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東部連合編
意志あるところ
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「ここから近いのは庭園の方ね」
「緑の平原をぶっ飛ばして、すぐだ。ただし、目当ての庭園を通り過ぎなければね」庄司さんの横やりに答える形で、浄御原が言った。
「周りの自然と見分けがつかないんですか」
「事件の痕跡は、一応、残っている。すっぽり伐採して、そこに新しいのを植え込んだみたいだ。節操のないオヤジだよ」浄御原が言った。
「じゃあ、見ても仕方ないです。メマンベッツの方にします」決意がブレないうちに、言ってのけた。
「良いのか?現場の雰囲気を掴むだけでも」
「いいんです。事件現場を呑気に確かめてる場合じゃないですから」寂しげな現場を見るだけで何になるのか。それより立ち向かうかもしれない敵の力を知る事が重要だ。発見から時間が経ってないし、より最近の彼らがそこにいる。旗軍だって、私達の情報を盗もうとした訳だから、その逆を行くんだ。前に進もうとする今、逃げていてはダメだ。
「本当に、温室で大丈夫?」庄司リーダーが意思を確認する。
「もちろん。びびってなんかいません。私は、友達と、そいつらの手先を倒したんですから」胸を張って言った。と同時に言い聞かせた。施設を見るくらいなんて事ない。
「頼もしいわね」
「そう来なくっちゃ」
私は、旗軍が黒幕だと言う前提で話したし、否定される事もなかった。みんなの読みというのは、もはや事実に思えてくる。
「西側に行く訳だから、必ずしも安全とは限らないぜ」浄御原が忠告する。
「大丈夫です。それはどこにいても同じだと思います」南淵左内なんて魔法界でも素人界でも危険に変わりないと言っていたくらいだ。魔法界内部の隣国なんて、境もないに等しい。
「調査隊も無事だった訳ですよね」
「ああ、確かに。ただ、すんなりいった訳じゃない。あくまで一悶着の結果としてだ」
中身だけの無人施設を勝手に想像していたけれど、そうじゃなかった。新聞の写真が全てだというのは錯覚で、時の流れの中では、当然その前後が存在する。
「踏み込もうとしてるのは、そういう所なのよ。戦いが起きてもおかしくないわ」リーダーが勇気ある撤退を訴えてくる。前回の会議で、お母さんから託された想いを汲んでるようだ。窓のない部屋で、聖なる庄司美奈の姿がランタンによって、浮かび上がった。
「ううん。上等です。避けては通れない道ですから」
「何も、あなたが無茶しなくとも良いのよ」
「分かってます。でも、現実から目をそらすのも危険だと思います。自分の目で一度見ておきます」彩粕に会いに行く過程なら、困難な事にも耐えれる気がした。偉大な道を進もうとしてる人に、神様が背を向けるとは思えない。きっと、大丈夫だ。
そういう運命を保証するかのように、リーダーは「温室は、私達の仲間が占拠してるから、必要以上に怖がる必要はない」と、ある種の種明かしをした。大袈裟に言うことで、私の意思を試していた部分もあったのだ。
「左内、出番だ」浄御原が大部屋に向かって叫ぶ。
「分かってるさ。二人揃って、耳をかっぽじって聞いてたからな」井上の声が、返ってきた。
左内本人は、私達の部屋に、直接お出ましになった。時計を見て、昼前にメマンベッツに入る計画を披露した。メマンベッツ勢の昼食を邪魔したくないのか、単に自分達が待たされたくないのか。私としては、謁見に悪影響が出なければ、理由は何でも良かった。
最後に議題に上がったのは、温室見学の対象に、浄御原も入れるかどうかだ。
「また俺の仕事かい」
「玲禾に提案したのは誰だ?」左内さんが、すました顔で言う。
「よく言うぜ。ここにいる皆んなで決めた事だろ」
「じゃあ、ここにいる皆んなで、もう一度決めるか。浄御原がメマンベッツに行くかどうか」
「おいおい、健全な決め方みたいに言うなよ。少人数では、多数決が機能するとも限らねえ。ここでは、哲人政治万歳だ」
「じゃあ、リーダーに決めて頂こう」
「そうだな。この中じゃ。庄司美奈こそ、哲人に近い」左内も井上に乗っかる。
「わかった、わかった…」彼は、分が悪いと悟ったようだ。唯一の道は、彼自身が哲人として認められることだが、認められないのはそれ以前に判明していた。
「何も、俺たちだって口先だけじゃない。行動を共にしようじゃないか。浄御原隊と」井上は、左内に呼びかける。
結局、名誉隊長はメマンベッツへの同行を承諾した。基地の留守番は、庄司リーダーに任せる。彼女に見守られながら、一行は噴水の板に向かった。
エレベーターのような転送装置は、定員が少ない。私は、来た時と同じように、左内さんと円盤に乗った。
噴水の吹上げに合わせて地上に出る。やはり、頭上だけが青空で、四方は水が上り下りしている。噴水が正義軍の基地を隠しているのだ。
次の吹上で浄御原隊長と井上を迎え入れると、四人は木陰から外れて、はるか遠くを見た。
魔法使いらしくない格好で、西の空に旅立つ。全員が、ローブやマントを着ているわけではない。確実に身に着けているのは、それぞれの検査アイテムのほうだ。
「緑の平原をぶっ飛ばして、すぐだ。ただし、目当ての庭園を通り過ぎなければね」庄司さんの横やりに答える形で、浄御原が言った。
「周りの自然と見分けがつかないんですか」
「事件の痕跡は、一応、残っている。すっぽり伐採して、そこに新しいのを植え込んだみたいだ。節操のないオヤジだよ」浄御原が言った。
「じゃあ、見ても仕方ないです。メマンベッツの方にします」決意がブレないうちに、言ってのけた。
「良いのか?現場の雰囲気を掴むだけでも」
「いいんです。事件現場を呑気に確かめてる場合じゃないですから」寂しげな現場を見るだけで何になるのか。それより立ち向かうかもしれない敵の力を知る事が重要だ。発見から時間が経ってないし、より最近の彼らがそこにいる。旗軍だって、私達の情報を盗もうとした訳だから、その逆を行くんだ。前に進もうとする今、逃げていてはダメだ。
「本当に、温室で大丈夫?」庄司リーダーが意思を確認する。
「もちろん。びびってなんかいません。私は、友達と、そいつらの手先を倒したんですから」胸を張って言った。と同時に言い聞かせた。施設を見るくらいなんて事ない。
「頼もしいわね」
「そう来なくっちゃ」
私は、旗軍が黒幕だと言う前提で話したし、否定される事もなかった。みんなの読みというのは、もはや事実に思えてくる。
「西側に行く訳だから、必ずしも安全とは限らないぜ」浄御原が忠告する。
「大丈夫です。それはどこにいても同じだと思います」南淵左内なんて魔法界でも素人界でも危険に変わりないと言っていたくらいだ。魔法界内部の隣国なんて、境もないに等しい。
「調査隊も無事だった訳ですよね」
「ああ、確かに。ただ、すんなりいった訳じゃない。あくまで一悶着の結果としてだ」
中身だけの無人施設を勝手に想像していたけれど、そうじゃなかった。新聞の写真が全てだというのは錯覚で、時の流れの中では、当然その前後が存在する。
「踏み込もうとしてるのは、そういう所なのよ。戦いが起きてもおかしくないわ」リーダーが勇気ある撤退を訴えてくる。前回の会議で、お母さんから託された想いを汲んでるようだ。窓のない部屋で、聖なる庄司美奈の姿がランタンによって、浮かび上がった。
「ううん。上等です。避けては通れない道ですから」
「何も、あなたが無茶しなくとも良いのよ」
「分かってます。でも、現実から目をそらすのも危険だと思います。自分の目で一度見ておきます」彩粕に会いに行く過程なら、困難な事にも耐えれる気がした。偉大な道を進もうとしてる人に、神様が背を向けるとは思えない。きっと、大丈夫だ。
そういう運命を保証するかのように、リーダーは「温室は、私達の仲間が占拠してるから、必要以上に怖がる必要はない」と、ある種の種明かしをした。大袈裟に言うことで、私の意思を試していた部分もあったのだ。
「左内、出番だ」浄御原が大部屋に向かって叫ぶ。
「分かってるさ。二人揃って、耳をかっぽじって聞いてたからな」井上の声が、返ってきた。
左内本人は、私達の部屋に、直接お出ましになった。時計を見て、昼前にメマンベッツに入る計画を披露した。メマンベッツ勢の昼食を邪魔したくないのか、単に自分達が待たされたくないのか。私としては、謁見に悪影響が出なければ、理由は何でも良かった。
最後に議題に上がったのは、温室見学の対象に、浄御原も入れるかどうかだ。
「また俺の仕事かい」
「玲禾に提案したのは誰だ?」左内さんが、すました顔で言う。
「よく言うぜ。ここにいる皆んなで決めた事だろ」
「じゃあ、ここにいる皆んなで、もう一度決めるか。浄御原がメマンベッツに行くかどうか」
「おいおい、健全な決め方みたいに言うなよ。少人数では、多数決が機能するとも限らねえ。ここでは、哲人政治万歳だ」
「じゃあ、リーダーに決めて頂こう」
「そうだな。この中じゃ。庄司美奈こそ、哲人に近い」左内も井上に乗っかる。
「わかった、わかった…」彼は、分が悪いと悟ったようだ。唯一の道は、彼自身が哲人として認められることだが、認められないのはそれ以前に判明していた。
「何も、俺たちだって口先だけじゃない。行動を共にしようじゃないか。浄御原隊と」井上は、左内に呼びかける。
結局、名誉隊長はメマンベッツへの同行を承諾した。基地の留守番は、庄司リーダーに任せる。彼女に見守られながら、一行は噴水の板に向かった。
エレベーターのような転送装置は、定員が少ない。私は、来た時と同じように、左内さんと円盤に乗った。
噴水の吹上げに合わせて地上に出る。やはり、頭上だけが青空で、四方は水が上り下りしている。噴水が正義軍の基地を隠しているのだ。
次の吹上で浄御原隊長と井上を迎え入れると、四人は木陰から外れて、はるか遠くを見た。
魔法使いらしくない格好で、西の空に旅立つ。全員が、ローブやマントを着ているわけではない。確実に身に着けているのは、それぞれの検査アイテムのほうだ。
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