138 / 242
東部連合編
お宮(宮殿)詣
しおりを挟む
「私だけじゃない。彼が同郷のを募って、身一つの者が集まった」
「身一つ?」
「戦争で南国経済が参っていたから、出稼ぎ者も少なくなかった。状況が良くないのは、どこも同じだという声もあったけど、結果は俺たち二人が知ってるさ」
「いや、三人だね」左内が訂正する。
「玲禾も、役場で功を挙げ、知る人ぞ知る二校に通っているんだから」
「そうだな、君もだ」万城目は頷いた。「有事の際だから、新しい生活様式が求められていた。異なる文化が入る余地ができたし、運が良い事に、俺たちと、迷い込んだ湖庵の相性が良かった。第二の故郷が高待遇で迎え入れてくれて、今がある」
「その金と実績を引っさげて、彩粕でも一山当てたらしい」
「一山とはいかないよ。まだ五合目くらい」
「何をなさっているんですか?」彼とは初対面なので、左内の方にも、視線を配りながら聞いた。
「同じ様な事を、彩粕でもやってるんだ。建築を」
「とんだジャーニーマンだ。房砂総、湖庵と来て、次は彩粕」
「湖庵以降は、そこまで大きな仕事は出来ていない。いつかマホージュ競技場の改築なんかやってみたいんだ」
「専用の競技場?」
「もちろんさ。そっか、まだ知らない世代だから無理はないね。マホージュを見たことないという若い子が増えて残念だ。本当に、戦争が憎いね。私の作るコンコースが賑わうのはいつになるやら」
「遠くないかもしれない。私達はその為に来てる」
「じゃあ、本当なんだな。軍に謁見するって」万丈目の目を見て、自分が試されてるのを感じた。
「当たり前だ。嘘をつく必要がない。まさに、今日これからだ」
「すごい時に会ったもんだな」
「人生って不思議なもんだ。東部の為に一肌脱ごうって時に、彩粕を南進してきた商人に会うんだから」
「俺がやましいみたいに言うな。仕事には変わりないだろう」二人のやり取りは、息ぴったりで久しぶりとは思えなかった。十年ぶりという事は、私とマリア、このみのような関係だ。私達三人の絆が二つの世界を超えたのと同じように、彼らも何かで繋がっているのかもしれない。何故か、点と点を結んだ突然の再会ではなく、手紙を交わしていたかのような継続的な何かを裏に感じ取っていた。
「今はこちらに住んでらっしゃるんですか?」
「そう、彩粕にいる。家は、彩粕北部にあって、商談で八丁幌に来た。だから、彼に変な見方をされてるんだ」万城目は、左内を見やりながら、嘆いた。
「事実を言ってるだけだ。手を広げ過ぎるのは、よろしくない」
「ハッハ、ありがたい助言だね。次へ次へと前を向くのが、玄人の性分だから。今の二人と同じさ」
「行き先は雲泥の差だよ」
「いや、世界をより良くしたいという崇高な思いは変わらない」私は大袈裟な表現に思わず笑ったけれど、本人はユーモアとともに真剣さもない交ぜにしてるようだった。「私のも巡り巡って、世の為、人の為だ。建築も、住処を移すのも慣れたもんだから、上手くやるさ」
万丈目と別れを告げた後、自室に向かう。二人に触発されて、私の心にもスイッチが入った。
遥か先の危険を脇に置くと、目の前にあるのは格調高い彩粕のお宮だ。ローブを着て、玄人界ならどこにいても恥ずかしくない私に変身する。身なりで第一印象を損ねてはもったいない。大部屋に戻ると、すでに六人の姿があった。案内人東田有葵以外は、同じ水色の花びらを胸に刻んでいる。
一行は、万丈目のいないロビーを過ぎて外に出た。太陽の日差しは、自由時間が終わり、本番に向かっていく私達を照らし出す。
「本場のお陽さんは違うな。これぞ、グレート・ジャイアンツだ」井上が言った。偉大的巨人軍の紋章は、太陽を象っている。ローブに該当印を刻む東田さんだけが使命感から愛想笑いを返した。
目的地までは徒歩だ。
緑園を内包する石の広場を、昨日と反対方向に通り過ぎ、彩粕の旗を背にして石灰石の谷間を縫っていく。緩やかな坂道を登り、大通りに出た。
気持ち背が高くなった建物と、倍に広がった道路(街路樹を挟む)が開放的な空間を作っている。
道路と言っても、車ではなく、箒が通る。短い間に何人も空を通り過ぎた。箒が猛スピードでいれるのは、信号のない一方通行だからで、まるで空の高速道路といった様相だ。
料金所の代わりに、街路樹上部についたバスケットの中に、正装の男が座っている。軍に対する不届き者がいないか見張っているのだろう。
あっという間に小さくなる運転手の背中を追っていると、木々の途切れの向こうにタイル張りの広場を見た。一歩一歩踏みしめながら、自分自身を落ち着けた。東田さんの言った通り、彩粕勢は仲間だ。
「おー、噴水も変わってねえな」東田さんの後ろを行く、井上が言った。
私も幹の間から馬鹿でかい噴水を見た。睦水の秘密基地上のを全部合わせたって、到底かないやしない。
さらに、年季を感じさせる薄茶色の壁が、噴水の後ろに、居を構えている。二校のように天に突き出すのではなく、楯状火山のように大地に強く根を張り、太陽と青空を全身に受けている。
お宮(宮殿)の門を正面に見て、大通りを渡る。
空の道路の良い点は、歩行者が地下道や立体歩道橋を潜ることなく、横断できる所だ。あくまで、目印を示すだけだから、路面上はがらんとしている。左右の安全確認は蛇足だった。
「この門の上には、見えない巣が張られているの。空からの侵入はご法度よ」東田さんは、職にふさわしい案内をした。口調は、私以外には言わずもがなと語っている。
「身一つ?」
「戦争で南国経済が参っていたから、出稼ぎ者も少なくなかった。状況が良くないのは、どこも同じだという声もあったけど、結果は俺たち二人が知ってるさ」
「いや、三人だね」左内が訂正する。
「玲禾も、役場で功を挙げ、知る人ぞ知る二校に通っているんだから」
「そうだな、君もだ」万城目は頷いた。「有事の際だから、新しい生活様式が求められていた。異なる文化が入る余地ができたし、運が良い事に、俺たちと、迷い込んだ湖庵の相性が良かった。第二の故郷が高待遇で迎え入れてくれて、今がある」
「その金と実績を引っさげて、彩粕でも一山当てたらしい」
「一山とはいかないよ。まだ五合目くらい」
「何をなさっているんですか?」彼とは初対面なので、左内の方にも、視線を配りながら聞いた。
「同じ様な事を、彩粕でもやってるんだ。建築を」
「とんだジャーニーマンだ。房砂総、湖庵と来て、次は彩粕」
「湖庵以降は、そこまで大きな仕事は出来ていない。いつかマホージュ競技場の改築なんかやってみたいんだ」
「専用の競技場?」
「もちろんさ。そっか、まだ知らない世代だから無理はないね。マホージュを見たことないという若い子が増えて残念だ。本当に、戦争が憎いね。私の作るコンコースが賑わうのはいつになるやら」
「遠くないかもしれない。私達はその為に来てる」
「じゃあ、本当なんだな。軍に謁見するって」万丈目の目を見て、自分が試されてるのを感じた。
「当たり前だ。嘘をつく必要がない。まさに、今日これからだ」
「すごい時に会ったもんだな」
「人生って不思議なもんだ。東部の為に一肌脱ごうって時に、彩粕を南進してきた商人に会うんだから」
「俺がやましいみたいに言うな。仕事には変わりないだろう」二人のやり取りは、息ぴったりで久しぶりとは思えなかった。十年ぶりという事は、私とマリア、このみのような関係だ。私達三人の絆が二つの世界を超えたのと同じように、彼らも何かで繋がっているのかもしれない。何故か、点と点を結んだ突然の再会ではなく、手紙を交わしていたかのような継続的な何かを裏に感じ取っていた。
「今はこちらに住んでらっしゃるんですか?」
「そう、彩粕にいる。家は、彩粕北部にあって、商談で八丁幌に来た。だから、彼に変な見方をされてるんだ」万城目は、左内を見やりながら、嘆いた。
「事実を言ってるだけだ。手を広げ過ぎるのは、よろしくない」
「ハッハ、ありがたい助言だね。次へ次へと前を向くのが、玄人の性分だから。今の二人と同じさ」
「行き先は雲泥の差だよ」
「いや、世界をより良くしたいという崇高な思いは変わらない」私は大袈裟な表現に思わず笑ったけれど、本人はユーモアとともに真剣さもない交ぜにしてるようだった。「私のも巡り巡って、世の為、人の為だ。建築も、住処を移すのも慣れたもんだから、上手くやるさ」
万丈目と別れを告げた後、自室に向かう。二人に触発されて、私の心にもスイッチが入った。
遥か先の危険を脇に置くと、目の前にあるのは格調高い彩粕のお宮だ。ローブを着て、玄人界ならどこにいても恥ずかしくない私に変身する。身なりで第一印象を損ねてはもったいない。大部屋に戻ると、すでに六人の姿があった。案内人東田有葵以外は、同じ水色の花びらを胸に刻んでいる。
一行は、万丈目のいないロビーを過ぎて外に出た。太陽の日差しは、自由時間が終わり、本番に向かっていく私達を照らし出す。
「本場のお陽さんは違うな。これぞ、グレート・ジャイアンツだ」井上が言った。偉大的巨人軍の紋章は、太陽を象っている。ローブに該当印を刻む東田さんだけが使命感から愛想笑いを返した。
目的地までは徒歩だ。
緑園を内包する石の広場を、昨日と反対方向に通り過ぎ、彩粕の旗を背にして石灰石の谷間を縫っていく。緩やかな坂道を登り、大通りに出た。
気持ち背が高くなった建物と、倍に広がった道路(街路樹を挟む)が開放的な空間を作っている。
道路と言っても、車ではなく、箒が通る。短い間に何人も空を通り過ぎた。箒が猛スピードでいれるのは、信号のない一方通行だからで、まるで空の高速道路といった様相だ。
料金所の代わりに、街路樹上部についたバスケットの中に、正装の男が座っている。軍に対する不届き者がいないか見張っているのだろう。
あっという間に小さくなる運転手の背中を追っていると、木々の途切れの向こうにタイル張りの広場を見た。一歩一歩踏みしめながら、自分自身を落ち着けた。東田さんの言った通り、彩粕勢は仲間だ。
「おー、噴水も変わってねえな」東田さんの後ろを行く、井上が言った。
私も幹の間から馬鹿でかい噴水を見た。睦水の秘密基地上のを全部合わせたって、到底かないやしない。
さらに、年季を感じさせる薄茶色の壁が、噴水の後ろに、居を構えている。二校のように天に突き出すのではなく、楯状火山のように大地に強く根を張り、太陽と青空を全身に受けている。
お宮(宮殿)の門を正面に見て、大通りを渡る。
空の道路の良い点は、歩行者が地下道や立体歩道橋を潜ることなく、横断できる所だ。あくまで、目印を示すだけだから、路面上はがらんとしている。左右の安全確認は蛇足だった。
「この門の上には、見えない巣が張られているの。空からの侵入はご法度よ」東田さんは、職にふさわしい案内をした。口調は、私以外には言わずもがなと語っている。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!
れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。
父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。
メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。
復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*)
*なろうにも投稿しています
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜
望月かれん
ファンタジー
中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。
戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。
暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。
疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。
なんと、ぬいぐるみが喋っていた。
しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。
天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。
※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる