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東部連合編

悲劇

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「魔法は想像力を基盤にするが、想像力は個々それぞれの世界で醸造されるんだ。一人になることは、大きな力を育む一方で、変な方向に向かわせないとも限らない。だからこそ、共通の世界に顔を出して、現実と対応していく必要がある。そうやって初めて、想像は、現実という生まれた場所に還元される。現実が想像を、想像が現実を生むという循環の中で、世界は脈々と流れていく」彼は私を見ている。暗闇の中に視線を感じた。「問題になるのが、現実が人によって違うってことだ。なにも、玲禾みたいに二つの世界を股にかけなくとも、触れ合う外界次第では、その出力も変わっていく。黎明期の混乱から、支配、領地拡大と人々の心がすさんでいた。見る世界も、三者三様どころか千差万別だ。ニジョーナワテはじめ西の世界では、社会が線引きされていき、似た者同士が集まるようになった。個人主義の西方では、反応が強く出る。時が経つにつれ、殻に閉じこもっていく。立ち直れた人も、自分達の人生に必死で、他人のことには興味を持たなかった。イツクンが選ばれたのは、たまたまで、西部どこに根差してもおかしくなかった」
「魔法にも、光と影があるんですね」
「結局は、魔法を宿す者の心次第だ。向こうからすれば、自分達が光で、私達が影なんだろう。彼らは、悪い方を肥大化させた。そして、それに気づいてないか、気付かないフリをしている」
「…」
「先祖が同じ世界に渡って、三代四代目が歪み合っているなんて、皮肉なもんだろ。開拓していくうちが華で、行くところまで行くと、退屈や破壊が待っている。人生には二つの悲劇がある、という言葉が示す通りだ。無数の人生を集めた、この世がそれを示している」
「何ですか、悲劇って」
「一つは夢が叶わないという悲劇、もう一つは夢が叶うという悲劇」
「先人達は、夢の世界を開いたはずが、そこで戦いが待っていたんですもんね」
「そうさ。何かを手に入れたって、すぐに物足りなくなる。夢はどんどん鋭利になって、世界や人を飲み込んでしまう。このままでは、夢の世界なんてありゃしない。玲禾が、一番、身に染みて感じたはずさ」彼は、同情の念を露わにする。秘密部隊を体現していて、世のどこにも属していないように思えた。
「何が何だかです。分かるからこそ、ここにいるのかもしれないし、こんなことをやる為に、故郷に帰ったんじゃないのも確か。もっと先を見据えています」
「私と玲禾で、戦いに終止符を打って、理想の世界に近づこう」
「言ってる尻から、二つ目の悲劇に前のめりじゃないですか」
「我々に限らず、玄人とはそういうもんだろう。二つの悲劇が待っていようとも、ついつい夢見心地になってしまう」
「確かに、明るい未来を見れないなら、東部連合なんてやってられないわ」
「そうだ。その為には、旗軍の頭、十返舎卿を討たなければ」
「そいつを倒せば、旗軍は終わるんですね」
「ああ。正確には、彼が占拠する闇の塔の司令部を奪うことで、塔を囲む半透明の壁を消す。そうすれば、あいつらは基地を失うから、弱体化待つのみになる」
「その十返舎卿が、双穴にスパイを送り込んだんですか?」
「根っこに彼がいるのは、間違いない。その為に、メマンベッツ議員を買収し、巨大温室まで作ってたんだ。組織を挙げての、一大事業だよ。その綻びが見えたところで、次案に切り替え、メマンベッツの戦いがある。連合の使命は、その根っこを断ち切ろうということだ」
「うん」自分の意思で頷く。
「十返舎卿は、なかなか手強い。そいつは、二天一流の使い手だ。両手にそれぞれ杖を持ち、自由自在に操る。一人で相対するのは、厳しい。片手と戦っていたら、もう片方に責められる」
「逆に言うと、一人では厳しくとも、複数なら私達の方が有利なはずです」
「そうだな。懸念は、二つの糸の連携が取れることだろう。彼一人が操るから、息がぴったりだ。こちらも、意思疎通をとる必要がある」
「力を合わせる為の東部連合じゃないですか!」八丁幌で色んな魔法を見てきた。左内の隠れ魔法、師志筑の強風魔法、小笠原さんの睡眠煙幕、井上の痺れ魔法と心強い武器が揃っている。そして、私自身もそれらに触れて成長したはずだ。誰一人欠けることなく、七人の力が発揮された時、叶えられない夢などないように思う。
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