上 下
64 / 242

上の空

しおりを挟む
「あぁ、皆さん、おはようございます。ご機嫌いかがです?あぁ、そう。私が来て早々に、何やら騒ぎが起きてるみたいですもんね。本当、困ったものです。でも、皆さんは一緒になってはいけません。じきに、終わる事です。何しろ、私は風水で睦水地域が危ないことを見抜いていましたから。驚きませんよ。風水の森七月号に書いて差し上げるところでしたわ」

 内藤の長ゼリフで授業は幕を開けた。相変わらずのお上品な上から口調は、もはや気にならない。
 マリアとの自主訓練で頭がいっぱいだ。魔法を習得するには手を動かすに限る。休み時間なら、好きな魔法を試すことができる。
 結局、練習に向けて大石の教科書を読み進めていると、チャイムが内藤の清らかな声を切り裂いた。
 
「今まで見てきた数多くのクラスの中でも、皆さんはお静かで、素晴らしかったです」内藤女史は褒めるけれど、それはみんなが騒動に神経を使い果たしたり、思い思いの内職に精を出した結果に過ぎなかった。

 授業後、石垣の上からゲルを見下ろすと、白い屋根がお餅みたいに膨らんでは消えたから、嫌な予感がした。案の定、中では高等部であろうあんちゃん達がすでに光の玉が飛び交わせている。貸し切りとはいかず、練習前、マリアと苦い顔で見合うことになった。

「あくまで自衛のためなのよ」自身の一貫性を改めて主張するのとは反対に、彼女は気合いを全身で表現する。
 私は、赤光の出力に失敗し、防戦一方になる。防衛魔法でマリアの光の玉のノックを受けなければならなかった。おかげ様で、強めに跳ね返して周りに迷惑をかけるのは相変わらずだ。

 マリアと光操魔法第一歩(大石秀季著いわく)の光の玉と防衛魔法を交互に練習する日が来るなんて思いもしなかった。ついこないだ、私の魔法学校入りに反対して暴挙に出た女性の姿はどこに行ったのだろう。素人界も安全でない、という情報を左内から得た彼女の態度は、百八十度変わったようだ。
 汐留真莉愛の導き絵は、晴れたり、曇ったりで大変だ。

 中庭でラムネを一杯引っ掛けると、昼食を買って、ハル君の病院に向かった。マリアも一緒だ。

 一階の広間には、ハル君の代わりに紗江先生がいた。

「朝比奈君は三階の部屋ね」
「ありがとうございます」
「あらっ、マリアちゃんも」
「はい。こんにちは。玲禾のこれに会いに来ました」マリアは、親指を横に突き出して言った。
「そんなんじゃないよ」
「こらっ、二人ともまったく」紗江先生が言う。私は被害者なのに、怒られるのは心外だった。「そうだ。物騒な事があったみたいだし、気をつけるのよ」
「はい」病院の人も、当然ながら、噂を知っていた。
「この病院は安全なんですか?」
「もちろん。大丈夫よ」
「本当ですか?病院はデカイから目立つ気がして…」自分で訊いておきながら、紗江先生の言葉を鵜呑みにできなかった。
「私もいるし、朝比奈君は大丈夫よ」
「良かったね。玲禾!」
「だから、そう言うんじゃないの」紗江先生が守ってくれるし、安心度は多少なりとも高まった。
 医療魔法の玄人で、何より顔の知ってる人がそばにいてくれる。マリアと紗江先生を一緒にすると、ロクなことが無いから、マリアを階段へ急かした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!

れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。 父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。 メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。 復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*) *なろうにも投稿しています

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

あ、出ていって差し上げましょうか?許可してくださるなら喜んで出ていきますわ!

リーゼロッタ
ファンタジー
生まれてすぐ、国からの命令で神殿へ取られ十二年間。 聖女として真面目に働いてきたけれど、ある日婚約者でありこの国の王子は爆弾発言をする。 「お前は本当の聖女ではなかった!笑わないお前など、聖女足り得ない!本来の聖女は、このマルセリナだ。」 裏方の聖女としてそこから三年間働いたけれど、また王子はこう言う。 「この度の大火、それから天変地異は、お前がマルセリナの祈りを邪魔したせいだ!出ていけ!二度と帰ってくるな!」 あ、そうですか?許可が降りましたわ!やった! 、、、ただし責任は取っていただきますわよ? ◆◇◆◇◆◇ 誤字・脱字等のご指摘・感想・お気に入り・しおり等をくださると、作者が喜びます。 100話以内で終わらせる予定ですが、分かりません。あくまで予定です。 更新は、夕方から夜、もしくは朝七時ごろが多いと思います。割と忙しいので。 また、更新は亀ではなくカタツムリレベルのトロさですので、ご承知おきください。 更新停止なども長期の期間に渡ってあることもありますが、お許しください。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...