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聖(ひじり)の生い立ち
桜~ベンチ~ 1
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聖がそこで暮らし初め、始めは使用人が二人いた。
そして時々、本家にも来ていた庭師が庭の手入れにやってきたり、家庭教師が週に2日来たり、父も月に一度は新しい本を持って来たりしていた。
兄も月に一度は顔を見せに来ていた。
元々、人付き合いの苦手だった聖は、ますます、籠りっきりになり、話もせず、現実味の無い生活を送っていた。
それを見かねた兄が、ある日、ノートを一冊持ってきた。
「お前は言葉にしないから、思ったことを書くんだ。その日に感じたこと、見たこと、何ても良い。毎日とは言わないから、一言で良い、聖も生きていることを実感して欲しい…」
兄が何か一生懸命言っていたが、何が言いたいのか、よく分からなかった。
次に来たとき、何も書いていないと知ると、兄は、小さなテーブルとペンを持ってきた。
「ココがノートと、ペンの置場所だ。聖が見ている事を気になったことを書いて、今度来たときに教えてくれ」
そう言って、庭の見える、いつも日向ぼっこをする、長い廊下の部屋の前の場所に設置していった。
「…。」
何日間か眺めていて、それが、違和感なく廊下に置かれていることが、当たり前になってきた頃、庭に猫が一匹入り込んで来た。
「…ネコ…」
それをじっとみていると、庭をうろうろと歩き回り、大きな木下で丸く丸まって、日向ぼっこをし始めた。
それがとても気持ち良さそうで、眠りながら手で顔を掻いたり、ひくひくと髭を動かしていて、いつまでも眺めていれるくらいだ。
まるで僕みたいだ…。
暖かい日差しの時は、廊下の真ん中で、ごろりと横になり読みかけの本を読む。
時には、そのまま昼寝して、使用人さんに毛布をかけられた、後で『風邪をひきますから、お部屋で寝てくださいね』と、注意されたが、最近は諦めて毛布だけかけてくれる。
ふと、廊下の片隅に置かれた、ペンとノートが目に入る。
声が出なかった時、文字を書いて兄妹と会話していた事を思い出し、ペンを取り、ノートを開いてペンを走らせた。
兄か沙羅が来たときにでも、教えてあげよう。
『庭にネコが来た。うろうろとして場所を定め、日向ぼっこを始めた。まるで僕みたいだ』
それから、ふと庭先に見えた、ささやかな情景を書き始める。
『庭師のおじさんが来た。甘いお菓子をくれた。蜜柑味のぷにょぷにょとした食べ物。ゼリーと言う果物の果汁を固めたもの。夏に冷やして食べると、冷たくて美味しいらしい。また、暑いときに持ってきてくれると言っていた』
日記のように書き始め、ソレはどんどんと文章が長くなり、ソレを見ながら、時間が流れていることを感じるようになった。
寒い冬が過ぎ、暖かくなってきたころ、庭の桜の木の蕾がピンク色に染まり始め、ゆっくりと咲いていくのを眺めていた。
その日はとても暖かく、桜の木の下に布を敷いて寝転んでいた。
見上げる桜がとても綺麗だったので、いつまでも見ていたかった。
空の青と桜のピンク色。茶色い木の枝。
このまま、この景色を切り取って飾っておきたいくらい、気に入った。
「聖さま。そんな所で寝転んでいると、風邪をひきますよ」
庭師のおじさんが、顔を覗かせた。
「…この桜、綺麗…」
おじさんはニコニコと笑い、提案してきた。
「今度、ここに置けるベンチを持ってきましょうか?」
「うん」
庭師のおじさんさんは微笑んで、枯れた枝を剪定し始めた。
そして、2日後。
庭師のおじさんがベンチを持ってきてくれた。
同じ歳くらいの、少年と一緒に…。
今は学校が休みで、孫を預かっていて、今日は、ベンチを運ぶのと、手伝いに連れてきたそうだ。
ベンチは木と金属で作られた、大人が三人が座れるくらいの長さがあるベンチで、二人が両脇を持って、桜の木の下に置いてくれた。
そして、さっそく聖は寝転がった。
ベンチは、足を伸ばしても十分長さがあり、地面に直接触れていないから、冷たくもない。
「綺麗…」
見上げる桜の木から、時折、ヒラヒラと花びらが舞い降りてきて、それを目で追いながら、庭師のおじさんがパチンパチンと枝を切る音を聞いていた。
少年はおじさんの手伝いをしていて、切った枝を集め大きな袋に入れていた。
枝を切る音と、歩く音が心地好く響いていて、子守唄のように眠気を誘う…。
気が付くと、そのまま眠っていたらしく、毛布がかけられていて、その上に桜の花びらが乗っていた。
おじさん達は帰る準備をしていて、道具を運んでいた。
聖が身体を起こすと、少年が、聖が起きたことに気付き、近付いて来て、髪の毛に着いた桜の花びらを取ってくれる。
「お前、消えてしまいそうだ。…嬉しそうに、楽しそうに、もっと笑え」
「…。」
何を言われたのか分からず、ぽかんとしていると、おじさんが少年の頭を小突く。
「すみません、聖さま。口が悪くて…」
「口が悪くない!笑ったら、かわいいと思ったから、そう言っただけだ!」
少年は真っ赤になって、おじさんに食って掛かる。
聖は呆然と、他人事のように、そのやり取りを見ていた。
「…。」
「ませガキが。聖さま、風が冷たくなってきました。部屋へ戻ってくださいね。それでは、失礼します」
そう言って、まだ何か騒いでいた少年を引っ張って、庭を出て帰っていった。
聖は辺りが静かなり、我に返る。
…笑うと…かわいい…?
そんな事を言われたのは初めてだった。
聖は部屋に戻り、その事をノートに書く。
…笑い方を忘れかけてる聖には、不思議な言葉だった。
そして時々、本家にも来ていた庭師が庭の手入れにやってきたり、家庭教師が週に2日来たり、父も月に一度は新しい本を持って来たりしていた。
兄も月に一度は顔を見せに来ていた。
元々、人付き合いの苦手だった聖は、ますます、籠りっきりになり、話もせず、現実味の無い生活を送っていた。
それを見かねた兄が、ある日、ノートを一冊持ってきた。
「お前は言葉にしないから、思ったことを書くんだ。その日に感じたこと、見たこと、何ても良い。毎日とは言わないから、一言で良い、聖も生きていることを実感して欲しい…」
兄が何か一生懸命言っていたが、何が言いたいのか、よく分からなかった。
次に来たとき、何も書いていないと知ると、兄は、小さなテーブルとペンを持ってきた。
「ココがノートと、ペンの置場所だ。聖が見ている事を気になったことを書いて、今度来たときに教えてくれ」
そう言って、庭の見える、いつも日向ぼっこをする、長い廊下の部屋の前の場所に設置していった。
「…。」
何日間か眺めていて、それが、違和感なく廊下に置かれていることが、当たり前になってきた頃、庭に猫が一匹入り込んで来た。
「…ネコ…」
それをじっとみていると、庭をうろうろと歩き回り、大きな木下で丸く丸まって、日向ぼっこをし始めた。
それがとても気持ち良さそうで、眠りながら手で顔を掻いたり、ひくひくと髭を動かしていて、いつまでも眺めていれるくらいだ。
まるで僕みたいだ…。
暖かい日差しの時は、廊下の真ん中で、ごろりと横になり読みかけの本を読む。
時には、そのまま昼寝して、使用人さんに毛布をかけられた、後で『風邪をひきますから、お部屋で寝てくださいね』と、注意されたが、最近は諦めて毛布だけかけてくれる。
ふと、廊下の片隅に置かれた、ペンとノートが目に入る。
声が出なかった時、文字を書いて兄妹と会話していた事を思い出し、ペンを取り、ノートを開いてペンを走らせた。
兄か沙羅が来たときにでも、教えてあげよう。
『庭にネコが来た。うろうろとして場所を定め、日向ぼっこを始めた。まるで僕みたいだ』
それから、ふと庭先に見えた、ささやかな情景を書き始める。
『庭師のおじさんが来た。甘いお菓子をくれた。蜜柑味のぷにょぷにょとした食べ物。ゼリーと言う果物の果汁を固めたもの。夏に冷やして食べると、冷たくて美味しいらしい。また、暑いときに持ってきてくれると言っていた』
日記のように書き始め、ソレはどんどんと文章が長くなり、ソレを見ながら、時間が流れていることを感じるようになった。
寒い冬が過ぎ、暖かくなってきたころ、庭の桜の木の蕾がピンク色に染まり始め、ゆっくりと咲いていくのを眺めていた。
その日はとても暖かく、桜の木の下に布を敷いて寝転んでいた。
見上げる桜がとても綺麗だったので、いつまでも見ていたかった。
空の青と桜のピンク色。茶色い木の枝。
このまま、この景色を切り取って飾っておきたいくらい、気に入った。
「聖さま。そんな所で寝転んでいると、風邪をひきますよ」
庭師のおじさんが、顔を覗かせた。
「…この桜、綺麗…」
おじさんはニコニコと笑い、提案してきた。
「今度、ここに置けるベンチを持ってきましょうか?」
「うん」
庭師のおじさんさんは微笑んで、枯れた枝を剪定し始めた。
そして、2日後。
庭師のおじさんがベンチを持ってきてくれた。
同じ歳くらいの、少年と一緒に…。
今は学校が休みで、孫を預かっていて、今日は、ベンチを運ぶのと、手伝いに連れてきたそうだ。
ベンチは木と金属で作られた、大人が三人が座れるくらいの長さがあるベンチで、二人が両脇を持って、桜の木の下に置いてくれた。
そして、さっそく聖は寝転がった。
ベンチは、足を伸ばしても十分長さがあり、地面に直接触れていないから、冷たくもない。
「綺麗…」
見上げる桜の木から、時折、ヒラヒラと花びらが舞い降りてきて、それを目で追いながら、庭師のおじさんがパチンパチンと枝を切る音を聞いていた。
少年はおじさんの手伝いをしていて、切った枝を集め大きな袋に入れていた。
枝を切る音と、歩く音が心地好く響いていて、子守唄のように眠気を誘う…。
気が付くと、そのまま眠っていたらしく、毛布がかけられていて、その上に桜の花びらが乗っていた。
おじさん達は帰る準備をしていて、道具を運んでいた。
聖が身体を起こすと、少年が、聖が起きたことに気付き、近付いて来て、髪の毛に着いた桜の花びらを取ってくれる。
「お前、消えてしまいそうだ。…嬉しそうに、楽しそうに、もっと笑え」
「…。」
何を言われたのか分からず、ぽかんとしていると、おじさんが少年の頭を小突く。
「すみません、聖さま。口が悪くて…」
「口が悪くない!笑ったら、かわいいと思ったから、そう言っただけだ!」
少年は真っ赤になって、おじさんに食って掛かる。
聖は呆然と、他人事のように、そのやり取りを見ていた。
「…。」
「ませガキが。聖さま、風が冷たくなってきました。部屋へ戻ってくださいね。それでは、失礼します」
そう言って、まだ何か騒いでいた少年を引っ張って、庭を出て帰っていった。
聖は辺りが静かなり、我に返る。
…笑うと…かわいい…?
そんな事を言われたのは初めてだった。
聖は部屋に戻り、その事をノートに書く。
…笑い方を忘れかけてる聖には、不思議な言葉だった。
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