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人魚の泉~水上集落~

貯水槽 2

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 リーンはアオに『水球』の回収を任せ、貯水槽より上の方まで移動してきた。
 地盤が緩んでいる…。
 大地に水が流れ込みすぎて、いつ土砂崩れが起きてもおかしくない!
 貯水槽の前で『水球』を作る、魚人の男に声をかけた。
「『空の壁』か『水の壁』を作れる者はいるのか!」
「…『水の壁』なら…作れる!」
 急に声をかけられ驚いて、目を向きながらこっちを見る。
「上の方に、杭を打つ!大地が動いたら直ぐに防御を張ってくれ!」
 そう言い残し、さらに上へと登っていく。
 足場が悪いので、『風霊』の力を借りて、体を浮き上がらせ、『物質保管庫』から、『くいの枝』を取り出し、地盤が緩い場所に突き刺していく。
 刺したところから、地中に根を張るように伸びていく。
「どこまで、杭が打てるか…」
 貯水槽の上、周辺に『くいの枝』を打ち込み、足場のよさそうな、巨大岩の上に降り立つ。
「『フィールド転開てんかい』!」
 リーンの足元に複雑な文字の書かれた魔方陣が浮かび上がり、光を放つ。
「『つたのネット』!」
 リーンが打ち込んだ『くいの枝』から、横にある『くいの枝』まで、つたが伸びてきて、荒いネットになり、それが何段にも繋がって、防御ネットを作る。
「これで、少しは防げるはず…」
 そして、一息付いて、空に手を掲げた。
「『水球』!『天水球』!」
 大地から竜巻のように水が立ち上り、一旦水の固まり『水球』になり、そこからさらに水柱が一ヶ所に集まり『天水球』になっていく。
 大地に染み込んでいる水は、一度、外に出してからでないと、『天水球』を作ることが出来ない!
 どこまで、吸い上げられる!
 直接、水を吸い上げるのではないから、時間がかかる…!
 貯水槽に被害が出ないくらいまで、どれくらい時間がかかる!
 何とか、一個目の『天水球』が作り終える頃、ゴーッと、言う音と、共に大地が揺れ、土砂崩れが発生してしまう。
 リーンは『風霊』に、引き上げられ難を逃れ、少し離れた木の枝の上にいた。
 目の前を土砂が流れ、いくつもの木も、飲み込んで行く…。
 急遽作った『つたのネット』に大きな石がいくつも引っ掛かり、その上を越えるように、土砂が流れていく。
 リーンは土砂の流が収まるまで、その場でじっと見ているしかなかった。
「…貯水槽は無事だろうか…」
 ある程度、直接回避は、できていると思うが、実際目で見てみないと、不安で仕方がない。
 土砂の流がゆっくりになり、勢いは止まった。
「…。」
 リーンは木の枝から離れ、『風霊』に運んでもらいながら、土砂崩れの範囲を確認して、貯水槽まで降りていった。


 貯水槽の前で、水の壁を作り、土砂を集落とは反対側に誘導した、な残りの壁が並んでいた。
 何とか流されることなく無事のようだ。
 貯水槽の側には、アオと魚人達が力を使い果たし、座り込んでいる。
「…アオ」
 リーンが、地上に降りて声をかけると、アオは疲れた顔で笑った。
「…腰抜けて…しばらく動けない…」
 リーンもほっとして微笑む。
「…お疲れ様」
 リーンはアオ前にある『天水球』を手に取り、中からアオの魔法石を取り出し、アオに手渡す。
「『天水球』『光のコーティング』」
 まだ、いくつか残っていた『水球』を回収し、手のひらサイズに固定させる。
 リーンが上部で作った『天水球』も同じようにコーティングして、腰に下げたポーチの中にしまう。
「ルーク達が待っているから、降りよう…」
 リーンはアオの手を取り、立ち上がらせた。
 近くにいた魚人達も、呆然とその様子を見ていて、ハッと我に返り、立ち上がって近付いてきた。
「…旅の人。助かったよ…」
「…ああ。集落が助かった…」
「…ありがとう。旅の人…」
 リーンとアオは、微笑んで、
「まだ、足元が悪いので、気付けて降りましょう」
 リーンは魚人達と一緒に山を降りはじめた。
「あの壁は、一時凌ぎなので、あらためて、強固な壁を作った方がいいですよ。もう一つの、貯水槽の復旧もありますが…」
「ああ。…あるじに相談してみる」
「…。」
 あるじって、竜人族のフールシアの事…だよな…。
 相談するって事は、報告が行くよな…。
 …でもって、やっぱり来だろな…。
 リーンはため息と、苦笑いをするしかなかった。

 


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