神の宿り木～旅の途中～ルーク～ …旅の終わりの始まり…⦅完結⦆

人魚の泉～海の魔法石～

リーンの癒し

「…リーン」
　声をかけられ、ハッとして目を開けた。
　目の前にルークがいて、心配そうに覗きこんでいる。
　…なんでココに…。
　…そうだった。
　リーンはゆっくりと、思い出した。
　集落のフールシアにきて、魚人のダレスに、
「…神殿に隣接する部屋は貴方が暮らしていた時のままです。ご自由にお使い下さい」
　そう言われて、部屋のベッドに横になり、昔の事を思い出しているうちに、眠ってしまったのだ…。
「…。」
「リーン。まだ、寝ぼけているのか？」
　ルークがベッドに横たえているリーンの頬に触れてくる。
　…暖かい。
「…起きたよ…」
　リーンは身体を起こし、ベッドから降りた。
　部屋に設置された『光玉』が、部屋の中を照らしている。
　もう、そんな時間なのだろうか…。
「疲れてたのかも…いつの間にか眠ってしまったみたいだ…」
「もう、夕食の時間だ。」　
「…うん」
　リーンはルークと一緒に部屋の外に向かう。
「それにしても、この部屋、集落のどの家よりも、大きくてしっかりしているな…」
　ルークが部屋の中を見回す。
　それは、そうだろう。
「…そうだね。この部屋の隣は、守り神である竜人族のフールシアを崇める神殿だから…」
「…。」
　ルークは何か言いたげだったが、何も言わず、部屋を出た。
　外に出ると、日は陰り、薄暗くなっていた。
　かなり長時間、眠っていたみたいだ。
「でも、どうしてココにいると、分かったんだ？」
　この部屋に居ることは知らないはずなのに…。
「魚人のダレスが、多分、この部屋にいると言っていた」
「そうか…」
　もしかしたら明日には、集落の住民全てに、私の存在が知られてしまっているかもしれない…。
　かつて、ココに滞在していた事を…。
　フールシアと、契約しているしている者だと…。
　二人は水上集落の桟橋を渡り、テントのある馬車まで戻って、夕食にした。
　話題は貯水槽の話しと、『水球』の話し。
　流された貯水槽は、修理すれば多少使えるらしく、しばらくの間、それでしのぐそうだ。
　『水球』のシャワーもだいぶん調整が出きるようになってきたので、獣人族の炎を使える者に、『水球』に張り付ける魔法を教える事になったらしい。
　そんな話を聞いていても、リーンは半分くらい上の空だった。
　…あんな夢を見たせいだ！
　なんとなく、いつもと様子が違うリーンには触れず、三人は食事を終え、早めにテントへ入って就寝することにした。

　一人用のテントの中で身体を横たえていると、入口がごそごそと開き、ルークが中に入ってきた。
「…なっ…」
「しぃ～っ」
　ルークは口に指を当てて、テントの幕を閉める。
　一人用のテントたが、ほとんどの荷物を馬車に乗せてあるので、ギリギリ二人が横になれないことはない。
　リーンの隣にルークが横になると、ルークはリーンの頬に触れてきた。
「何か、考え事してるだろ。…俺達に言えない事なんだろうけど…」
「…。」
「一緒いるときぐらい、頼って、甘えてくれると嬉しいんだが…」
　そう言ってルークは苦笑いをする。
　リーンはルークの胸に顔を埋めた。
　…言えない…。
　わかってしまうかも知れないけれど…。
　ルークの腕がリーンを引き寄せ、身体を密着させる。
　…暖かい。
　この温もりが、何故か癒してくれる…。
　ルークの引き寄せた手が、リーンの髪を撫でる。
　…こんな風に、髪を撫でられるのが好きだ…。
　…昔、ジンもよく、撫でてくれた。
　…休息できる…場所…。　
　…安心…出来る…人…。
　リーンはそのままルークの温もりに包まれて、眠りについた。

　しばらくすると、そっとテントを覗きにアオとガーディが、顔を出した。
「…眠ったんですか…」
「ああ。」
「…なんか、思い詰めてるみたいだったけど…」
　アオが心配そうに、覗きこむ。
「話したくないこともあるさ…。いつか、話してくれると嬉しいな…」
　そう言って、ルークは微笑んでリーンの髪を撫でた。
　アオとガーディは、ため息をついて顔を見合わせた。
「おやすみなさい。ルーク様」
「おやすみ…」
　テントの幕を下ろした。