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ユーリ
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ユーリが物心付いた時からキリトは、ずっと側にいた。
ご飯を食べさせてもらったり、服の着替えを手伝ってもらったり、一緒にお風呂に入ったり、一緒にお昼寝したり…。
いつも側に居てくれる、家族の一人だったはずの狼獣人のキリト。
幼い頃から一緒に過ごした、大好きな人…。
いつからだったのだろう…。
キリトの事が特別に思えるようになったのは…。
ユーリは、カザンナ王国、第三王子ルークの双子の子供として産まれた。
産んでくれた人は、『森の聖域』と呼ばれる場所に住む『森の管理人』のリーン。
漆黒の髪と深い緑の瞳のリーンは、歳を取らず、長い年月、森を守っている人だ。
いろいろな事情とリーンに掛けられた魔法とかによって、奇跡的に私達はリーンに宿ったらしい…。
私はリーンと同じ黒髪にお父様と同じ青い瞳。
双子のジーンは、お父様と同じ金色の髪に、リーンと同じ緑色の瞳。
双子だけど、あまり似ていない私達は、性格も好みも全く正反対だった。
私は身体を動かして走り回るのが好きなのに対して、ジーンは本ばかり読んでいた。
ジーンはリーンの影響を受けて、薬草とか草花とか、植物に興味を持っていたし、私はお父様に憧れて魔法や剣を習っていた。
リーンに再び子供が宿ったのは、私が十一歳の時だった。
魔力を使い果たし、三年近く眠っていたリーンが目覚め、魔力を失ったまま、子供を宿したのだ。
そのため、いつも側にいてくれたキリトは、リーンのいるカザナのお屋敷と、王都のお屋敷を往き来していた。
と、言っても、ほとんどカザナのリーンの側にいた。
ユーリの中には何かわからない、モヤモヤとしたモノが渦巻いていた。
キリトにとってリーンが大切な人なのは知っている。
キリトがリーンを見るときは、私達に向ける眼差しと少し違うからだ。
そしてリーンも、家族のようにキリトに心を許しているのも知っている。
私達が産まれる前からの付き合いなのだから…。
ユーリの苛立ちが、嫉妬だと分かったのは、学校が休みになり、ジーンと一緒にカザナのリーンの元に行った時…。
キリトと一緒にいたリーンの侍女が、仲良く話をしているのを見たからだ。
子供の自分では、身長も言葉も足りなくて、あんな風にキリトの隣で話すことなど出来ない…。
ユーリは苛立ちを覚え、どうしたら良いのかわからない怒りと、自分がまだ子供だと言う現実に打ちのめされて、リーンとキリトに会いに行ったのに、一人、王都へ戻ってきてしまった。
そしてベッドで泣いて、どうしたらキリトと一緒にいることが出来るのかを考えた。
まず、身長が足りない…。
でもリーンとお父様の子供だから、ある程度は高くなるはず…。
まだ成長期だ。
…強くなれば…一緒にいれるのかな…。
キリトは時々、お父様に頼まれて、どこかへお出掛けして、時々小さなキズを作って帰ってくる。
何をしに行っているのかは知らないけれど、ケガをするって事は、強くないと一緒に行動出来ないよね…。
ユーリは単純にそう思って、魔法も剣も、お父様みたいに強くなりたい…そんな目標が出来ていた。
ユーリが十五歳になり、高等科から魔法剣士の学科に行き、寮に入ることになった。
魔法剣士の学科は、王国の騎士の候補生となるために知識を学び、身体を鍛え、魔法の精度を上げていく学科だ。
お父様からは反対されたが、自立して生活するにはこれが一番だと思ったからだ。
寮では食事は出るが、全て自分で洗濯、掃除をすることになる。
魔法剣士の学科に行くのだから、遠征や野外のテント暮らしなどは当たり前だと、お父様から聞いていた。
ユーリはカザナで暮らしていたとき、何度もリーン達と一緒に森で数日暮らしていた事が有るから、ある程度は自分の身の回りの事は出きる。
分からなければ聞けば良いのだ。
私はこの国の、第三王子の子供で王族だが、いとこのロバート兄様やアイリーンのように、王家の中心になるわけではないので、まだ自由が利くのだろう…。
…キリトは、私の弟妹、三つ子が産まれてから、ほとんど王都には来なくなった。
私とジーンの手が離れ、自立し始めたからかもしれない…。
カザナに行けば会えるのだけれど…。
意を決してカザナに行った時には、出掛けていたり、獣人の街グオルクに行っていたり…。
すれ違いばかり…。
三つ子と遊んでリーンに甘えて、キリトの帰りを待って、学校が始まるから王都に帰り、結局会えない事の方が多い…。
だから会いたい思いは募るだけ…。
私の一方的な思いだけれど…。
ユーリが魔法剣士の学科の寮に入り、一年が過ぎる頃には、ユーリは『姫騎士』と呼ばれていた。
王家の姫で、黒く長い髪の毛を高い位置で結び、剣を振るって戦う姿が、ダンスを舞っているかのようだと、誰かが言い出したからだ。
実際、魔法剣士科の女子の中では、上級生を押さえてトップに立ち、高等科を卒業すれば、アイリーン王女の護衛騎士に抜擢されるだろうと噂されていた。
今のカザンナ王国は、お父様のお兄様、ローレンス叔父様がカザンナ王国の王になり、お父様はその補佐をしながら各地を回っている。
なので王国の方では、アイリーンの護衛騎士に、気心の知ったユーリが候補に上がっていた。
ユーリの心中は複雑だった。
アイリーンは可愛い、いとこだし、側にいてあげたいけれど、アイリーンには、お茶会の時にキリトの事を話しているので、アイリーンも複雑な気持ちだろう…。
私の最終目的は、強くなってキリトの側に行くこと…。
…来年には、弟妹が小等科に入学する…。
そうすれば、キリトも一緒に王都に来てくれるかもしれないが、もしかしたら、獣人の街グオルクに戻ってしまうかもしれない…。
そんな懸念が、捨てきれなかった。
双子のジーンは週末、神官見習いとして神殿に通いだし、神殿の本を読み漁っている。
…神官長候補のシノアス様に、誘われたらしい…。
ジーンは神官になるのかも知れない…。
一緒に産まれたけれど、私達はそれぞれの道を行く…。
その頃キリトは『そろそろグオルクに戻ってこないか』と、リーンの獣人の兄弟ヒイロさんに言われていたなんて、知りもしなかった。
ご飯を食べさせてもらったり、服の着替えを手伝ってもらったり、一緒にお風呂に入ったり、一緒にお昼寝したり…。
いつも側に居てくれる、家族の一人だったはずの狼獣人のキリト。
幼い頃から一緒に過ごした、大好きな人…。
いつからだったのだろう…。
キリトの事が特別に思えるようになったのは…。
ユーリは、カザンナ王国、第三王子ルークの双子の子供として産まれた。
産んでくれた人は、『森の聖域』と呼ばれる場所に住む『森の管理人』のリーン。
漆黒の髪と深い緑の瞳のリーンは、歳を取らず、長い年月、森を守っている人だ。
いろいろな事情とリーンに掛けられた魔法とかによって、奇跡的に私達はリーンに宿ったらしい…。
私はリーンと同じ黒髪にお父様と同じ青い瞳。
双子のジーンは、お父様と同じ金色の髪に、リーンと同じ緑色の瞳。
双子だけど、あまり似ていない私達は、性格も好みも全く正反対だった。
私は身体を動かして走り回るのが好きなのに対して、ジーンは本ばかり読んでいた。
ジーンはリーンの影響を受けて、薬草とか草花とか、植物に興味を持っていたし、私はお父様に憧れて魔法や剣を習っていた。
リーンに再び子供が宿ったのは、私が十一歳の時だった。
魔力を使い果たし、三年近く眠っていたリーンが目覚め、魔力を失ったまま、子供を宿したのだ。
そのため、いつも側にいてくれたキリトは、リーンのいるカザナのお屋敷と、王都のお屋敷を往き来していた。
と、言っても、ほとんどカザナのリーンの側にいた。
ユーリの中には何かわからない、モヤモヤとしたモノが渦巻いていた。
キリトにとってリーンが大切な人なのは知っている。
キリトがリーンを見るときは、私達に向ける眼差しと少し違うからだ。
そしてリーンも、家族のようにキリトに心を許しているのも知っている。
私達が産まれる前からの付き合いなのだから…。
ユーリの苛立ちが、嫉妬だと分かったのは、学校が休みになり、ジーンと一緒にカザナのリーンの元に行った時…。
キリトと一緒にいたリーンの侍女が、仲良く話をしているのを見たからだ。
子供の自分では、身長も言葉も足りなくて、あんな風にキリトの隣で話すことなど出来ない…。
ユーリは苛立ちを覚え、どうしたら良いのかわからない怒りと、自分がまだ子供だと言う現実に打ちのめされて、リーンとキリトに会いに行ったのに、一人、王都へ戻ってきてしまった。
そしてベッドで泣いて、どうしたらキリトと一緒にいることが出来るのかを考えた。
まず、身長が足りない…。
でもリーンとお父様の子供だから、ある程度は高くなるはず…。
まだ成長期だ。
…強くなれば…一緒にいれるのかな…。
キリトは時々、お父様に頼まれて、どこかへお出掛けして、時々小さなキズを作って帰ってくる。
何をしに行っているのかは知らないけれど、ケガをするって事は、強くないと一緒に行動出来ないよね…。
ユーリは単純にそう思って、魔法も剣も、お父様みたいに強くなりたい…そんな目標が出来ていた。
ユーリが十五歳になり、高等科から魔法剣士の学科に行き、寮に入ることになった。
魔法剣士の学科は、王国の騎士の候補生となるために知識を学び、身体を鍛え、魔法の精度を上げていく学科だ。
お父様からは反対されたが、自立して生活するにはこれが一番だと思ったからだ。
寮では食事は出るが、全て自分で洗濯、掃除をすることになる。
魔法剣士の学科に行くのだから、遠征や野外のテント暮らしなどは当たり前だと、お父様から聞いていた。
ユーリはカザナで暮らしていたとき、何度もリーン達と一緒に森で数日暮らしていた事が有るから、ある程度は自分の身の回りの事は出きる。
分からなければ聞けば良いのだ。
私はこの国の、第三王子の子供で王族だが、いとこのロバート兄様やアイリーンのように、王家の中心になるわけではないので、まだ自由が利くのだろう…。
…キリトは、私の弟妹、三つ子が産まれてから、ほとんど王都には来なくなった。
私とジーンの手が離れ、自立し始めたからかもしれない…。
カザナに行けば会えるのだけれど…。
意を決してカザナに行った時には、出掛けていたり、獣人の街グオルクに行っていたり…。
すれ違いばかり…。
三つ子と遊んでリーンに甘えて、キリトの帰りを待って、学校が始まるから王都に帰り、結局会えない事の方が多い…。
だから会いたい思いは募るだけ…。
私の一方的な思いだけれど…。
ユーリが魔法剣士の学科の寮に入り、一年が過ぎる頃には、ユーリは『姫騎士』と呼ばれていた。
王家の姫で、黒く長い髪の毛を高い位置で結び、剣を振るって戦う姿が、ダンスを舞っているかのようだと、誰かが言い出したからだ。
実際、魔法剣士科の女子の中では、上級生を押さえてトップに立ち、高等科を卒業すれば、アイリーン王女の護衛騎士に抜擢されるだろうと噂されていた。
今のカザンナ王国は、お父様のお兄様、ローレンス叔父様がカザンナ王国の王になり、お父様はその補佐をしながら各地を回っている。
なので王国の方では、アイリーンの護衛騎士に、気心の知ったユーリが候補に上がっていた。
ユーリの心中は複雑だった。
アイリーンは可愛い、いとこだし、側にいてあげたいけれど、アイリーンには、お茶会の時にキリトの事を話しているので、アイリーンも複雑な気持ちだろう…。
私の最終目的は、強くなってキリトの側に行くこと…。
…来年には、弟妹が小等科に入学する…。
そうすれば、キリトも一緒に王都に来てくれるかもしれないが、もしかしたら、獣人の街グオルクに戻ってしまうかもしれない…。
そんな懸念が、捨てきれなかった。
双子のジーンは週末、神官見習いとして神殿に通いだし、神殿の本を読み漁っている。
…神官長候補のシノアス様に、誘われたらしい…。
ジーンは神官になるのかも知れない…。
一緒に産まれたけれど、私達はそれぞれの道を行く…。
その頃キリトは『そろそろグオルクに戻ってこないか』と、リーンの獣人の兄弟ヒイロさんに言われていたなんて、知りもしなかった。
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