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役場決戦
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扉の向こうでは、緑の光が龍のように舞っていた。マリアは、シールド魔法を構えて中に入る。一方、私は光の玉を連打した。
狙いのスパイは、光の糸で身を守ったから、志筑にとどめを刺す事ができなかった。危機一髪だった。彼は敵の縄張りで、倒れている。横にはコウモリも力尽きていた。
マリアは志筑の言いつけを無視して、すかさず光の糸で攻撃する。
緑と青がぶつかり合う。力関係は明らかだ。緑の光が、マリアのを押しのけていく。
そのまま、土俵際、つまり役場の壁際に追い込まれそうになった。私がスリップ魔法で援護し、土俵中央に盛り返した。
「お前たちか。生意気な小娘よ」彼は私達を知っている。あの時、地下にいた男だ。光に照らされた顔には、邪気がみなぎっている。
私が(スリップを匂わせながらも、)光の玉を放つ事で、二つの光は拮抗を続ける。中央のエメラルドグリーンの火花で反発し合い、お互いにその場に留まる事ができない。すり足で、同じ円の孤上を移動し、背景の壁が入れ違う形になった。
スパイが役場の入り口を、私達が白壁とがれきを背にする。奥に繋がるどら焼き型の通路は崩落していた。
きっと志筑がミズミアを守るために、道を塞いだのだ。
私達は徐々に、その瓦礫の際に追い詰められた。押し出しに遭っている力士そのものだ。平手に代わり光の糸で攻められ、土俵の外に相当する、白亜壁にぶつかった。もう、これ以上、奥には行けない。
私の脇腹が受付カウンターに差し掛かった時、マリアがまるで魚のように、緑の糸に釣られて飛んで行った。
「マリア~」彼女は地面に叩きつけられながらも、杖は離さないでいる。仰向けになりながら、盾を傘のように張って、攻撃に耐えている。
「まずはお前からだっ」暗黒がマリアを飲み込もうとしている。絶望的な光景と叫びに、私の杖が自然と動いた。
もうあれしかない。前に踏み出し、両腕で握った杖を下から突き上げた。水色の光糸はスパイにではなく、緑の糸に向かって飛んだ。手の震えを抑えるために、力を込める。秘密特訓の二の舞はダメだ。
衝撃に耐えれなかった緑の光は、空中で震え、行き先を探した。
そして見つけた。線光が捉えたのは、持ち主の体そのものだ。杖から放たれた糸は、宙で円を描き、元の場所を貫いた。彼は、自身の力と残りの生命を体じゅうで感じることになった。
敵の最後を見届けると、私も暗い世界に落ちる。音も消え去り、意識が遠のくのを感じた。
目の前にはお父さんがいる。ゲルの中で光の糸を唱えたのは、お父さんが現れた直後だったから、今回はその逆だ。
「前回は、マリアを傷つけ掛けたけど、二回目は上手くいった。ミズミアを守ったのよ」という報告に、お父さんの顔も綻んだ。
お母さんやマリア、このみまで隣で笑っている。マリアは、このみと比べると第一印象は劣っていたけれど、一緒に良い事も危ない事もして、ぐっと心が近づいた。私達は、きっと一生の戦友だ。
その真莉愛の声はやまびこのようにこだまし、だんだんと大きくなった。私は、ベッドの上で眠っていた。
「…だから、二人して乗り越えたんだって…玲禾!」
「マリア、このみ!」私達は手を広げ、円陣を組むみたいに抱き合った。
泣いているのは、私でもマリアでもなく、このみだった。
「こわかったの。二人に何かあったらって」
ミズミアに初めて来た時と違って、この部屋は相室だ。隣のベッドでは、志筑と付き添いの北別府が微笑んでいた。
「まさか、私の言いつけを破って、無茶をするとはな…藤原玲禾さん」
「はいっ!」説教されてる気は全くなかった。
「まぁ、自ら魔法使いだと証明したという事だ」
「君には感謝しても仕切れないよ」志筑がベッド越しに手を差し出す。この人は、握手がお好きみたいだ。
「痛ったた」手を伸ばせるほど、患部は治っていなかった。
「こらっ、無理をさせるでない」
「はっ、すみません」志筑は、私と北別府に謝った。
「お母さんは、今昼ごはんの買い物に行っとる」北別府校長が、気を取り直して教えてくれた。
「あの…スパイは?」
「今こうしてみんなが無事で入られてるという事じゃ」
「あっ、良かった。じゃあ、内藤先生も?」
「そう。向こうでも、調査を拒んだが、君達のおかげで疑いが晴れた。また二校にも戻ってくださるじゃろう」
「あっ、そうですか」私の何とも言えない反応に、みんな笑った。
「そこは喜ぶ所でしょ」マリアが言った。私は彼女を見返した。今の言葉を覚えておきなさい!
「私も向こうに行かねばなんかった。すまない」和んだ空気に紛れて、校長が軽く頭を下げた。
「私も情けないところを見せた」志筑も続いた。
「良いんです。志筑先生が教えてくれた光の糸が役立ちましたから」
「教えたかな?」
「ハッハッハ…」
「向田このみ君がポカンとしとるぞ」校長の声にこのみが恥ずかしそうにした。志筑先生は、全力出せないならば、光の糸をやるなとアドバイスをくれた。逆に言うと、やる時は迷わずにやれという事だ。
狙いのスパイは、光の糸で身を守ったから、志筑にとどめを刺す事ができなかった。危機一髪だった。彼は敵の縄張りで、倒れている。横にはコウモリも力尽きていた。
マリアは志筑の言いつけを無視して、すかさず光の糸で攻撃する。
緑と青がぶつかり合う。力関係は明らかだ。緑の光が、マリアのを押しのけていく。
そのまま、土俵際、つまり役場の壁際に追い込まれそうになった。私がスリップ魔法で援護し、土俵中央に盛り返した。
「お前たちか。生意気な小娘よ」彼は私達を知っている。あの時、地下にいた男だ。光に照らされた顔には、邪気がみなぎっている。
私が(スリップを匂わせながらも、)光の玉を放つ事で、二つの光は拮抗を続ける。中央のエメラルドグリーンの火花で反発し合い、お互いにその場に留まる事ができない。すり足で、同じ円の孤上を移動し、背景の壁が入れ違う形になった。
スパイが役場の入り口を、私達が白壁とがれきを背にする。奥に繋がるどら焼き型の通路は崩落していた。
きっと志筑がミズミアを守るために、道を塞いだのだ。
私達は徐々に、その瓦礫の際に追い詰められた。押し出しに遭っている力士そのものだ。平手に代わり光の糸で攻められ、土俵の外に相当する、白亜壁にぶつかった。もう、これ以上、奥には行けない。
私の脇腹が受付カウンターに差し掛かった時、マリアがまるで魚のように、緑の糸に釣られて飛んで行った。
「マリア~」彼女は地面に叩きつけられながらも、杖は離さないでいる。仰向けになりながら、盾を傘のように張って、攻撃に耐えている。
「まずはお前からだっ」暗黒がマリアを飲み込もうとしている。絶望的な光景と叫びに、私の杖が自然と動いた。
もうあれしかない。前に踏み出し、両腕で握った杖を下から突き上げた。水色の光糸はスパイにではなく、緑の糸に向かって飛んだ。手の震えを抑えるために、力を込める。秘密特訓の二の舞はダメだ。
衝撃に耐えれなかった緑の光は、空中で震え、行き先を探した。
そして見つけた。線光が捉えたのは、持ち主の体そのものだ。杖から放たれた糸は、宙で円を描き、元の場所を貫いた。彼は、自身の力と残りの生命を体じゅうで感じることになった。
敵の最後を見届けると、私も暗い世界に落ちる。音も消え去り、意識が遠のくのを感じた。
目の前にはお父さんがいる。ゲルの中で光の糸を唱えたのは、お父さんが現れた直後だったから、今回はその逆だ。
「前回は、マリアを傷つけ掛けたけど、二回目は上手くいった。ミズミアを守ったのよ」という報告に、お父さんの顔も綻んだ。
お母さんやマリア、このみまで隣で笑っている。マリアは、このみと比べると第一印象は劣っていたけれど、一緒に良い事も危ない事もして、ぐっと心が近づいた。私達は、きっと一生の戦友だ。
その真莉愛の声はやまびこのようにこだまし、だんだんと大きくなった。私は、ベッドの上で眠っていた。
「…だから、二人して乗り越えたんだって…玲禾!」
「マリア、このみ!」私達は手を広げ、円陣を組むみたいに抱き合った。
泣いているのは、私でもマリアでもなく、このみだった。
「こわかったの。二人に何かあったらって」
ミズミアに初めて来た時と違って、この部屋は相室だ。隣のベッドでは、志筑と付き添いの北別府が微笑んでいた。
「まさか、私の言いつけを破って、無茶をするとはな…藤原玲禾さん」
「はいっ!」説教されてる気は全くなかった。
「まぁ、自ら魔法使いだと証明したという事だ」
「君には感謝しても仕切れないよ」志筑がベッド越しに手を差し出す。この人は、握手がお好きみたいだ。
「痛ったた」手を伸ばせるほど、患部は治っていなかった。
「こらっ、無理をさせるでない」
「はっ、すみません」志筑は、私と北別府に謝った。
「お母さんは、今昼ごはんの買い物に行っとる」北別府校長が、気を取り直して教えてくれた。
「あの…スパイは?」
「今こうしてみんなが無事で入られてるという事じゃ」
「あっ、良かった。じゃあ、内藤先生も?」
「そう。向こうでも、調査を拒んだが、君達のおかげで疑いが晴れた。また二校にも戻ってくださるじゃろう」
「あっ、そうですか」私の何とも言えない反応に、みんな笑った。
「そこは喜ぶ所でしょ」マリアが言った。私は彼女を見返した。今の言葉を覚えておきなさい!
「私も向こうに行かねばなんかった。すまない」和んだ空気に紛れて、校長が軽く頭を下げた。
「私も情けないところを見せた」志筑も続いた。
「良いんです。志筑先生が教えてくれた光の糸が役立ちましたから」
「教えたかな?」
「ハッハッハ…」
「向田このみ君がポカンとしとるぞ」校長の声にこのみが恥ずかしそうにした。志筑先生は、全力出せないならば、光の糸をやるなとアドバイスをくれた。逆に言うと、やる時は迷わずにやれという事だ。
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