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東部連合編

仲直り

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 時間を置くと、良い意味で、現状を引いて捉えることが出来た。生まれた距離にも、きっと何か意味がある。一旦は、恋愛の関係ではなく、同級生に、友達に戻れ、と神様が言っている。このくらいでダメになるなら、私たちは所詮それまでだったということ。割り切れないけれど、そう割り切ることにした。

 最初の晩餐のテーブルには、こんがり焼けたお肉が載っていた。バジルやレモンが脇に添えられている。
 メニューについて訊く前に、お母さんは、私を二階に遣った。彼は、あれから、ずっと部屋にこもりっぱなしだ。私の対応が尾を引いているのは間違いない。気持ちの整理がつかないまま、階段を登った。

「ご飯だよ」
「うん、ありがとう」ハル君の声を、部屋を開けて良いという合図と捉えた。
「あらっ、起きてたんだ」彼は、ベッドで本を読んでいる。
「もちろん。そんな時間じゃないよ」ハル君はいつもの表情で言った。気づいたら自分の頬も緩んでいる。どちらかのが、もう片方へ伝染したのだ。
「早く下に来なよ」そう言い残して扉を閉めた。短いやり取りだけで、仲直りを実感できる。同じ屋根の下にいると、時が解決してくれるのも早い。下りの足取りは軽く、転ばないように注意が必要だった。

「今日のは何?」ハル君が私の横に腰を下ろしてから尋ねた。献立はあまり気にならないけれど、何か喋りたかった。
「鶏肉よ。鶏のピカタ」
「ピカタ?」
「そう。まぁ食べてみて」お母さんは、私だけでなくハル君も見て言った。説明するより実際に食べた方が早い、と顔に書いてある。
「うん、美味しい」私がまだフォークで切り分けている時に、彼が言った。あからさまに美味しそうに食べるから、言葉はいらないくらいだ。
「う~ん、幸せ!」私も素材の味を噛み締めて、空っぽだったお腹を満たしていく。誰かさんのせいで、精神的に疲れていたから、活力が蘇るようだ。当の本人をちらりと見て、それを主張しながら、舌鼓を打った。

 お母さんは「もう少しレモンをかけたら」とハル君に勧めた。彼へのおもてなしに夢中だ。ハル君もそれに応えて、気の利いた言葉を言うから、お母さんも益々調子付いた。

「あらっ、良かった!手間を掛けた甲斐があったわ」
「手間って魔法をかけただけでしょ」
「魔法も簡単じゃないのよ。二人に真心込めて作ったんだから。病院食とは違うでしょ?」
「はい。暖かみを感じました」ハル君はお母さんに機械的な笑顔を返した。
「ワッフルとたこ焼きは別よね」お母さんに負けじと言った。学校帰りに、地下で買って帰ったやつだ。
「懐かしい。あれは良かった」
「何々、病院で?」
「そうよ。私が学校に行きたての頃かな。学校帰りに」
「たしかね。一階の広場で一緒に食べたんです」私の問いかけもあって、ハル君からも二人の想い出が紹介された。自慢のハル君との仲が公になっていく。お母さん相手でも十分嬉しかった。

 最初の夕食は楽しい空気のままに終わった。母は、私たちの間に起きたすれ違いに気づかなかったかもしれない。

 ハル君の不安が消えても、地域全体の問題が残っている。左内さん達は有志の調査に出ている。
 玄関が開く音が、彼の帰還を告げた。有志の調査団が、情報を掴んだかもしれない。引き締まった表情は、何かを伝えていた。

「お疲れ様」お母さんは、明るい声で言った。
「こんにちわ。今日からここでお世話になります」ハル君は、立ち上がって挨拶する。
「久しぶりだね。ここもにぎやかになるな」
「まあね。家族が増えた気がして、嬉しいわ。幸か不幸か、六車先生の件で、退院が早まったみたいなの」
「ここに来れたのは、良い事に決まってるさ。快適だし、安全だ。老木は見つかりにくいし、こずえさん、玲禾もそばにいる」隣人が激励すると、ハル君の固い表情が和らぐ。

 母からも、私の警護人が改めて紹介される。仕事や住まいのような基本的な情報に加えて、最近の事にも話が及んだ。
 よりによって、昨日今日には重要なことが詰め込まれている。彼が正義軍の一員であることから、ミズミア情勢について共有がなされた。
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