神の宿り木~旅の途中~ジン~

ゆう

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1 出会い

*ジンとの出会い

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 ジンと出会ったのは、初めて港街に降りて来たときの事。
 普段は森の奥深くに住んでいて、時折、森の近くにある村や町には何度も足を踏み入れていた。
 山で取れる薬草や山菜を売りにいったり、風霊達に呼ばれて自然災害を事前に伝えたり被害を抑えたり、時には協力し合って犯罪をくい止めたり。
 …私の存在を知っている者達は限られている。
 昔、権力を欲しがる者達のイザコザに巻き込まれ、魔力が暴走しかけて、その者達の屋敷がぶっ飛び、私の存在は秘匿とされた。
 ある特定の商会だけが存在を知り、仲介者として代々言い継がれている。
 彼等の存在があるから、ここでは自由に暮らせていた。
 今は静かに、森で暮らしている。

 最近、港街から新鮮な魚や貝類が運ばれて来るようになったと、馴染みのリマ商会から教えてもらったのが始まりだった。
 半日はかかる距離を保冷石を使い、魚を運んで来るのだと。
 それに興味を持った為、港街に向かったが、リマ商会の誰かに案内を頼めば良かったと、直ぐに後悔し始めていた。
 港街に降りたってすぐ、塩の香りと湿度の高さに目眩を起こした。
 慣れてしまえば大したことないのだろうが、森の湿度とは違う濃厚さに、息が苦しくなる。
 人混みを避け裏通りに入り、人通りの少ない道を歩く。
 きっと何処へ行っても、この濃厚さは避けれない。
 再び目眩を感じ、壁に寄りかかり座り込む。
 …しばらくすれば順応するはず。
 ここで、…少し休息しよう。
「どうかしたのか?」
 背後から不意に声をかけられ、ゆっくりと振り向くと、そこにいたのは、日に焼けた体格の良い男だった。
 男はじっとこっちを見下ろしてきた。
「何処の店の子だ?」
 …店の子?
「…私は旅行者です。…ちょっと目眩がしたので、…休んでいるだけです」
「だったら良い休憩所、案内してやるよ」
 男は腕を掴み、立ち上がらせようと引っ張っぱる。
「…構わないで下さい。…少しすれば…落ち着きますから…」
 振り払おうにも、強く腕を捕まれていて振りほどけない。
 強引に立ち上がらされ、再び目眩を起こす。
「つっっ…」
 …ヤバい倒れる。
「…『風霊ふうれい』…」
 風が一瞬辺りを吹き抜ける。
「…手を…離して」
 リーンの周りに風が渦巻く。
 漆黒の髪が巻き上がり、両耳に付けられた金色の耳飾りがキラキラと光る。
 男は慌てて手を離した。
「こんな所に居るから、誘って居るのかと思ったぞ」
 こんな所?…誘う?
 何を言っているのだ?…この男は?
「風霊を治めてくれないか。せっかく掃除をしたのに砂が舞う」
 声のする方を見ると、寄りかかっていた建物から、長い髪を片側で束ねた青年が出てきた。
「……。」
 風は渦巻いたまま。
 …ヤバい。…意識が遠のいていく。
「『風霊』彼に危害を加えないから…落ち着いてもらえるかな…」
 風が青年の方にふわりとまとわりつく。
「『解除』」
 すると急に風が止まり、ふらりと身体が傾むいた。
「おっと!」
 髪の長い青年が倒れかかった身体を受け止める。
「大丈夫かい?」
「……。」
 再び目眩と浮遊感に目を閉じる。
 そして、そのまま意識を失った。


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