腕の中に堕ちた狼~フェイ~『眠っていた魔力紙を折紙みたいに折ったら、新しい魔法が使えたので役立てます』番外編

ゆう

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不安 ~ザザ~

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「…さん。…ザザさん」
 ぼんやりとしていたザザは、声をかけられハッとした。
 声をかけてきたのは、一緒に馬車に乗っている医療班の一人。
「ザザさん。フェイさんを床に寝かせて下さい」
 そう言われて、腕の中で眠るフェイを抱き締めていることに気が付いた。
「フェイさんの自己回復が発動して、ほんのり身体が光ってます。そのままの体勢だと、変な風に回復してしまうので、真っ直ぐに寝かせて下さい」
 ああ、そうだ…。
 身体の内部を自己回復するのに、抱えたままだと、その体勢で固まってしまうかもしれない…。
 ザザはそっと手を離し、医療班が馬車内の寝させられる場所に毛布を敷いてくれたので、その上にフェイを寝かせた。
 後は医療班の人が、少し揺れる馬車内で、動いてしまうフェイの身体を支えてくれた。
 何も出来ないザザは、その姿をジッと黙って見ているしかなかった。


 馬車が、猫族の町ミルーシャにたどり着き、病院の前に横付けされると、先に連絡が行っていたのか、中からタンカを持った人が出てきて、フェイや他の怪我人を建物内へと運んで行った。
 ザザは邪魔しないように、それを見送ることしか出来なかった。
 ボーッとしていると、御者をしていたエリルがやって来て、頭を軽く叩かれた。
「しっかりしろ!」
「…エリル」
 ザザはなんとも言えない不安を抱えて、エリルを見た。
「いつもの調子はどうした?警備隊なら怪我をする事もあるのは、分かっているだろう」
「…。」
「前回の事で、分かっていたはずじゃないのか?」
 前回とは、一年ほど前、魔獣によって壊されかけた結界の魔道具を補強し、魔獣を結界に閉じ込めた件だ。
 あの時もフェイは怪我をして、数日、ザザの家に滞在していた…。
「怪我をしないことに越したことは無いが、怪我をしてしまうことは割りきれ!剣を手にすると言うことは、同じだけのモノが返ってくる事を覚悟しろ。と、さんざん言ってきた事だろう…」
 分かってはいる…。
 分かってはいるが、どうにも割り切れないのだ…。
 エリルは大きなタメ息を付いて言う。
「…フェイを側に繋ぎ止めておきたいのなら、ハッキリ意思表示した方が良い…。危険な任務に付くこともあるから、永遠の別れになってしまうかもしれないんだぞ」
「…。」
 フェイを側に繋ぎ止める…。
 俺はフェイを側に繋ぎ止めて起きたいのか…。
 よく分からない感情がザザの中で巡る。
 フェイと一緒に買い物したり、食事をしたり、ナイフを結界の魔道具のように改良するのに話し合ったり、それはとても楽しい事だ。
 飲み仲間とは違う楽しさが有る…。
 かと言って、フェイは警備隊として町や村を巡回する…。
 ずっとミルーシャにいるわけではない…。
 今回も、たまたまミルーシャに来ていただけで、本来の本拠地は、狼族の村ギガスなのだ…。

 エリルが大きなタメ息を付いて言う。
「今さら待つ者の不安を知って、暗い顔をするな!」
「…。」
 待つ者…。
 危険な任務に付く家族を送り出し、無事に帰ってくることを願いながら、待つしかないのだ…。
 今まで、そこまで不安を感じたことはなかった。
 飲み仲間達が任務に赴いても、それが仕事なのだと、この町を守ってくれているのだから…。
 そう思っていたはずなのに…。
 それがフェイだと思ったら、落ち着きがなくなった…。
 ザザは、今まで、帰りを待つ者の不安と言うものを知らなかった…。
 やるせない気持ちで佇んでいると、病院の中から、俺達を見つけて、こちらに声をかけてきた。
「中にいる警備隊の方の、親しい人は近くにいらっしゃいますか」
 ザザとエリルが顔を見合せて、声をかけてきた人の方を見る。
 どうしたんだ?
「俺達は親しくしているが…」
 彼は苦笑いして言う。
「えっと…部屋へ入って下さい。説明致します」
 どう言うことだ?
 ザザとエリルは言われるまま、病院内に入った。
 そして案内された病室の個室のベットには、治療を終えたフェイが寝かされていた。


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