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移動教室

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 次のコマは、みんなして光操魔法だ。
 
 一緒に歩きながら、前島や財津が、私のキャンパス案内係や時間割作家を名乗り出た。
 マリアが誰よりも早く「ジャングルの野獣どもめ!玲禾には、私たちがいるから大丈夫よ」と制したので、私は有無を言えなかった。
 
 時間割には、入学前からモノ申したいことがある。私が、内藤の魔法風水を取らされた、と相談すると、このみと律子ちゃん以外も取っている事が判明した。
 共感には、六車先生の失踪が関係している。六車のミズミア庭園、という楽勝単位科目を選択した多くの生徒が、自動的に代替の内藤授業に更新される悲劇が起きたらしい。みんなの耳にも、前の学校での授業の悪評が入っていて、「ミズミアの悲劇」と命名された。

 中庭に出て大天守の脇の階段を下りたところ、芝生の上に、目当ての教室はある。

 正確には、教室というよりは、ゲルのようなテントだ。床には剣道場のような無垢材が敷かれ、壁や天井は外見通りの白一色に統一されている。
 壁沿いには、組木の台を内装しているが、奥に向かって段々と高くなっているから、観客席を思わせる。ゲルが授業の場だとすると、観客席は生徒の机と椅子になる。

   先生が来る間、前島や財津と普通に喋れていた事実に驚いた。保護魔法が解けて、もう男子だからって無条件で緊張するわけじゃない。生まれて初めての感覚に、ふと息を吐いた。

  志筑先生が来ても退屈で、脳内の世界からなかなか抜け出せない。大石のように、光操魔法の説明や指導もなく、話も自慢話ばかりだ。

 たまに、現実に戻った時も、スマートというより肉を削いだ顔や、色も形も栗そっくりな髪ばかりが目に入る。

 案山子相手に実演が始まっても、彼は、生徒を観客席にやり、自慢げに自分の技を見せるだけだ。光の玉を放ったり、杖先からの光の糸でしばいたりで、観客席は盛り上がるものの、それも長続きはしない。もっとひどいことに、嫌気がさした先生は、ほとんど説明もないまま、生徒を前に出し、同じ事をさせようとした。

 選ばれた生徒を叱ったり、褒める時も、他の生徒と比べて、その子に厳しくあたるのを忘れない。
 玄人精神がねじ曲がった典型と言える先生で、反面教師を置く事で、生徒を正しい道に導くなら志筑先生が適任に思えた。(ただ、それも数週で充分だし、大石のクーデターに加担する日が来るかもしれない)

 唯一、良かった点は、番乃伊奈々未ちゃんが実演で指名され、彼女の雰囲気がわかった事だ。お母さんとは横丁で出会っているが、彼女には親譲りの可憐さがある。可憐というのはクールに近しいけれど、授業後友達といる時は、一転キャピキャピしていた。違うグループだし、取り巻きが多いしで、話すのは先になりそうと思った。

 これで授業が終わり、ハル君に会いに行ける。このまま昼食を取っても、何か買って病院に行っても良い。
 
 みんなはこの後どうするんだろうと思っていたら、休憩を挟んで次の授業がホームルームだと聞こえた。参加生の私にはホームルームがないし、購買所でサンドウィッチとワッフルを買うとみんなと別れた。
 
 別れ際、このみが「明日のお昼ごはんは食堂で!」と誘ってくれた。明日は、みんながマホージュと箒演習の時、私は魔法基礎と箒基礎だし、難しそうな創作魔法は辞めたしで、みんなと会えそうになかったからホッとした。
 ホームルームのない私としては、友達付き合いという事で、しぶしぶ光操魔法は取る事にした。月曜四限と金曜二限のホームルームの遅れを広げたくはない。
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