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東部連合編

生き残り

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 連合の仲間は、勢揃いではない。有葵さんに、井上に、師の志筑。居る人が、居ない人の存在を際立たせる。待てど待てど、合流がない。時が、刑の執行人のように、これで全てだという現実を突きつける。生き残りの三人は、仲間について口を結んだままだ。

 直美さんと度会は、川に流され落ちていった。どの川だって、塔の監視回廊の標高には及ばない。巨大な空間の中では、命がより儚く映る。戦いの悲惨さは、魔法を被弾して、その場に倒れることだけにあるのではない。死体を見ないまま、やり過ごしたいという思いが自覚され、悲しくなった。

 遠ざかっていく直美さんの瞳が思い出される。彼女は、自らの運命への悲哀と共に、連合の任務遂行への期待を、私に託してくれた。感謝の言葉と、塔のてっぺんを討ったという報告を返すのが、せめてもの務めだ。
 度会の最後は、見届けることすらなかった。彼は、どんなことを胸に秘めながら、流されたのであろうか。生き残った身として、彼の功績を思い、天に捧げた。彼がメマンベッツ軍一部の裏切りを見抜いた事から、連合は始動し、今日彼が作った雲は、戦いや負の歴史を撫でるようにして北の大地に伸びている。平和がもたらされるとしたら、彼のおかげであることは疑いようがない。

 残りは大丈夫なのか、生きているか。不安と期待を抱えながら、仲間の顔を見る。流された二人を含め、七人を数え上げていく。思い出せば、命を救ってあげられるような感覚もあったが、連合員の席はなかなか埋まらなかった。

 最後まで出てこなかったのは自分と左内だった。
 終盤の単独行動のせいで、外ばかりに目を向けていた。何も知らないという思いが焦りを生み、いない人まで探させる。左内については、裏の姿を知り、連合の一員として数えることを拒んでいた。

 有葵さんやミズミアの戦士は、左内について触れない。旗下までに彼の亡き骸を見ているはずで、それでも取り乱さないのは、ことの真相を悟ったからに他ならなかった。

 私から事実を口にしたが、三人は驚かなかった。有葵さんが「根こそぎ旗を奪ったからこそ、塔は大地に帰ったのよ」と私の健闘を称えた。根こそぎとは旗軍の前衛である青鷹軍を指す。その再興を試みた者こそ、隣人であり、旅の仲間であった。天と地がひっくり返るかのような衝撃に、実感が湧かないままだが、頭では事の一部始終を理解しているつもりだった。

 有葵さんの声に、左内の隠れ魔法について暗に教わった朝を思い出した。
 彼女は、私より早く彼の正体に気づいていたのかもしれない。彼女の得意魔法を踏まえると、確信に近いものがあるが、真意を尋ねるのは憚られた。向こうから語ってくれたら、耳を傾けようと思うが、自分から突っ込む気力は残されていない。

 十返舎卿の部屋から足音が近いており、自然と、皆の手がそれぞれの杖に伸びる。現れたのは、ローブに身を包んだ、三人組の男だった。
 彼らの先頭は、片手では静止の合図を送りながら、もう片方は杖を握っている。堂々としていながら、挑戦的な態度だ。連合の先輩が、前者の印象をとり、杖を下ろしたので、私も形だけ真似をした。

 杖のせいで警戒が最後まで抜けなかったが、杖先の黄色こそがニジョーナワテを示していた。胸には、青い鷹ではなく、開いた桜のような、手裏剣のような紋章が刻まれている。
 西の正義軍が、早くも屋上に駆けつけた。合流は、塔を覆う幕が取れた現れであり、延永将軍が連絡をとってくれた現れでもある。この時、本当の意味で安心して、ミズミアに帰還する自分が想像できた。いつの日かの夜勤で、東西の隔たりを聞かされたが、その融解を身をもって感じることになった。

 連合一人一人の身元確認が行われる。彼の手元の羊皮紙には、ミズミアで登録した情報が載っているようだ。命がけで戦った者に対して無礼だと思うが、私達は侵入した身で、ここは西側の土地だとすれば無理のないことだった。
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