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旅の始まり
眠る人
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朝靄の中、馬車が街道から少し離れた場所を移動していた。
昨日の夕方、白い獣が出没し、逃げて戻って来たのだと、町中で騒いでいたからだ。
警戒し少し森から離れた草原を走る。
馬車には五人の若い男達が乗っていた。
「確かこの辺じゃないか?昨日の白獣が現れた場所ってのは…」
馬車から細身の茶髪の青年が外を覗き込む。
「多分そうだろう。中間地点の休息場に使う林がある」
草原の中に、所々樹木が多い繁る雑木林があり、小川が流れていて、良く休憩所に使われている。
その中でも、一番大きい小川があり、乗り合い馬車が良く停まっている記憶があるからだ。
体格の良い赤毛の青年が外を見て言う。
「町で騒いでましたからね…」
「子獣を拐った密猟者と、乗り合い馬車が鉢合わせしたらしいからな…。よく、無事に戻って来れたよ」
うんうんと、頷いている。
「ああ。移動者がたまたま同乗していたのと、その人に保有魔力を与える事の出来る人が居たからだろ」
「保有魔力を与えた者だけが、まだ戻って来てないらしい。とも、言ってたな」
「動けなくて、まだ近くに居るかもしれないですね」
そんな話を聞きながら窓から外に視線を向けると、森とは反対側の丘の中程に、不自然な形の木が目にはいる。
辺りが明るくなってきて、木の影がハッキリと見え始めたから気付いたのもある。
「あれ、何だと思う?あの木の枝付き変じゃないか?」
奥の方にいた金髪の青年が視線を動かさず声をかける。
「あそこだけ、屋根みたいに…」
同乗していた青年達がその視線の先にある木を見つける。
「本当ですね。まるで夜営のテントみたいに…」
金髪の青年は立ち上がり、馬車から飛び降りた。
「ルーク様!」
青年はそのまま木に向かって走り出す。
「おい!馬車を止めろ!ルーク様が飛び降りた!」
細身の青年が、慌てて御者に声をかける。
馬車内は慌てふためいて、馬車がゆっくりとスピードを落とした。
「カズキ。悪いが、あの木方へ向かってくれ」
そう言って、不自然な形の木を指差す。
そして、ゆっくりと馬車の方向を変え、苦笑いする。
「まっすぐ帰れるはずないですよね」
「ああ。そこはルーク様ですから」
細身の青年はニコリと笑い、御者の肩を叩いた。
木の枝葉の屋根の下には、人が眠っていた。
フードを深く被っているので、男か女かは分からない。
近付くと、大地からいばらが飛び出して来て、その人を守るようにバリケードを作る。
「…。」
そして、その場から少し離れると、いばらは大地に戻っていく。
「…。」
こんな魔法が有るのか?
本人は眠っているのに、木々が勝手に動いて守護するなんて、見たこと無い。
魔法道具とも、違う…。
「…ルーク様」
追い付いてきた者達が馬車から降りてくる。
「もしかして、昨日の協力者ですかね。保有魔力を補填してくれたとか言う…」
そうかもしれない。
「…。ここにテントを張って目覚めるまで待つ」
「しかし…。カザナ街への急ぎの配達が有りますよ」
ルークは少し困ったように顔を歪める。
昨日、配達される予定だった医療用の治療薬を待っている患者がいるのだ。
昨日、状況確認の為、乗り合い馬車の運営所に赴いたとき、困っていたので商品を積んで来たのだ。
どうせ行く方向は一緒なのだから、配達すると。
保証として個人馬車の通行証を見せ、直ぐに荷物が準備された。
待っている患者がいることだし、約束を違える訳にはいかない。
「俺はここにとどまる。アオとカズキが先に街へ行って届けてくれ。ここに、二、三日居れるくらいの食料は有るだろ?」
なぜだろう…。
誰かに、呼ばれた気がした…。
眠る人を少し遠目に見る。
「…仕方ないですね…」
朝日が登ってきて、辺りが明るくなってくる。
馬車から荷物を下ろして二つのテントを張り、中へ食料や器材を入れ、夜営の準備を始める。
いつもの事だから手慣れていて、直ぐに準備が整った。
「配達してからお屋敷に一度寄って、また、戻って来ます。くれぐれも注意してくださいね」
そう言って、アオと御者のカズキは馬車に乗り、街へと向かっていった。
彼らを見送り、気になって、眠る人を見る。
「やはり、協力者ですかね…」
体格のいい赤髪の青年がぽそりと言う。
「可能性は高いな…」
昨日の夕方の事で、今朝なのだ。
動けず、ここにとどまっている可能はある。
「しかし、こんなところで一人で眠るなど、自殺行為だ!いつ猛獣が襲ってくるのか分からないのに!」
その通りだ。
いくら、あのいばらが守護しているとはいえ…。
「目覚めるまで、白獣が来た林の休憩所を見に行くぞ。…ガーディは留守番頼む」
二人は街道に向かって歩き始めた。
休憩所だろう場所は、猛獣が暴れた後があり、草が踏み潰され、所々地面が抉れていた。
足跡が森に向かっているので、森に帰ったのだと確信する。
「ツコマ町の乗り合い馬車の運営所へ、連絡を入れて置きましょうか。白獣は森に帰ったから、もう大丈夫だと。朝一便は取り止めてたみたいだし…」
安全が確認出来なくては、乗り合い馬車も運行出来ないだろう。
「そうだな。…協力者らしき人も見つけたと、伝えておこう」
「はい。」
白髪のジェスは『風の便り』、鷹の姿の伝令鳥を魔法で作り出し、ツコマ町へと送った。
ふと振り向き、眠る人の居る、木までの距離を見ると、テントがハッキリ見えるくらい近く、複雑な気持ちになる。
ここから、あの木までの距離は余り無い。
もし猛獣が、その人の存在に気付いたとしたら、狙われていたのは確実だ。
ぶるりと、身震いする。
…何故だろう。
その人と、出会わなければいけない気がした。
昨日の夕方、白い獣が出没し、逃げて戻って来たのだと、町中で騒いでいたからだ。
警戒し少し森から離れた草原を走る。
馬車には五人の若い男達が乗っていた。
「確かこの辺じゃないか?昨日の白獣が現れた場所ってのは…」
馬車から細身の茶髪の青年が外を覗き込む。
「多分そうだろう。中間地点の休息場に使う林がある」
草原の中に、所々樹木が多い繁る雑木林があり、小川が流れていて、良く休憩所に使われている。
その中でも、一番大きい小川があり、乗り合い馬車が良く停まっている記憶があるからだ。
体格の良い赤毛の青年が外を見て言う。
「町で騒いでましたからね…」
「子獣を拐った密猟者と、乗り合い馬車が鉢合わせしたらしいからな…。よく、無事に戻って来れたよ」
うんうんと、頷いている。
「ああ。移動者がたまたま同乗していたのと、その人に保有魔力を与える事の出来る人が居たからだろ」
「保有魔力を与えた者だけが、まだ戻って来てないらしい。とも、言ってたな」
「動けなくて、まだ近くに居るかもしれないですね」
そんな話を聞きながら窓から外に視線を向けると、森とは反対側の丘の中程に、不自然な形の木が目にはいる。
辺りが明るくなってきて、木の影がハッキリと見え始めたから気付いたのもある。
「あれ、何だと思う?あの木の枝付き変じゃないか?」
奥の方にいた金髪の青年が視線を動かさず声をかける。
「あそこだけ、屋根みたいに…」
同乗していた青年達がその視線の先にある木を見つける。
「本当ですね。まるで夜営のテントみたいに…」
金髪の青年は立ち上がり、馬車から飛び降りた。
「ルーク様!」
青年はそのまま木に向かって走り出す。
「おい!馬車を止めろ!ルーク様が飛び降りた!」
細身の青年が、慌てて御者に声をかける。
馬車内は慌てふためいて、馬車がゆっくりとスピードを落とした。
「カズキ。悪いが、あの木方へ向かってくれ」
そう言って、不自然な形の木を指差す。
そして、ゆっくりと馬車の方向を変え、苦笑いする。
「まっすぐ帰れるはずないですよね」
「ああ。そこはルーク様ですから」
細身の青年はニコリと笑い、御者の肩を叩いた。
木の枝葉の屋根の下には、人が眠っていた。
フードを深く被っているので、男か女かは分からない。
近付くと、大地からいばらが飛び出して来て、その人を守るようにバリケードを作る。
「…。」
そして、その場から少し離れると、いばらは大地に戻っていく。
「…。」
こんな魔法が有るのか?
本人は眠っているのに、木々が勝手に動いて守護するなんて、見たこと無い。
魔法道具とも、違う…。
「…ルーク様」
追い付いてきた者達が馬車から降りてくる。
「もしかして、昨日の協力者ですかね。保有魔力を補填してくれたとか言う…」
そうかもしれない。
「…。ここにテントを張って目覚めるまで待つ」
「しかし…。カザナ街への急ぎの配達が有りますよ」
ルークは少し困ったように顔を歪める。
昨日、配達される予定だった医療用の治療薬を待っている患者がいるのだ。
昨日、状況確認の為、乗り合い馬車の運営所に赴いたとき、困っていたので商品を積んで来たのだ。
どうせ行く方向は一緒なのだから、配達すると。
保証として個人馬車の通行証を見せ、直ぐに荷物が準備された。
待っている患者がいることだし、約束を違える訳にはいかない。
「俺はここにとどまる。アオとカズキが先に街へ行って届けてくれ。ここに、二、三日居れるくらいの食料は有るだろ?」
なぜだろう…。
誰かに、呼ばれた気がした…。
眠る人を少し遠目に見る。
「…仕方ないですね…」
朝日が登ってきて、辺りが明るくなってくる。
馬車から荷物を下ろして二つのテントを張り、中へ食料や器材を入れ、夜営の準備を始める。
いつもの事だから手慣れていて、直ぐに準備が整った。
「配達してからお屋敷に一度寄って、また、戻って来ます。くれぐれも注意してくださいね」
そう言って、アオと御者のカズキは馬車に乗り、街へと向かっていった。
彼らを見送り、気になって、眠る人を見る。
「やはり、協力者ですかね…」
体格のいい赤髪の青年がぽそりと言う。
「可能性は高いな…」
昨日の夕方の事で、今朝なのだ。
動けず、ここにとどまっている可能はある。
「しかし、こんなところで一人で眠るなど、自殺行為だ!いつ猛獣が襲ってくるのか分からないのに!」
その通りだ。
いくら、あのいばらが守護しているとはいえ…。
「目覚めるまで、白獣が来た林の休憩所を見に行くぞ。…ガーディは留守番頼む」
二人は街道に向かって歩き始めた。
休憩所だろう場所は、猛獣が暴れた後があり、草が踏み潰され、所々地面が抉れていた。
足跡が森に向かっているので、森に帰ったのだと確信する。
「ツコマ町の乗り合い馬車の運営所へ、連絡を入れて置きましょうか。白獣は森に帰ったから、もう大丈夫だと。朝一便は取り止めてたみたいだし…」
安全が確認出来なくては、乗り合い馬車も運行出来ないだろう。
「そうだな。…協力者らしき人も見つけたと、伝えておこう」
「はい。」
白髪のジェスは『風の便り』、鷹の姿の伝令鳥を魔法で作り出し、ツコマ町へと送った。
ふと振り向き、眠る人の居る、木までの距離を見ると、テントがハッキリ見えるくらい近く、複雑な気持ちになる。
ここから、あの木までの距離は余り無い。
もし猛獣が、その人の存在に気付いたとしたら、狙われていたのは確実だ。
ぶるりと、身震いする。
…何故だろう。
その人と、出会わなければいけない気がした。
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