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東部連合編

合同葬儀

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 母や左内が、曽部家と言葉を交わしていた時、周囲がさざめき出した。
 何事かと首を鶴のように伸ばす人の中、体の向きを変えない者も一定数いる。視線の先では、石碑と群衆との間に、寝台が五つほど出現していた。
 何も無い所にいきなり現れたのだから、魔法という手段は明らかで、参列の目的を踏まえれば、誰が載るかも見当がついた。

 式の始まりが迫り、場の緊張感は嫌でも高まった。
 時間も時間だというのに、肝心のこのみ達は姿を見せない。
 彼女に一言かけようと、黒装束の群れに目を凝らしたが、難航した挙句にたどり着いたのは、このみだけでなく高塔梓も居ないと結論だった。

 彼女らに代わるように姿を見せたのが、マリアのパパで、娘を連れて家族のもとに帰っていく。私や律子と一旦のお別れをした。

 舞台では、下手(しもて)から、担架を持った大人の列が入って来ていた。彼ら、四人組の係は、それぞれの台の左につくと、順に御身を献上していく。死体は、魔法ではなく、直接人の手で運ばれるようだ。

 参加者は、台の数と同じ五つの命を前にして、沈黙を選んだ。息遣いの波が、潮のように満ては引いた。

 犠牲者全員が、最後の姿を見せる訳ではない。新聞掲載の数日だけで、ミズミア西部の死者は片手で数えられない人数に達していた。
 五人が代表して、この神聖な場所にいる。特段の功労者が選ばれたのか、それとも亡くなって間もない人からそこにいるのか、理由はわからない。密葬を希望しなかった家族の存在もあるだろう。
 このみのパパがあの中にいるのは確かだ。参列者の中に、このみ達が見当たらないのは、きっと舞台袖で、最後のお別れをしていたからだろう。

 正午の黙とうを待つ。個性的な玄人達が大人しく待っているのは、緊張からに他ならない。沈黙が沈黙を呼ぶのに加え、北別府が下手の台の側に佇んでいるのも大きな効果だった。

 北別府が動き出したのが、一つの合図になった。彼は台を回り込み、南北の真ん中で、私達州民と相対する。
 彼は、杖を取り出すと、それをマイクにして話し始めた。その姿は、石垣から地下校の大天守を見上げた時と同じだ。

「紳士、淑女の皆さん、そして、学生もちらほらと駆けつけてくれたみたいじゃな。本日は、ミズミアの一州民として、また正義軍の一員として話さなければならんが、お付き合い願おう。銘銘が大変な中、よくこの場に集まってくれた。諸君のおかげもあって、睦水に入っていた戦線を追い返す事ができた」北別府が言葉を切ると、たんぽぽのように、ぽつぽつと拍手が揺れた。
「そして、こればかりは運じゃが、今日は良き天候にも恵まれた。良き人に囲まれ、良き日に旅立てるのは、せめてもの喜びじゃろう」
 それから、彼は今日に至る経緯を語り始める。双穴に侵入したコウモリを辿ると、巨大温室に繋がったこと。メマンベッツ軍の一部がその隠蔽に加わっており、軍内に不和が起きたこと。混乱の中、旗軍が信濃小路まで侵攻し、戦線がミズミアにまでかかったことを振り返った。彼の狙いは、戦いは州境に関係なく進んでいるから、対応も協力して行わなければ駄目だと伝えることにあった。

「我が軍も、隣国の正義軍や有志とも手を取り合っている。今日送り出す魂は、ミズミアだけでなく、東部いや魔法界の誇りだ。私達も悲しむだけではなく、胸を張ろうではないか」北別府は、杖を持たない方の手をポケットに入れた。時計を探っているのだろう。まだ時間があるのか、そのまま続けた。

「えっと…西部軍も旗軍をこちらにやらないよう頑張ってくれておる。我々が、東西を超えて手を取れば、もはや敵はいない」北別府の扇動に、裏玄関のそばから、口笛が響いた。「私達、東部もそれぞれの形で、できることをしよう。これを危機ではなく、好機にするのじゃ。石碑に刻まれた同志と一緒に、ここにいる皆で平和を作り上げようではないか」今度は、あちこちで拍手の花が咲いた。もちろん、私達も、加わった。‘それぞれの形’という北別府の言葉には、東部連合が含まれ、激励を受けている感じがした。

「一つ一つの命の犠牲があってこそ、今我々がここに立っていられる事を忘れてはならない。感謝と敬意を込めて、黙祷を捧げよう」彼は、ようやく待ちに待った言葉を述べると、頭を垂らした。周りの大人や律子も、頭を下げたり、胸に手を当てたりで、それぞれの姿勢をとる。私も、遅ればせながら、目を瞑り、故郷の者に想いを馳せた。
 
 冒頭で、避難訓練で響くようなサイレンが鳴った。空と、母なる大地を巻き込み、私や私の世界を包み込む。松山や、会えなかったこのみの父の姿が浮かんだ。
 もし、ミズミアでずっと過ごしていたら、会えた人もいるかもしれない。ただ、現実は残酷で、多くの人と、すれ違ったままになってしまった。
 
 音は存在で雑念を捨てさせ、不存在で余韻を残す。その余韻とともに、故人への思いが心に沁みた。
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