163 / 242
東部連合編
名付け親
しおりを挟む
「アーヤカスから三人でも良いんですよ」志筑が返した。
「勘弁してくれ。体は一つしかないんだ。それに、私みたいな年寄りは足手まといになる」延永将軍は本心かどうかはさておき、謙遜の言葉を述べた。
「年齢のせいにするのは、褒められたものではありませんな」同年代と思われる、度会が苦笑いする。
「これは失敬。あくまで、私だけの話だったな。ミズミアの北別府修二が良い例だ」
「では、若いのもベテランも含めて、征西部隊の結成としましょうか」志筑は改まって言うけれど、彼の言葉選びにも、茶々が入った。
「征西部隊は堅苦しいな」井上が言った。
「確かに。部隊ってのが、如何にもな感じがします」東田さんも、珍しく井上に歩調を合わせた。志筑は顔色から全員の反応を探り、結果は良くないと悟ったようだ。
「東部連合はどうですか?」小笠原さんが言った。
「連合ね。なんだか良い響きじゃないか」上司の延永さんは、彼女に即席のお墨付きを与える。
「ただ、東部だとモモオタ(州)なんかも含まれます」
「じゃあ、水連合にしてみては?」私から提案した。私にも一員だという自負がある。「水から湖を連想できるし、自然の彩りや芽も水を根源にしています」
湖庵、彩粕、芽満別の三国連合にぴったりだ。我ながらそう思った。
「それは綺麗事だよ。水というと、ウォーターズの印象が立ってしまう。ミズミア色が強くなり過ぎるな」度会が言い、延永さんが賛同した。
‘実際にミズミアの人間が多いんだから、それで何が悪いの!’と言いかけたけれど、既のところで止まった。これから行動を共にしていくのだから、最初から相手の心情を悪くするのは避けたい。ここでは、私が折れて、貸しを一つ作っておこう。
結局、満場一致で東部連合になった。左内が満足気にしているのは、出身地の要素が入ったからだろう。
房沙総や私が育ってきた世界まで含めれば益々多様で、何だかんだ心強い仲間が揃った。
多過ぎず、少な過ぎずの人数もバレない為には丁度良い。安息の地で彩粕軍統制を行おうという良いご身分の、延永の不参加も悪いものとは思えなくなっていた。
構成員が決まってようやく、机上の地図の出番になる。
西への道を選ばなければならない。東田さんが、地図の真ん中メマンベッツ州に杖先を向けると、小さな焚き火が現れた。信濃小路の戦火を表している。(魔法のおかげで、紙は燃えず、火だけ残る)
火が消えないのと同様に、今も争いが続いている。
「どちらの道を行く?」炎を挟んで、私や東田さんと反対側にいる左内が言った。
「メマンベッツ(魔法界の中央)に兵力が注ぎ込まれている。どちらでも大丈夫か」志筑が見解を述べる。
「そうとは限らないぞ。生物兵器があるから、必ずしも人間を集めなくとも、数は足りる」
「私達側の兵力は大丈夫でしょうか?」小笠原さんが上司の延永に、浄御原を思わせる不安を訴えた。
「だからこそ、正義軍も、将軍同士で連携を取り、増強を進めている。当然、庄司君や佐々木君だけでなく、他の州ともね」彼は答えると同時に、自分の仕事の成果を主張した。
「我々は我々で出来る事に集中しよう。延永さんが残るのは、芽湖の事を心配しなくて済むようにだ」左内が大理石を見回して、一人一人に訴えた。謁見した目的が思い出された。
「そうだ。俺たちが向くのは西の塔だけだ」
「敵が中央のまわりを向く前に動かないといけません」井上に続いて、東田さんが言った。私は頷いて、意思表示した。その方が東部連合の為であるし、戦地の為でもある。もし、戦況が好ましくないとしたら、耐えられる時間は有限だ。一刻一刻と、命が削られ、戦線が東下しないとも限らない。
「北路で行くか」延永将軍が言った。何人かの首が縦に動く。
「南進だと、後半に北上する時、地理的に大変です」小笠原さんは、賛同の意を示した。魔法界の地図を(縦方向に)四等分した時の西側の折り目に合わせるかのように、南北に山脈が走る。山脈は、西の果てに、イツクン州を含む三州を隠している。
「やはり、脊梁山脈を超えるのは厳しいのか?西側には平地が広がってるだろ」
「知っての通り、西側に降りるのは、危険が伴う。旗軍の息がかかっているかもしれないし、西側の正義軍は、全幅の信頼はできかねる。完全な協調は難しいだろう」将軍が井上に意見した。彼の中では、時間重視なら北進という答えが出ているようだ。
「どちらにせよ、最後まで山脈を越えないというのが、前提です。南進なら、山にぶつかった後、背骨に沿ってイツクンまで上ることになります」小笠原さんが言った。隣の東田さんも含めて、きっとアーヤカス勢は意思を共有しているのだろう。まるで一人の人間が話しているみたいに、一貫性がある。
ミズミアに関しては、広く征西賛成派が集められただけだが、主催国ではもっと理解が詰められているに違いなかった。浄御原や井上のようなはぐれ者は、決まってミズミア勢だ。
「勘弁してくれ。体は一つしかないんだ。それに、私みたいな年寄りは足手まといになる」延永将軍は本心かどうかはさておき、謙遜の言葉を述べた。
「年齢のせいにするのは、褒められたものではありませんな」同年代と思われる、度会が苦笑いする。
「これは失敬。あくまで、私だけの話だったな。ミズミアの北別府修二が良い例だ」
「では、若いのもベテランも含めて、征西部隊の結成としましょうか」志筑は改まって言うけれど、彼の言葉選びにも、茶々が入った。
「征西部隊は堅苦しいな」井上が言った。
「確かに。部隊ってのが、如何にもな感じがします」東田さんも、珍しく井上に歩調を合わせた。志筑は顔色から全員の反応を探り、結果は良くないと悟ったようだ。
「東部連合はどうですか?」小笠原さんが言った。
「連合ね。なんだか良い響きじゃないか」上司の延永さんは、彼女に即席のお墨付きを与える。
「ただ、東部だとモモオタ(州)なんかも含まれます」
「じゃあ、水連合にしてみては?」私から提案した。私にも一員だという自負がある。「水から湖を連想できるし、自然の彩りや芽も水を根源にしています」
湖庵、彩粕、芽満別の三国連合にぴったりだ。我ながらそう思った。
「それは綺麗事だよ。水というと、ウォーターズの印象が立ってしまう。ミズミア色が強くなり過ぎるな」度会が言い、延永さんが賛同した。
‘実際にミズミアの人間が多いんだから、それで何が悪いの!’と言いかけたけれど、既のところで止まった。これから行動を共にしていくのだから、最初から相手の心情を悪くするのは避けたい。ここでは、私が折れて、貸しを一つ作っておこう。
結局、満場一致で東部連合になった。左内が満足気にしているのは、出身地の要素が入ったからだろう。
房沙総や私が育ってきた世界まで含めれば益々多様で、何だかんだ心強い仲間が揃った。
多過ぎず、少な過ぎずの人数もバレない為には丁度良い。安息の地で彩粕軍統制を行おうという良いご身分の、延永の不参加も悪いものとは思えなくなっていた。
構成員が決まってようやく、机上の地図の出番になる。
西への道を選ばなければならない。東田さんが、地図の真ん中メマンベッツ州に杖先を向けると、小さな焚き火が現れた。信濃小路の戦火を表している。(魔法のおかげで、紙は燃えず、火だけ残る)
火が消えないのと同様に、今も争いが続いている。
「どちらの道を行く?」炎を挟んで、私や東田さんと反対側にいる左内が言った。
「メマンベッツ(魔法界の中央)に兵力が注ぎ込まれている。どちらでも大丈夫か」志筑が見解を述べる。
「そうとは限らないぞ。生物兵器があるから、必ずしも人間を集めなくとも、数は足りる」
「私達側の兵力は大丈夫でしょうか?」小笠原さんが上司の延永に、浄御原を思わせる不安を訴えた。
「だからこそ、正義軍も、将軍同士で連携を取り、増強を進めている。当然、庄司君や佐々木君だけでなく、他の州ともね」彼は答えると同時に、自分の仕事の成果を主張した。
「我々は我々で出来る事に集中しよう。延永さんが残るのは、芽湖の事を心配しなくて済むようにだ」左内が大理石を見回して、一人一人に訴えた。謁見した目的が思い出された。
「そうだ。俺たちが向くのは西の塔だけだ」
「敵が中央のまわりを向く前に動かないといけません」井上に続いて、東田さんが言った。私は頷いて、意思表示した。その方が東部連合の為であるし、戦地の為でもある。もし、戦況が好ましくないとしたら、耐えられる時間は有限だ。一刻一刻と、命が削られ、戦線が東下しないとも限らない。
「北路で行くか」延永将軍が言った。何人かの首が縦に動く。
「南進だと、後半に北上する時、地理的に大変です」小笠原さんは、賛同の意を示した。魔法界の地図を(縦方向に)四等分した時の西側の折り目に合わせるかのように、南北に山脈が走る。山脈は、西の果てに、イツクン州を含む三州を隠している。
「やはり、脊梁山脈を超えるのは厳しいのか?西側には平地が広がってるだろ」
「知っての通り、西側に降りるのは、危険が伴う。旗軍の息がかかっているかもしれないし、西側の正義軍は、全幅の信頼はできかねる。完全な協調は難しいだろう」将軍が井上に意見した。彼の中では、時間重視なら北進という答えが出ているようだ。
「どちらにせよ、最後まで山脈を越えないというのが、前提です。南進なら、山にぶつかった後、背骨に沿ってイツクンまで上ることになります」小笠原さんが言った。隣の東田さんも含めて、きっとアーヤカス勢は意思を共有しているのだろう。まるで一人の人間が話しているみたいに、一貫性がある。
ミズミアに関しては、広く征西賛成派が集められただけだが、主催国ではもっと理解が詰められているに違いなかった。浄御原や井上のようなはぐれ者は、決まってミズミア勢だ。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
欲しいのならば、全部あげましょう
杜野秋人
ファンタジー
「お姉様!わたしに頂戴!」
今日も妹はわたくしの私物を強請って持ち去ります。
「この空色のドレス素敵!ねえわたしに頂戴!」
それは今月末のわたくしの誕生日パーティーのためにお祖父様が仕立てて下さったドレスなのだけど?
「いいじゃないか、妹のお願いくらい聞いてあげなさい」
とお父様。
「誕生日のドレスくらいなんですか。また仕立てればいいでしょう?」
とお義母様。
「ワガママを言って、『妹を虐めている』と噂になって困るのはお嬢様ですよ?」
と専属侍女。
この邸にはわたくしの味方などひとりもおりません。
挙げ句の果てに。
「お姉様!貴女の素敵な婚約者さまが欲しいの!頂戴!」
妹はそう言って、わたくしの婚約者までも奪いさりました。
そうですか。
欲しいのならば、あげましょう。
ですがもう、こちらも遠慮しませんよ?
◆例によって設定ほぼ無しなので固有名詞はほとんど出ません。
「欲しがる」妹に「あげる」だけの単純な話。
恋愛要素がないのでジャンルはファンタジーで。
一発ネタですが後悔はありません。
テンプレ詰め合わせですがよろしければ。
◆全4話+補足。この話は小説家になろうでも公開します。あちらは短編で一気読みできます。
カクヨムでも公開しました。
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる