『水泡』の中で、叫ぶルークの姿が目に焼き付いて離れず、しゃがみこんだ。
気持ちよくて頬を寄せ、二度寝したいくらいだ。
昨日の、夢見が悪く沈んでいた気持ちは、少し浮上していて、半分諦めの気持ちで割りきった。
フールシアが現れれば、どんな関係なのか、分かってしまうだろうし、隠す事など出来ない。
リーンは温もりに包まれ惰眠を貪っていると、頭上から声がした。
「起きたのか…?」
…えっ…ルーク…?
見上げると、真上にルークの顔があって微笑んでいる…。
「…。」
よく見れば、暖かかったのはルークの胸に顔を埋めて、身体を寄せあって眠っていたからだと気付き、何故か頬が熱くなる…。
「ルーク様。リーンさん。そろそろ起きてくださいね」
テントの外からアオが声をかけてきた。
「もうすぐ、朝食が出来ますよ」
「ああ、すぐ起きる」
ルークはそう言って身体を起こし、リーンの髪をくしゃりと撫撫で、テントを出ていった。
ど、どうしたんだ…私は…。
何を狼狽えているのだろう…。
ただ、添い寝しただけなのに…。
頬の熱が少し収まり、身体を起こした。
起きないと…。
リーンは皆と一緒に朝食を食べるため、テントを出た。
朝食後、予定どうりガーディは『水球』に炎の魔法を纏わりつかせる方法を教え、アオは塩分濃度の濃い湖から『水球』を作り、塩を分解する魔力を住民と共に初め、ルークはリーダーの魚人のダレスと、貯水槽の今後の段取りを話し始めた。
リーンはテントの側で、アオ達と同じように『水球』から塩の結晶を取り出していた。
やはり、住民達に私の事が伝わったのか、どう接したらいいのか、戸惑い、迷った感じで、近付いては来なかった。
仕方ない…。
リーンは塩作りに専念した。
この山間では、塩はとても貴重だ。
アオも気付いていたみたいだが、今後の貯水槽や土砂崩れの建設費の費用を、塩の売買によって使うことになるだろう。
そうでなくとも、この集落の収入源となる。
その為にも、少しでも多くあった方がいい。
少しは自分用の、ストックに頂いていくけれど。
…海の領域だから、たぶんフールシアが費用を支払うだろうが…。
そんな事を思いながら、『水球』と塩の結晶を作っていると、話し合いが終わったダレスが近付いて来た。
「今夜、お迎えに来るそうです」
「…わかった」
そう答えるしかなかった。
来るなと言っても、貯水槽の事があるし、必ず顔を出すだろう…。
しばらく戻って来れない可能性を考えると、ルーク達に何て言えばいいのか…。
魔力は戻ってくるが、なんとも言えないモヤモヤとしたものが身体の中で渦巻いている…。
「…。」
考えても仕方のない事なのだけれど…。
リーンは無心になって『水球』と塩の結晶作りに、没頭した。
夜が更けて、各自、皆が寝静まった頃、リーンはテントから出て、湖の水際を歩いていた。
空は満月に近い、少し掛けた月が湖の水面を照らし、時折吹く風が水面揺らしている。
『ちょっと出かけてくる』と、置き手紙を置いてきたから、心配はないだろう…。
荷物も置いてあるし、戻ってくるのは分かるだろうから…。
普段、一人でいるから、こんな風に誰かを置いたまま、出掛けることも無いし、これで合っているのかわからない…。
…心配…するだろうか…。
そんな事を思いながら歩いていると、背後で足音がした。
足を止め振り向くと、ルークが追いかけて来ていた。
「…。」
「どこへ行くんだ?」
月明かりの中、心配そうにルークが近付いて来る。
「…。」
…答えられない…。
今から、何をしに、どこへ行くなんて、答えられない…。
戸惑いが、リーンを襲う。
目の前に来たルークが、リーンに触れようとした時、穏やかだった水面に水柱が上がり、水飛沫が辺り一面に広がって、中から紺色の水竜が姿を現す。
そして、リーンの回りを透明の膜『水泡』が包む。
「リーン!」
ルークの伸ばした手は、リーンに触れることが出来ないまま、空をつかんだ。
リーンは苦笑いして、ルークを見る。
こんな筈ではなかった。
ただ、魔力を回復してもらう為だけなのに、フールシアの元に行くことが、こんなにも苦しいなんて思いもしなかった。
「リーン!」
ルークが叫ぶ声が聞こえる。
水竜はリーンの入った『水泡』を掴むと、水中に潜った。
何でこんなに、胸を締め付けるように…苦しい…。
リーンは『水泡』の中で、叫ぶルークの姿が目に焼き付いて離れず、しゃがみこんだ。
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