聖～ひじり～ ソレを恋と呼ぶならば。⦅完結⦆

日常

聖の日常

　それから、クロが仕事を終え、土曜日の夜、日曜日の食事を持って、聖の元へ来てくれるようになった。
　それ以外の時でも、時間が空いたときに来てくれて、とても嬉しかった。
　平日に来てくれたときは、一緒にご飯を食べ、お風呂に入って、クロに膝枕してもらって本を読んで、深夜になる前に家に帰って行く。
　当たり前なのに、置いていかれるような気がしてならなかった。
　仕事が忙しかったのか、間に来てくれないときは、週末が待ち遠しくて、一週間がこんなに長いとは思わなかった。
　それくらい、今までと同じ生活をしているのに、クロの存在が聖の中で大きくなってきていた。
　でも日曜日は、一緒に昼前に起きて、食事をして、暖かい日差しの中、クロと一緒に本を読む。
　平穏な一日。
「明日は、朝早くから仕事だから、今日はもう帰るな…」
　仕事だから仕方ないのだが、何時もより早く帰ってしまうクロに、寂しくて甘えてしまう。
「…眠るまで…側にいて…」
　聖がベッドに入り、クロが布団の上から抱き締めるように添い寝してくれて、聖が眠ってしまうと帰ってしまう。
　クロの温もりを知ってしまったから、今までみたいに、一人で居ることが、寂しかったのだと、気付いてしまった。
　きっと、多分、もう一人で居た頃には、戻れない。


　そんなある日。
　絵を描いている滝たきが、庭の絵を描きにきているときだった。
　滝は、庭の四季を定期的に描きに来ていて、それを見ているのがとても好きだった。
　白い紙に、色付き始めた庭の紅葉が、写し取られていく。
　この家にも何枚も滝の絵が、飾られていた。
　急に滝が玄関の方を振り向いた。
　えっ？誰か来たの？
　聖も玄関の方を振り向き、笑顔になった。
「君が噂の」
「クロ！」
　玄関の方からクロが家に上がってきていて、嬉しくて微笑んだ。
「絵師の滝たきです。時々、この庭を描きにきているんです」
　滝さんとクロが、会うのははじめてだ。
　でも滝、クロの事、知っているみたいだったけど…。
「玄関とか、廊下に飾ってあっただろ。全部、滝がね、描いてくれたんだ」
　聖は無邪気に微笑んで、そう言った。
「俺はそろそろ帰るよ。出来上がったら、紅緒さんに渡しておくから」
　滝が急に道具をしまいだした。
　何か、用事を思い出したのかな？
「うん。よろしく」
　滝の片付け終わり、立ち上がると、聖も玄関まで送って行った。
「また、来るよ」
「うん。またね」
　聖は、クロが昼間から来てくれて嬉しくて、頬ほほが緩ゆるみっぱなしだ。
　滝を見送り、戻ってくると、クロは庭先に座り、ムッとしたていたので、顔を覗のぞき込んだ。
「どうしたの？」
「…あいつと…仲が良いのか？」
「滝？滝は、四、五年前くらいから、ここに出入りしている」
「…そうか…」
　クロが滝の事を気にしている？
「クロ？」
　クロに身体を引き寄せられ、胡座あぐらをかいて座る太ももの上に、跨またぐように座らされ、背中を支えられた。
「…嫉妬したんだ…」
　クロが照れくさそうに言う。
「えっ？」
「…あいつが、…羨うらやましく思えたんだ」
　もしかして、クロより付き合いの長い滝が、羨うらやましいと思ったのだろうか。
　聖はドキドキしてきて頬を染め、クロの胸に頭を擦こすり付けた。
　なんか…分かんないけど…嬉しい…。
「聖…」
「何？」
　聖が身体を近付けると、クロが寝巻き浴衣に手を差し込んできて、クロの手の中に包み込まれ、ピクンと身体が跳ね、ゆるゆると撫でられた。