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東部連合編

祝砲

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 東部連合があるのは、中央の踏ん張りのおかげだ。耐え抜いてくれた戦地に一言ないと、義理が通らない。激戦地を目で見て肌で感じて初めて、戦いの精算ができる。それは連合の使命だと山本は言った。

 同じ一日に、いろんなことが詰め込まれている。朝早く塔に侵入し、同じ陽が高いところから、戦いの傷跡ははっきり照らしている。建物は基礎を残し崩れ、緑は幹のドミノ倒しだ。救護救援の白いテントもポツンと佇み、意図せずして、途方もない復興の道のりを示している。

 一行は、みなと屋という旅館に降りた。メマンベッツ南部の宿は、西陽で隠れん坊して、幻想に身を包んでいる。その本殿は一本松の庭と帯のように化粧梁を通した影の中にあった。山本は、玄関にいた仲居に私達のお供を引き継ぐと、その役目を全うした。
 戦いが終わったとは言え、閑静な夜を迎えた。現地の有様を見てきたこともあり、連合の緊迫感は抜けず、とても宴を開くような雰囲気ではなかった。

 遠くの空に花火が鳴った。障子の内に姿は見せないが、音だけははっきりしている。気が付けば、夏の盛りだ。暖かい風があざみ、宵がかがる。秘密部隊は、季節から取り残されていたが、その真ん中で風物詩に出会った。夏模様が人の心に一つにする。この世界を愛する者ならば、心に夜空を飼うことができて、祝砲は東西を超えて共鳴する。

 帰るまでが秘密部隊だ。故郷の人々を思いながら、最後の務めを果たそうと思った。

 翌日午前中には、メマンベッツを出てミズミアへ入った。旅館の玄関で、度会とはお別れだ。
「メマンベッツの地は、メマンベッツの人間のようにしぶとい。きっと更地から蘇るだろう」彼は胸を張った。彼による捨て身の内部捜査から、事態が動き出した。先駆者との別れは、戦局の一段落と新しい出発を告げている。彼は私に「新しい魔法界を存分に楽しめるのは、君だな。なんたって一番若い」と言った。

 メマンベッツが度会を待っていたように、ミズミアも私を待っていてくれた。
 二校の地上校舎が復興途中にある。睦水から双穴に入るくらいのところでは褐色の点に過ぎなかったが、橋をかける湖まで来ると、場所が二校だと教えた。風化した基礎は取っ払われ、白壁の和風建築が居を構えている。褐色の正体は瓦葺の屋根であり、近世の屋敷を彷彿とさせる外観だ。石垣を敷いてないのも、威圧感がなく、馴染み易さに繋がっていた。

 脇に降りた時、「大胆な衣替えだ」と井上が感嘆した。着工からわずかの進歩は、一階部分すら未完ではあるが、無限の想像を掻き立てる。マリアやこのみ達との来る学園生活を思うと、胸が弾んだ。
 井上は、私や志筑との別れを惜しむより、自分の街の新しい姿を見たいらしく、出発を急かす。彼だけでなく彩粕勢ともお別れしなければならないから、故郷にいるというのに、寂しさに襲われた。
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