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東部連合編
捨て身
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「お一人で、ご苦労かけました」庄司さんが、秘密任務の功を労った。
「ほんと、その通り。あからさまな調査はできないし、周りの目はあるしで骨が折れたよ」度会は、顔に達成感を滲ませたが、すぐに真顔になった。右袖をまくり、茶色く日焼けした腕を皆に見せた。
「どうしたんですか?」
「魔法痕を自分の体に刻みこんだ。腕に治癒魔法をかけさせて、皮膚と温室の魔法痕が一致するか見るんだ」
「なんて危険なんでしょう。我々の勝手なお願いに、身を削って頂いたなんて」
「いやいや。あくまで後遺症が残らない程度にね」度会が言う。「意図に気付かれる心配もあったけど、真っ当な戦士に囲まれては、向こうも思い切れない」
「わかりませんよ。周りに裏切り者が固まっていたかもしれません」
「確かにそうだな。多少向こう見ずでいれたのが、幸いしたかもしれん。他に方法が思いつかんかったしな」度会本人は、過ぎた事として、吹っ切れている。
「体の方が、あからさまに疑えないし、判断を急かしますからね」東田さんが指摘する。
「そう、その通り。元々、コウモリや練習場の保全回復に治癒魔法やその類推が使われたのでは、と推測があった。違和感なく同じ魔法を使わせる為に、利き手の不調を訴えた訳だ」
「芝居が上手かったんでしょうね。相手も警戒していたと思います」
「私の演技もあるけど、小道具も使ったよ」彼は元気になった右手で、ご飯ガムを取り出した。澄んだ黄色の包装は初御目見得であっても、形状と包装模様で正体は明らかだ。秘密ゲル練の時、観客席の裏でお世話になった代物の、姉妹品だ。
「バッタの唐揚げ味だ。これ五本食らう度に、体調を崩して説得力が出る。副作用も甚大だ。現に数回失敗して、ひどい有様だった」
「笑い話に出来る程度には回復してるみたいですね」
「ようやくだよ。向こうにいる時分は、起きているのもやっとだった。ミズミアやアーヤカスに引き取ってもらえて良かったよ」
「北別府さんから連絡がありましてね。私達が度会さんを保護した方が安全ではないか、と申し出た訳です」延永将軍が落ち着き払って言った。
「芽満別の他の方には、バレなかったんですか?」
「たぶん、大丈夫。まぁ、こうして高飛びした事で、周りは何かしら勘付くでしょうがね。あいつも、××派の一味じゃないかって」本人は、軍員の誰かになりきって言った。自身に悪態をつきながら、ほくそ笑んでいる。
「彼らに彩粕から風の便が届きますよ。あなたの思いを乗っけて」井上が励ました。「温室での様子も、それほど深刻ではなかったし、大丈夫」
「それを祈りますよ。ただ、普通を装っても、心の中は穏やかじゃなかったはずです。自分らの土地で、不穏な動きがあった訳ですから」
「加えて、軍内部に、黒い人間との関わりがあったとなれば、信頼関係が崩れかねません。味方に疑心暗鬼では、十分に力を発揮できない」左内は、度会に同調する。
「心配無用さ。そうなりゃ、ミズミアやアーヤカスが、メマンベッツを支援するまでよ。俺たちがここに来たみたいに、ミズミアだって助ける側に回るんだ」井上が胸を張って言った。
「それも、後ろで糸を引く奴らの狙いかもしれない」将軍が戒める。静閑さに、厳格さが内包され、まるで北別府が諭す時のような口調だ。
「どういう事ですか?」
「東部正義軍が中央部に誘き寄せられる。我々も敵も、メマンベッツに勢揃いって訳だ。目も開けられないような、酷い状態になる。お互いが完全武装でぶつかり合うんだから」
「ほんと、その通り。あからさまな調査はできないし、周りの目はあるしで骨が折れたよ」度会は、顔に達成感を滲ませたが、すぐに真顔になった。右袖をまくり、茶色く日焼けした腕を皆に見せた。
「どうしたんですか?」
「魔法痕を自分の体に刻みこんだ。腕に治癒魔法をかけさせて、皮膚と温室の魔法痕が一致するか見るんだ」
「なんて危険なんでしょう。我々の勝手なお願いに、身を削って頂いたなんて」
「いやいや。あくまで後遺症が残らない程度にね」度会が言う。「意図に気付かれる心配もあったけど、真っ当な戦士に囲まれては、向こうも思い切れない」
「わかりませんよ。周りに裏切り者が固まっていたかもしれません」
「確かにそうだな。多少向こう見ずでいれたのが、幸いしたかもしれん。他に方法が思いつかんかったしな」度会本人は、過ぎた事として、吹っ切れている。
「体の方が、あからさまに疑えないし、判断を急かしますからね」東田さんが指摘する。
「そう、その通り。元々、コウモリや練習場の保全回復に治癒魔法やその類推が使われたのでは、と推測があった。違和感なく同じ魔法を使わせる為に、利き手の不調を訴えた訳だ」
「芝居が上手かったんでしょうね。相手も警戒していたと思います」
「私の演技もあるけど、小道具も使ったよ」彼は元気になった右手で、ご飯ガムを取り出した。澄んだ黄色の包装は初御目見得であっても、形状と包装模様で正体は明らかだ。秘密ゲル練の時、観客席の裏でお世話になった代物の、姉妹品だ。
「バッタの唐揚げ味だ。これ五本食らう度に、体調を崩して説得力が出る。副作用も甚大だ。現に数回失敗して、ひどい有様だった」
「笑い話に出来る程度には回復してるみたいですね」
「ようやくだよ。向こうにいる時分は、起きているのもやっとだった。ミズミアやアーヤカスに引き取ってもらえて良かったよ」
「北別府さんから連絡がありましてね。私達が度会さんを保護した方が安全ではないか、と申し出た訳です」延永将軍が落ち着き払って言った。
「芽満別の他の方には、バレなかったんですか?」
「たぶん、大丈夫。まぁ、こうして高飛びした事で、周りは何かしら勘付くでしょうがね。あいつも、××派の一味じゃないかって」本人は、軍員の誰かになりきって言った。自身に悪態をつきながら、ほくそ笑んでいる。
「彼らに彩粕から風の便が届きますよ。あなたの思いを乗っけて」井上が励ました。「温室での様子も、それほど深刻ではなかったし、大丈夫」
「それを祈りますよ。ただ、普通を装っても、心の中は穏やかじゃなかったはずです。自分らの土地で、不穏な動きがあった訳ですから」
「加えて、軍内部に、黒い人間との関わりがあったとなれば、信頼関係が崩れかねません。味方に疑心暗鬼では、十分に力を発揮できない」左内は、度会に同調する。
「心配無用さ。そうなりゃ、ミズミアやアーヤカスが、メマンベッツを支援するまでよ。俺たちがここに来たみたいに、ミズミアだって助ける側に回るんだ」井上が胸を張って言った。
「それも、後ろで糸を引く奴らの狙いかもしれない」将軍が戒める。静閑さに、厳格さが内包され、まるで北別府が諭す時のような口調だ。
「どういう事ですか?」
「東部正義軍が中央部に誘き寄せられる。我々も敵も、メマンベッツに勢揃いって訳だ。目も開けられないような、酷い状態になる。お互いが完全武装でぶつかり合うんだから」
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