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お嬢も同級生

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 満員電車は、電車停に止まる度、一苦労だった。奥にいる客は、人混みを分け入って降りなければいけないし、降り口付近で輪を作るマリア達も邪魔にならないように慌ただしかった。

 窓の向こうには、土蔵造りレストランの入口脇で見たような箒スタンドがある。乗客の何人かは、箒を手に取って空の通学路に切り替えた。電車で地上に出るだけ出て、そのあと箒で帰るのは、名案に思えた。

 一方で、残る生徒も多く、マリアやこのみらも例外でなかった。

 行きと同じ長閑な道が、その理由を教えてくれる。豊かな自然と共に太陽の恵みを受け、どうでも良い事を語らうのも、空の旅に負けていない。

 アイスクリーム屋の坂を登ると、川沿いを走り、マリアのご愛用の電車停に着いた。混雑から自由になったマリアは、私たちの方を見上げて、手を振った。言葉はなくとも、仕草や表情が「また明日」と伝えている。

 乗客が減った分、車内に空間ができる。ブランコ前の電車停が来ないうちに、出口のこのみたちに少しずつ近づいた。

「あっー、玲禾」
「このみ、会いたかったよ」
「私もよ。どこ行ってたの?」
「学生証を作りに、役所とか学校」
「そっか、いよいよだね」このみが、もう一人の女の子に同意を求めるようにして言った。「うん!懐かしいな~。そうだ私、曽部律子です。よろしく」
 彼女は透明感に溢れている。喋るたびに、もぎたての果汁の瑞々しさみたいなものが感じられた。素人界で言う、田園調布や芦屋に住んでいる品の良いお嬢様と言った所だ。

「こちらこそ。藤原玲禾って言います。今更だけど、入学する事に…」
「そんなの関係ないよ。一緒に頑張ろ」役所での冷遇が尾を引いて、弱気だった私を曽部律子ちゃんは励ましてくれた。お母さんも、左内さんも安心した顔を見せる。
「うん。ありがとう」
「今さっき、このみのゴースト宿題ライターをやってるって聞いたわ」
「ちょっと…やめて。少し教わっただけだよ」このみは、素人学について、もっともな疑いをかけられ、苺みたいに顔が赤くなった。
 一方、私と曽部ちゃんは大笑いだ。
 その後、下野横丁でラーメンを食べた事や百銭ショップでの買い物の話をしていると、ブランコ前に着いた。

「いつから通うの?」
「来週の頭くらいかな。時間割を組むの手伝ってやって」お別れの質問に戸惑っていると、左内さんが答えてくれた。

「もちろん。じゃあ、また学校か、それとも老木に遊びに行くかも」
「老木?」律子ちゃんは、きょとんとした声でこのみを見た。
「もう、電車出ちゃうわ。早く!」

 家に着いた時には、受付ババアに対する恨みより新たな友達の嬉しさが上回っていた。
 左内さんによると、月曜には晴れて二校生になれるし、またすぐ心強い仲間に会える。しかも、今度は同級生としてだ。
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