神の宿り木~旅の途中~ジン~

ゆう

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5 欠片 ~カケラ~

*子獣

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 夜が更けて、人通りが少なくなるとオズマ商会の屋敷に向かった。
 内部構造で見た、地下への入り口に近い木々の沢山ある壁際に右手をかざす。
「『空と木のトンネル』」
 壁に縦長の魔方陣が現れ向こう側が見えた。
 そして、この中に入り屋敷の敷地内に入る。
 二人が通り過ぎると、ソレは小さくなりソコにとどまっていた。
 キリトが子獣の鳴き声を頼りに進んで行くと、やはり、地下のようだ。
 見張りは誰も居らず、そっと地下室に降りていく。
 地下までたどり着くと、いくつもの牢屋のなかに、いろんな種族の子獣たちが全部で十一人も、いた。 
 二人を見て怯え、一緒に丸まって震えている。
「助けにきたから…」
 鍵が魔法で掛かっているので、キリトが鉄格子を歪ませ、通れるだけの隙間を開ける。
 リーンは持ってきた布の両端を結び、頭から肩にかけ身体の前で袋状態にし広げ、怯える子獣に話しかける。
「静かに。獣の姿に戻れる?戻れなかったら、私の指を噛んで血を舐めて。そしたら、戻れるから…」
 おずおずと一人が近付き、差し出された指を噛み、血を舐めて驚いて獣の姿に戻る。
「おいで」
 その一匹が袋の中に入ると、次々と出てきて姿を変える。
 キリトも同じように布で袋を作り、中へ入れた。
 リーンの腕に捕まり、首もとに顔を埋める子獣や、震えてキリトの首に身体を回し、しがみつく子獣もいた。
 さすがに重いから『軽量化魔法』を布に掛け、魔法で移動だね。
「もう居ないよね」
 中を確認して、キリトの側に近付き、向かい合って手をつないだ。
「しっかり捕まっていて!」
 リーンは『移動』を使って地上に出る。
 辺りを見回してさっき入ってきたトンネルを開き、外に出た。
 そして、もう一度『移動』を使い、屋敷から離れる。
 キリトの手を離し、震える子獣達を撫でる。
「さすがに馬車を借りるわけにはいかないから、森に向かって歩くよ」
 キリトは頷き、夕方歩いてきた道を戻り始める。
 夜も遅いから、人は誰も居ない。
 月明かりに照らされて、二人は静かな町の中を歩いていく。
 しばらくすると、一匹が辺りをキョロキョロと見回し、地上に降り立つ。 
 猫科の子獣だ。
 そして、自分の足で歩き出す。
「私から離れないでね」
 そう言うと、他の子獣達も袋から出てきて歩き出す。
「疲れたらこの中に戻っておいで」
 袋の中には、まだ震えている子獣が三匹。
「怖かったら、ここにいればいいよ」
 そう言うと、袋の中から顔を出し、リーンを見上げてくる。
 リーンは三匹の頭を撫で、微笑んだ。
 やっぱり子獣は可愛い…。
「後は、どうやって親元に帰らせるか、だなぁ…」
 これだけ種族が違うと、いろんな所から連れてこられただろうし…。
「『風霊』森にこの子達を探しに来ている獣人が居るか見てきてくれないか?」
 リーンの回りにふわりと風がまとわりつき、森へと向かって行く。
「今のはなんだ?」
「『風霊』。風を司る者たち。…本当に何も知らないんだな」
「…一人で生きるのに…必死だったから…」
「そうだね…。基礎知識と、マナー、魔力の使い方…。今からでも遅くないから、覚えた方がいい…」
 そんな話をしながら歩き、森の近くまで来ると、風霊がふわふわと森の奥を示した。
 その示す方向に向かって森の道無き道を登り始める。
 その頃には、子獣達は疲れてしまって皆、袋の中で眠っていた。
 『軽量化魔法』を掛けているから、包んだ子獣の体重を支え山道を登れるが、かなりの体力を使う。
 町からだいぶ離れるとピクリと中の子獣が起きて、袋から顔を出し辺りを見回した。
「起きたみたいだね。向かえが来てるよ」
 いくつもの獣人の気配がする。
 子獣は袋から飛び出し走り出す。
 そして、その先に、親らしき獣人の姿が見えた。
 他の子獣達も、親の気配に目覚め、飛び出していった。
「気おつけて帰れよ」
 子獣達はチラチラと振り向きながら、一緒に山へと帰っていく。
 獣人の気配が無くなり二人の袋の中を見ると、まだ、五匹の子獣達がいた。
 まだ、眠っている子獣や、不安そうにこちらを見ている子獣もいる。
 もっと遠くから連れてこられたか、死別したか、ここまで追いかけられなかったか…。
「この子達は、どうするんだ?」
 キリトが袋の中を覗き込んで、子獣の頭を撫でる。
「連れていくよ」
 『風霊』にヤマツカ町へ向かう街道への、最短の道を案内してもらい、本来の目的地である町にむかって歩き出した。
「なぁ、獣の姿に戻ってもいいか?二本足は疲れる…」
 キリトはだるそうに、そう言う。
 そうだね、人族に擬態するも訓練だけど、まだ先は長い。
「いいけど、服を脱いで。町の近くになったら人族の姿に慣ってもらうからね」
 リーンがそう言と、袋の中の子獣をリーンに渡し、服をポイポイと脱ぎ捨て、狼の姿になる。
 その背中に、荷物と服を乗せ、再び歩き出す。
「夜どうし歩くから、覚悟してね」
 
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