上 下
7 / 74
保護施設

クロ

しおりを挟む
 ユーリとチイとラビが小声で話していると、お昼寝をしていた子供達がモゾモゾと動きはじめた。
 ゆっくりと身体を起こしてボーッとこちらを見ている。
 一人、目を覚ましたみたいだ。
「おっと、おやつの準備をしないと…」
 ラビはそう言って、慌てて談話室を出ていった。
 チイとユーリは目を覚ました子供の方に行き、座って視線を低くして、まだ眠る子供達を眺めた。
「かわいい…」
 ユーリは思わず声に出していた。
 ピクピクと動く耳と、ゆらゆらと揺れる尻尾…。
 毛布を半分蹴飛ばして、ぼんやりと目を開けて、寝ぼけている姿が、また可愛い…。
 その中に一番小さい、まだ産まれて一年にもならないような子供がいた。
 黒い三角の耳をピクピクさせて、目覚めたの、辺りをキョロキョロと見回している。
「チイさん。抱っこしても大丈夫?」
 ユーリは三つ子達をあやして、抱っこしていた事を思い出し、抱き上げたくなった。
「…そうね。大丈夫だと思うけど、泣きそうになったら代わるわ」
 チイの許可をえて、ユーリは子供に近付き、そっと抱き上げると、子供と目が合いユーリは笑いかけた。
「おはよう」
 子供は硬直し、じっとユーリを見ている。
 知らない人を見て、警戒心を抱いているのだろう。
 ユーリはゆっくりと揺らしながら、チイの方を向いた。
「この子の名前は何と言うの?」
「…クロよ」
「クロ。こんにちわ。これから一緒に遊ぼうね」
 ユーリはピクピクと動く、黒髪から出ている黒耳を見ながら、思わずニヤけてしまった。
 可愛い!可愛い!
 たまらないくらい、可愛いよ!
「チイさん。耳に触っても大丈夫かな…」
 ユーリは興奮を押さえながら聞く。
「う~ん。警戒が解けてからの方が良いわ」
「はい。」
 我慢。我慢。
 ユーリはニコニコとクロをあやしていると、クロがそっと小さい手を伸ばしてきた。
「うん?どうしたの」
 クロの小さい手が掴んだのは、ユーリの肩から前に流れ出ていた長い黒色の髪の毛。
「フフ。クロと同じ色だよ」
 ユーリがそう言うと、クロが微かに笑った気がした。
 クロの緊張が解けたのか、ずっしりとユーリの腕の中の重みが増す。
 ユーリが嬉しそうにクロを抱えていると、いつの間にか他の子供達も目を覚ましていて、ユーリの回りに座っていた。
 まだ少し寝ぼけて、目を擦りながら、クロをあやすユーリの事を見ている。
「こんにちわ。ユーリです。これから一緒に遊んだり、お勉強したりしようね」 
 ユーリが子供達に挨拶すると、子供達は順番にユーリの頭を撫でて、ラビが準備したおやつの有るテーブルへとかけて行った。
「…。」
 今のはどう言うこと?
 ユーリがポカンとしているとチイさんが微笑む。
「よろしく。って、言ってたのよ。まだ少し警戒しているけど、第一段階は突破ね」
「…おやつの方が大事ですもんね…」
 子供達はイスに座り、ラビに準備されたおやつを黙々と食べている。
 そしてチイさんに、ラビと一緒に子供達の事をお願いされた。 
 年少組は、話をすることが苦手な子が多いので、あんな風に、突然行動に出るけれど、たくさん話をしてあげて、話せるようになってくれると嬉しいと、チイさんは言う。
 そうだね。
 たくさん物語とか読み聞かせをして、少しづつ、話してくれると嬉しいかも。 
 ユーリは子供のころ、良く読み聞かせをしてくれたキリトの事を思う。
 今度は私が子供達に、絵本の楽しさを教えてあげれると良いな…。
 
 それからチイさんに連れられて調理場に向かった。
 調理場には茶色の髪の犬族のユバがいて、夕食の下準備をしていた。
 ユバは昼前から来て、年少組の昼ご飯を作り、買い出し、おやつ、夕食の準備をしたら、翌日の朝食を温めれば良いだの物を作って帰るのだと言う。
 それを一人で段取りしているのだから凄い。
 時々ラビも手伝ったりするが、基本ユバだけだそうだ。
 子供達十五人分と、古い建物に住んでいるキリトとラビの分、そしてユバの分と、そこにユーリの分が加わる。
 昼と夕食が付くのはユーリにとってもありがたい。
 飲み物とか軽食は常に食堂の方に準備してあるので、温める魔道具とか、冷やす魔道具とかの説明を聞き、かなり最新の魔道具が揃っていることに驚いた。
 それを感じたのか、チイさんが教えてくれた。
「便利な魔道具はキリトが買ってきているの。貯まっている給料の使い道がわからない。と、言ってね」
「…。」
 そう言えばキリトはカザナにいる時も、休日に、もらった給料で、私とジーンの好きなお菓子を買って来たりしていた…。
 その辺は変わらないのね…。
 ユーリは少しホッとして微笑んだ。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処理中です...