神の宿り木~ユーリの初恋~⦅完結⦆

ゆう

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養い子

チロル

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 リオナスから黒猫族のチロルさんがやって来た。
 リオナスとグオルクの役所を繋ぐ魔法陣が有って、彼女はそれを使ってグオルクに来て、そこからこの施設にやって来たのだ。
 以前、クロが狙われたとき、キリトが駆けつけた時も、この魔法陣を使って来たそうだ。
 だからリオナスに行っている筈のキリトが、短時間で駆けつけれたのが不思議だったが、謎が解けた。

 チロルさんは、まだ歩けない、小さい子供に触れるのは始めてで、抱っこするのすらハラハラして、惑いながら抱っこしていた。
 初めは、そんなもんだよ。
 ユーリがそう言って微笑みながらな、チロルさんにいろいろと教えた。
 クロはその間、じっとチロルさんを見て、緊張しているようだった。
 チロルさんが緊張するから、クロも緊張するだろうな…。
 互いに探りあいの状態だ。
 ユーリは側で見守りながらそう思った。
 年少組はチロルさんに興味を持っているが、チラチラと見るだけで近付かないで、少し遠目に見ながら遊んでいた。
 知らない人が来て、年少組も緊張しているのだろう。
 昼食を食べ、子供達がお昼寝を始めると、チロルはホッとため息をついた。
「…大変ね…」
「慣れてしまえば、楽しいわよ」
 ユーリはそう言って微笑む。
「…子供達の気持ち良さそうな寝顔を見てると、飽きないし、癒されるわよ」
 ユーリがそう言うと、チロルが眠るクロの寝顔を覗き込む。
 クロは口許をムニムニと動かし、小さい手で何かを掴もうとしているのか、指を伸ばしたり縮めたりしている。
 そして時折、尻尾がフラフラと動き、何か楽しい夢でも見ているようだ。
「…フフ、そうね。可愛い…」
 チロルは微笑んでクロの寝顔をじっと見ていた。
 ユーリは寝返りをして布団を蹴飛ばす子供達の側に行き、布団を掛けてあげ、クロの元に戻ってくると、チロルはクロの側で一緒に眠っていた。
 今日、半日、今までしたことの無い事をして、気疲れてしまったのだろう。
 ユーリはチロルに毛布を掛けると、隣のソファーに座り、読みさしの本を読み始め、チラリと二人を見る。
 一緒に眠っている姿は、本当に親子の様だ…。
 ユーリは苦笑いして視線を本に向けた。
 

 年少組がお昼寝から起きて、おやつを食べるとチロルさんはリオナスへと帰って行った。
「また来るね」
 そう言って…。
 彼女にも仕事があるみたいで、一日中、ここにいることは、まだ出来ないみたいだ。
 何回かチロルさんには通ってきてもらって、お互いに慣れてくれれば、クロもチロルさんに、笑顔を見せてくれるだろう。
 チロルさんが帰った後、年少組がモジモジしながら聞いてきた。
「…クロちゃん…どっか行っちゃうの?」
「…今の人の所に行くの?」
「…クロちゃん…ずっとココに居ちゃだめ?」
「…ココから…居なくなるの?」
 潤んだ瞳で四人に見上げられ、ユーリは、子供達が可愛くて身悶えしそうな自分を押さえて、必死に答えた。
「まだ、ココにいるよ。でもね、チロルさんがクロの事を、自分の子供として引き取りたいって言ってくれたんだ」
「…いなくなっちゃうの…?」
「そうだね」
 ユーリはそう言って微笑んだ。
「でも、会えなくなるんじゃないよ。また、遊びに連れてきてくれるから…」
 ユーリは子供達と自分にそう言い聞かせる。
「また、会えるの?」
「…また、遊べるの?」
「そうだよ。でも、もう少し後の事。チロルさんも仕事が忙しいみたいだからね」
 ユーリはそう言って、子供達の頭を撫でてあげる。
「それまで、クロちゃんと、いっぱい遊ぶ!」
「追いかけっこ、いっぱいする!」
「絵本も読んであげる!」
「一緒にお昼寝する!」
 子供達がそう言って宣言する。
「みんな良い子だね」
 ユーリはそう言って微笑みながら、子供達に比べて、自分の弱さを知った。
 子供達の方が、ちゃんと分かっている。
 寂しいけれど、それまでを一緒に遊んで楽しんで、また、遊びに来てもらえば良いことを…。




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