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東部連合編
運勢
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「あとで、返事書きなよ」
「分かった分かった」
「届くのに時間がかかるから、早めにな。なんせ、不死鳥は戦地に行ってる」志筑が重要な事を指摘した。私達は、郵便配達の存在を頭から消していた。
「明日、会うしかないわ」
「もう聞いてるのね」
「このみの母親が知らせてくれたの。是非、来てくれって」
「そっかそっか。律子ちゃんや、梓ちゃんも来ると良いんだけど」
「このみを励ましに来るはずよ」
「報せは行ってるだろうけど、分からないわ。ミズミアのあちこちから人が集まるから、遠慮するかも」
「人が集まり過ぎたら、危ないって事?」
「そうよ。言っても、まだ戦時中だし、仮のものになると思うの。正義軍も一部は参加できない」
「あずあずとは家が反対だし、当分会えないね」心の中でしんみりのボトルが傾いた。
「高塔(梓)君に限らず、二校西側の住人も、誰かしらはいる。一人や二人探して、手紙を預ける暇くらいあるだろう」志筑が言った。
「そうせずとも、玲禾が合同葬儀に出れば、風の便りがお友達にも届くはずだ」左内も、彼に乗って、前向きな言葉をくれた。
正義軍の二人は、家路に着いた。片方の道は短く、もう片方は不明だが、そこまでの距離はないように思える。なんせ、志筑は双穴に居を構えるミズミア二校の教授で、内藤女史のように、代理で来たわけでもない。
ソファに腰を下ろし、手紙を手に取る。三通しかないのは、律子とこのみが同じ羊皮紙に書いてあるからだ。
それは二人だけの豪勢な寄せ書きのようだった。広大な余白を使って、男と女の絵が、別々の筆跡で描かれている。誰に似ているかはさておき、誰を書きたいかは容易に想像がついた。
律子が、私の絵を描いて、もう一人をこのみに託したに違いない。通学路で仲良しの二人なら、やりかねない。ふたりのいたずらな笑みが、思い浮かんだ。
マリアの手紙は、意外にベタで、寂しい気持ちと早く会いたい思いを伝えていた。真っ直ぐな文面は彼女らしい。
あずあずの手紙には、お決まりの伝言とともに、正座占いが載っていた。彼女は、こんな時でも、人生を楽しむコツを心得ている。
十二星座全ての運勢と幸運魔法が並ぶのは、私の誕生日を教えていなかった為であり、何よりも彼女自身の運勢を披露する為でもあった。
天秤座には、愛情の印がつけられており、「今月は、退屈という呪いから解放されて、私生活が充実するでしょう。世の中が移ろう中、‘真実の愛’の妖精を呼び寄せるわ。新たな出会いが待っているかもしれない。 幸運魔法は、ルーナ ワンフー よ」と書かれている。
きっと例の石川先輩のことを言いたいんだろう。正義軍が命を懸けて戦っている中、呑気が過ぎると思ったけれど、あずあずなら何故か許せる。
参考程度に、私の正座射手座にも目を向ける。順番は、上から二番目、先頭の獅子座の次だった。
「今のあなたには、人に知らせたいような面白い事がたくさんあるはず。あなたの体験はとてもユニークなもので、それを聞いた人達を驚かせたり、助けを与える事ができるわ。その逆に、周りに目や耳を研ぎ澄ますと、あなたの知りたかった事にたどり着くことになるかも。今月は、コミュニケーションが大きなテーマね。 幸運魔法は、強風魔法よ」胡散臭いなりに、興味を引く内容だった。話せるかどうかは別として、ユニークな体験には心当たりがある。一番知りたいのは、平安が訪れた後の魔法界だから、占いの後半は、戦いに終止符を打てるという示唆かもしれない。
幸運の強風魔法とは、私が身に着けるべき魔法だと言いたいのか、はたまた(十八番にしている)志筑自身が鍵になるという意味なのか。とりあえずは、彼との会話に注意を払うことだ、と肝に銘じた。
謎は残したままで、手紙を一斉に閉じた。余韻として立ち込めるのは、このみのパパの死だった。手紙を書いた時、彼女はこんな未来を予測していなかったに決まっている。当たり前のように、前に敷いていた道を進んでいたはずだ。
私だって故郷に帰って、父の死に触れたばかりだ。親友を通して、再び悪夢を見た。このみは、長い事一緒にいたし、今の生活の中に死があるしで、私より辛い思いだろう。
一日早く、ご冥福を祈りながら、これ以上の犠牲者が出ないことを切に願った。
「分かった分かった」
「届くのに時間がかかるから、早めにな。なんせ、不死鳥は戦地に行ってる」志筑が重要な事を指摘した。私達は、郵便配達の存在を頭から消していた。
「明日、会うしかないわ」
「もう聞いてるのね」
「このみの母親が知らせてくれたの。是非、来てくれって」
「そっかそっか。律子ちゃんや、梓ちゃんも来ると良いんだけど」
「このみを励ましに来るはずよ」
「報せは行ってるだろうけど、分からないわ。ミズミアのあちこちから人が集まるから、遠慮するかも」
「人が集まり過ぎたら、危ないって事?」
「そうよ。言っても、まだ戦時中だし、仮のものになると思うの。正義軍も一部は参加できない」
「あずあずとは家が反対だし、当分会えないね」心の中でしんみりのボトルが傾いた。
「高塔(梓)君に限らず、二校西側の住人も、誰かしらはいる。一人や二人探して、手紙を預ける暇くらいあるだろう」志筑が言った。
「そうせずとも、玲禾が合同葬儀に出れば、風の便りがお友達にも届くはずだ」左内も、彼に乗って、前向きな言葉をくれた。
正義軍の二人は、家路に着いた。片方の道は短く、もう片方は不明だが、そこまでの距離はないように思える。なんせ、志筑は双穴に居を構えるミズミア二校の教授で、内藤女史のように、代理で来たわけでもない。
ソファに腰を下ろし、手紙を手に取る。三通しかないのは、律子とこのみが同じ羊皮紙に書いてあるからだ。
それは二人だけの豪勢な寄せ書きのようだった。広大な余白を使って、男と女の絵が、別々の筆跡で描かれている。誰に似ているかはさておき、誰を書きたいかは容易に想像がついた。
律子が、私の絵を描いて、もう一人をこのみに託したに違いない。通学路で仲良しの二人なら、やりかねない。ふたりのいたずらな笑みが、思い浮かんだ。
マリアの手紙は、意外にベタで、寂しい気持ちと早く会いたい思いを伝えていた。真っ直ぐな文面は彼女らしい。
あずあずの手紙には、お決まりの伝言とともに、正座占いが載っていた。彼女は、こんな時でも、人生を楽しむコツを心得ている。
十二星座全ての運勢と幸運魔法が並ぶのは、私の誕生日を教えていなかった為であり、何よりも彼女自身の運勢を披露する為でもあった。
天秤座には、愛情の印がつけられており、「今月は、退屈という呪いから解放されて、私生活が充実するでしょう。世の中が移ろう中、‘真実の愛’の妖精を呼び寄せるわ。新たな出会いが待っているかもしれない。 幸運魔法は、ルーナ ワンフー よ」と書かれている。
きっと例の石川先輩のことを言いたいんだろう。正義軍が命を懸けて戦っている中、呑気が過ぎると思ったけれど、あずあずなら何故か許せる。
参考程度に、私の正座射手座にも目を向ける。順番は、上から二番目、先頭の獅子座の次だった。
「今のあなたには、人に知らせたいような面白い事がたくさんあるはず。あなたの体験はとてもユニークなもので、それを聞いた人達を驚かせたり、助けを与える事ができるわ。その逆に、周りに目や耳を研ぎ澄ますと、あなたの知りたかった事にたどり着くことになるかも。今月は、コミュニケーションが大きなテーマね。 幸運魔法は、強風魔法よ」胡散臭いなりに、興味を引く内容だった。話せるかどうかは別として、ユニークな体験には心当たりがある。一番知りたいのは、平安が訪れた後の魔法界だから、占いの後半は、戦いに終止符を打てるという示唆かもしれない。
幸運の強風魔法とは、私が身に着けるべき魔法だと言いたいのか、はたまた(十八番にしている)志筑自身が鍵になるという意味なのか。とりあえずは、彼との会話に注意を払うことだ、と肝に銘じた。
謎は残したままで、手紙を一斉に閉じた。余韻として立ち込めるのは、このみのパパの死だった。手紙を書いた時、彼女はこんな未来を予測していなかったに決まっている。当たり前のように、前に敷いていた道を進んでいたはずだ。
私だって故郷に帰って、父の死に触れたばかりだ。親友を通して、再び悪夢を見た。このみは、長い事一緒にいたし、今の生活の中に死があるしで、私より辛い思いだろう。
一日早く、ご冥福を祈りながら、これ以上の犠牲者が出ないことを切に願った。
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