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東部連合編

名付け親

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「アーヤカスから三人でも良いんですよ」志筑が返した。
「勘弁してくれ。体は一つしかないんだ。それに、私みたいな年寄りは足手まといになる」延永将軍は本心かどうかはさておき、謙遜の言葉を述べた。

「年齢のせいにするのは、褒められたものではありませんな」同年代と思われる、度会が苦笑いする。
「これは失敬。あくまで、私だけの話だったな。ミズミアの北別府修二が良い例だ」
「では、若いのもベテランも含めて、征西部隊の結成としましょうか」志筑は改まって言うけれど、彼の言葉選びにも、茶々が入った。
「征西部隊は堅苦しいな」井上が言った。
「確かに。部隊ってのが、如何にもな感じがします」東田さんも、珍しく井上に歩調を合わせた。志筑は顔色から全員の反応を探り、結果は良くないと悟ったようだ。
「東部連合はどうですか?」小笠原さんが言った。
「連合ね。なんだか良い響きじゃないか」上司の延永さんは、彼女に即席のお墨付きを与える。
「ただ、東部だとモモオタ(州)なんかも含まれます」
「じゃあ、水連合にしてみては?」私から提案した。私にも一員だという自負がある。「水から湖を連想できるし、自然の彩りや芽も水を根源にしています」
 湖庵、彩粕、芽満別の三国連合にぴったりだ。我ながらそう思った。

「それは綺麗事だよ。水というと、ウォーターズの印象が立ってしまう。ミズミア色が強くなり過ぎるな」度会が言い、延永さんが賛同した。
 ‘実際にミズミアの人間が多いんだから、それで何が悪いの!’と言いかけたけれど、既のところで止まった。これから行動を共にしていくのだから、最初から相手の心情を悪くするのは避けたい。ここでは、私が折れて、貸しを一つ作っておこう。

 結局、満場一致で東部連合になった。左内が満足気にしているのは、出身地の要素が入ったからだろう。
 房沙総や私が育ってきた世界まで含めれば益々多様で、何だかんだ心強い仲間が揃った。

 多過ぎず、少な過ぎずの人数もバレない為には丁度良い。安息の地で彩粕軍統制を行おうという良いご身分の、延永の不参加も悪いものとは思えなくなっていた。

 構成員が決まってようやく、机上の地図の出番になる。
 西への道を選ばなければならない。東田さんが、地図の真ん中メマンベッツ州に杖先を向けると、小さな焚き火が現れた。信濃小路の戦火を表している。(魔法のおかげで、紙は燃えず、火だけ残る)
 火が消えないのと同様に、今も争いが続いている。

「どちらの道を行く?」炎を挟んで、私や東田さんと反対側にいる左内が言った。
「メマンベッツ(魔法界の中央)に兵力が注ぎ込まれている。どちらでも大丈夫か」志筑が見解を述べる。
「そうとは限らないぞ。生物兵器があるから、必ずしも人間を集めなくとも、数は足りる」
「私達側の兵力は大丈夫でしょうか?」小笠原さんが上司の延永に、浄御原を思わせる不安を訴えた。
「だからこそ、正義軍も、将軍同士で連携を取り、増強を進めている。当然、庄司君や佐々木君だけでなく、他の州ともね」彼は答えると同時に、自分の仕事の成果を主張した。
「我々は我々で出来る事に集中しよう。延永さんが残るのは、芽湖の事を心配しなくて済むようにだ」左内が大理石を見回して、一人一人に訴えた。謁見した目的が思い出された。
「そうだ。俺たちが向くのは西の塔だけだ」
「敵が中央のまわりを向く前に動かないといけません」井上に続いて、東田さんが言った。私は頷いて、意思表示した。その方が東部連合の為であるし、戦地の為でもある。もし、戦況が好ましくないとしたら、耐えられる時間は有限だ。一刻一刻と、命が削られ、戦線が東下しないとも限らない。

「北路で行くか」延永将軍が言った。何人かの首が縦に動く。
「南進だと、後半に北上する時、地理的に大変です」小笠原さんは、賛同の意を示した。魔法界の地図を(縦方向に)四等分した時の西側の折り目に合わせるかのように、南北に山脈が走る。山脈は、西の果てに、イツクン州を含む三州を隠している。

「やはり、脊梁山脈を超えるのは厳しいのか?西側には平地が広がってるだろ」
「知っての通り、西側に降りるのは、危険が伴う。旗軍の息がかかっているかもしれないし、西側の正義軍は、全幅の信頼はできかねる。完全な協調は難しいだろう」将軍が井上に意見した。彼の中では、時間重視なら北進という答えが出ているようだ。

「どちらにせよ、最後まで山脈を越えないというのが、前提です。南進なら、山にぶつかった後、背骨に沿ってイツクンまで上ることになります」小笠原さんが言った。隣の東田さんも含めて、きっとアーヤカス勢は意思を共有しているのだろう。まるで一人の人間が話しているみたいに、一貫性がある。
 ミズミアに関しては、広く征西賛成派が集められただけだが、主催国ではもっと理解が詰められているに違いなかった。浄御原や井上のようなはぐれ者は、決まってミズミア勢だ。
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