先読み~あなたが一緒じゃなければ眠れない~⦅完結⦆

ゆう

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日常

後片付け

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 アヤトが重い身体に鞭を打って、朝食の片付けをしていると、カイトが食堂に顔を出した。
 そう言えば、帰って来ていたんだった…。
 寝坊して、朝食と弁当の事と、ハズキの事で頭がいっぱいになっていたアヤトは、ふと思い出す。
 えっと…あの青年、まだ帰ってないよね…。
 昨日、昼過ぎにカイトを訪ねて来た青年の姿は見ていない…。
「…朝食、残り物で良かったら有るよ」
 唐揚げ、ばっかりだけど…。
「そうだな、もらう。あと、昼前にでも軽い食事を頼めないか」
「良いけど、部屋に持っていく?」
 …二人分だよね…。
「ああ。…それと、服、貸してくれないか」
 カイトは言いにくそうに頭をかきながら言う。
「服?」
 アヤトは首を傾げる。
「…ちょっと汚れて…体型似てるのお前だけだし…俺のを着せるわけにもいかないし…」
 …ああ、そう言うこと…。
 アヤトは少し頬を染めて答える。
「…。良いけど、上下だけだからね」
「…悪い」
 やっぱりそうなんだ…。
 昨日、あの青年と…。
 そう思いながらも、自分達もしていた事を思い出し、アヤトは頬を染め、部屋に着替えを取りに入った。

 アヤトが部屋に入り、シャツとズボンを持ってカイトの元に行き、アヤトは気になっていたことを聞く。
「…連合軍の人だよね」
「…ああ、サクラの弟分だ」
 カイトはさらっと言ったが、アヤトは驚いた。
 えっ?!
 サクラさんの弟分?!
 ソレって、連合軍の秘蔵っ子とか言われている人の事じゃないの?!
 サクラさんから、可愛い弟分の事は聞いている。
 サクラさん達が訓練生の頃、演習場で見つけ、そのまま保護した子供の事…。
 学生寮に入れるようになるまで、サクラさんの家で暮し、溺愛しているのを知っている。
「ちょっと!早く帰してあげないと大変なんじゃないの?!」
「…サクラに連絡はしてある」
「そう…それなら良いけど…」
 カイトはアヤトから服を受け取り、唐揚げの乗った皿を一つ持って、部屋へと戻っていった。
 それを見送りアヤトはタメ息を付いた。

 カイトさんと青年の事も気になるが、これからの自分とハズキさんの事もだ。
 …アレは事故だったと思って、忘れれば良いか…?
 今朝のハズキさんの感じでは、どう思っているのかわからない…。
 僕は…どう感じているのだろう…。
 …考えた事も、無かった…な…。

 アヤトはふと思い出して、自分の部屋に戻った。
 さっき、部屋へ貸し出す服を取りに行って気が付いた。
「…シーツ。洗わなきゃ…」
 グシャグシャになって、汚れたシーツが目に入ったからだ。
 このまま置いておくと、汚れが落ちなくなってしまう…。
 アヤトはシーツを引き剥がして、洗濯場に向かった。
 とりあえず先にコレだけ洗おう…。


 午前のアヤトのする仕事が終わり、カイトさんの部屋に食事を二人分運んだ。
 さすがに唐揚げは胃もたれするから、スープとパンとサラダを…。
「悪いな。あと、魔動車を使うから出して置いて」
「うん、わかった」
 アヤトはチラリと部屋を覗くが、青年の姿が見えないので、まだ眠っているようだ。
 帰っていないのならば…。
 アヤトはカイトの部屋を出て、隣のハズキの部屋を通りすぎようとしたとき、ハズキの部屋の扉が急に開いて、中に引っ張り込まれた。
「?!」
 驚くアヤトは、ハズキに壁に押さえ込まれて身動きが出きなくなってしまう。
 そしてハズキがアヤトに顔を近付けてきて、息がかかるほど近くまで顔を寄せてくる。
 なに…?
 ドキドキしている…?
 昨日の事が有ったから余計に…。
 押さえつけられ、触れる場所からハズキの体温が伝わる…。
「僕の分は?」
「頼まれてない」
 頼まれていないのに、食事を運んだりはしない。
「今日、買い出しの日だよね。一緒にドライブしようよ」
 ハズキは楽しそうに言う。
 ドライブって…。
 アヤトはわからないモヤモヤしたものを感じた。
 コレはなんだろう…。
 誘われて嬉しいのと、昨日の事が角に引っ掛かる。
 買い出し、身体も怠いから、一人では辛いかも…。
「…荷物持ち、してくれるなら…」
 アヤトが上目遣いでそう言うと、ハズキは嬉しそうに笑う。
 やはり何を考えているのかわからない…。
「約束」
 そう言ってハズキはアヤトに口付けてくる。
 アヤトは驚いてハズキを押し退けると、慌てハズキの部屋を出た。
 だからって、何で、口付けてくる?!
「約束だよ」
 そう言ってハズキはアヤトの後をついてくる。
 …早い昼食を食べに来るつもりか…。
 階段を降りて調理場に入ると、ハズキが食堂のカウンターから調理場を覗く。
 今日の昼は何かなと、楽しそうにこっちを見るので、アヤトは残りの唐揚げを皿に盛って出した。
 唐揚げを揚げすぎたのだ。
「…カイトは別のメニューだったよね…?」
「…誰のせいだと思う」
「…僕?」
 ハズキは可愛らしく首を傾げるが、それを無視して、今日、休みで屋敷にいる、もう一人の住人の分の昼食を準備し始めた。

 今日の昼は唐揚げのサンドイッチ。
 何故なら唐揚げを揚げすぎたからだ。
 それに、元々、今日はサンドイッチの予定で、サンドイッチ用のパンを準備していたのもある。
 茹で玉子はお昼のお弁当に入れてしまったし、唐揚げを夜にまで持ち越したくなかったからだ。
 カイトさん達も、出掛けるから魔動車を用意しておいてと言われているので、サンドイッチを遅めのお昼の弁当か、おやつにでもするように渡すことにした。


 アヤトはカイトに言われた魔動車を車庫から出して、玄関に停めて食堂に戻ると、ちょうど二階からカイトと青年が降りてきた。
 アヤトは魔動車の鍵と、サンドイッチの入った鞄を手に取ると玄関ホールに向かった。
「魔動車、出しておいたから」
「悪いな」
 アヤトは魔石の付いた鍵をカイトに渡す。
 魔動車は、炎と風の魔石を混ぜ合わせた魔石の鍵で動く車だ。
 この特殊な鍵がなければ動かない。
 アヤトはカバンを青年に差し出した。
「…お昼」
「…ありがとうございます」
 青年は驚きながら、受け盛るために鞄に手を伸ばし、わずかにアヤトの手に触れた。
「…つっ…?!」
 青年が驚いたように声をあげた。
 えっ?!どうしたの?!
「…どうした?」
 カイトが青年に声をかけると、青年はハッとして僕を見てカイトに言った。
「…彼は、サクラさんの婚約者のマサトさんと何か関係が?」
「「…!?」」
 カイトと僕は目を丸くして青年を見た。
「なぜ、マサトを知っている」
 カイトが訪ねている。
「…サクラさんと一緒に何度か会った事があって…」
 青年がアヤトの方を見る。
「彼に触れたら、マサトさんが見えたから…」
 マサト兄さんが…見えた…?
 カイトは大きなタメ息を付いて言う。
「…マサトの弟、アヤトだ」
「そうだったんだ…」
 青年は納得したように大きく息を吐いた。
「…『先読み』と言うことは、マサトは生きているのか?」
 カイトがそう訪ね、アヤトは目を見開いて青年を見る。
 もしかして、マサト兄さんは生きている…?
「分からない…。生きているかも知れない…」
 青年がそう言うと、アヤトの目から勝手に涙が流れ出てきた。
「兄さんが…生きているかも…」
 行方不明だった兄が生きているかも知れない…。
 そう思うと、胸が締め付けられるようにドキドキした。
「…正確ではないよ。過去の残像が見えただけかも知れないから…」
 青年は言葉を濁した。
「…そうだね」
 何を期待したのだろう…。
 アヤトは涙を拭って苦笑いした。
 少し期待したが、今さらなのだ。
 あれから何年も過ぎているのだ。
 生きているなら、どうして帰ってこない…。
 帰れない事情があるのかも知れないが、生きていると期待してはいけない…。

「…それじゃ、ちょっと行ってくる」
 カイトはそう言って屋敷から出ていき、青年はアヤトに『ありがとう』と頭を下げると、お弁当の入ったカバンを持って、慌ててカイトを追いかけて行った。

 …カイトさんにはもったいないくらいの、良い人そうだ…。
 サクラさんの弟分…だもんね…。
 アヤトは二人を見送ると、零れた涙を拭い、苦笑いして食堂に戻った。

 
 



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