神の宿り木~旅の途中~ジン~

ゆう

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2 タミネキ村

*狼の向かえ

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 朝起きてキッチンに行くと、スバルがぐったりとテーブルに伏せていた。
「くそ…。お前らのせいで、あんまり眠れなかったじゃないか!」
「悪いな…」
 ジンは苦笑いして、リーンは不思議そうに首を傾げる。
「眠り薬、出しておく?」
「…。」
 スバルは再びテーブルに顔を伏せた。
 ジンは笑いを堪えている。
 何か変なこと言った?
「朝飯、作るよ。トーストと昨日の残りのスープ、後、卵あったよな」
 そう言って、ジンはパンを焼きだした。
「そう言えば食事のパンや卵は、どうしてるんだ?」
 買い物に行っている感じは無いし…。
「パンは三日に一度配達に来てくれる。野菜や卵はお前らがここに居ると知った村の人達が持ってきてくれた。」
 村の人が?
「…。『呪いの魔法』を解いたお礼、て、ことかな?」
「そう思って受け取っといた。ちゃんと代わりに頭痛薬とか胃薬とか渡してるから、心配するな」
 やっぱりいい人だ。
「ありがとう」
「こっちこそだぜ。村まで狼が降りてきたら…」
 スバルの動きが窓の外を見たまま止まる。
「どうしたの?」
 リーンがスバルの見ている方を向くと、草むしりをしてだいぶ綺麗になった庭に、一匹の黒い狼がいた。
「…。」
 …ロキだ。
 獣の姿なのにロキだと分かるなんて…。
 リーンはキッチンを出て、狼の姿のロキの元へ行く。
 そして、一言二言話すと戻ってきた。
「大丈夫かよ」
 スバルは不安げに聞いてくる。
「…朝食食べるまで、待ってもらった」
「…。」
 ここまで呼びに来るなんて…何が起こった!
「ごめん。先に食べるね」
 そう言って熱々のトーストとスープを飲み始める。
「行くのか」
 ジンは複雑そうな顔でリーンを見る。
「…何かあったみたい。…二、三日、帰れないかも知れない。だから、…無理しないで」
 …しばらく側に居れない。
 昨日みたいに倒れられると、助けられない。
 食べ終わると部屋に戻り、腰にポーチを付けマントを羽織る。
「行ってきます」
「気付けてな」
 ジンがリーンの顔を引き寄せ、口付ける。
 リーンは狼のロキと一緒に山の中へ入って行く。

 
 残された二人は改めて朝食にとりかかる。
「いいのか」
「何が?」
「あの子を行かせて」
 スバルが心配そうにジン見る。
 ジンとしては、本当は側に居て欲しい…。
 一緒に朝食食べて、昼寝して、買い物にいって、畑して、一緒に眠って…。
 ただ、それたけが今の望みだが…。
「…。俺はさ、リーンと最後をゆっくりしたかった、だけなんどけどな…」
 そう言ってジンは食べ始める。
 リーンには、リーンにしか出ない役目がある…。
 それを分かっていて側に居るのだから…。
「リーンには、やらなくては、いけないことが増えたし、ゆっくり、まったり、のんびりって分けには、いかないんだろうな…」
 ジンの複雑な心境。
「…。」
「さて、食べたら草むしりでもするかな。スバルは昼寝でもするといいよ。患者が来たら起こすから」
 そう言ってジンは笑った。
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