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不死鳥文通

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 夕食が終わるや否や、お母さんは窓に向かって呪文を唱えた。
 十分後、バサバサという羽音と共に、紫と黒の鳥が入ってきた。お母さんが魔法をかけた窓とは違う、キッチン上空の窓からだ。

 鳥はテーブルの角の一つで留まると、依頼主の手厚い愛撫を受けた。

「遅かったわね。よちよち。すぐ近くまで手紙を運ぶだけだから大丈夫よ」鳥は、身をよじらせながら、心なしか笑っているように見えた。
「その鳥が手紙を運ぶの?」
「そうよ。不死鳥の仕事の一つね」
「不死鳥?」素っとん狂な声が漏れながら、紫の毛に縁どられた瞳に吸い込まれた。
「うん。不死鳥なら確実に届けてくれるでしょ」
「じゃあ、石畳の上で見たのも、不死鳥の・・」
「違うわよ。普通の石。不死鳥の化石なんてないわ。なんせ不死だからね」
「じゃあ、左内さんと仲良く間違えたのね」

「実は、それも違うの。反対方向から箒が飛んできたのよ」箒が見えないように、私の注意を下に向けたのだ。

「私が気絶するとでも思った?」
「まあね。すぐ病院戻りになるところだったわ。素人あがりにはきつい光景だもの」

 石畳の上で立ち止まったのは、病院から家に向かう時だ。その時は老木の家なんて思いもしなかった。そして、その家で二三夜を明かしてから魔法に触れたのは英断だった。いきなりだと全てを投げ出したくなったかもしれない。

「なんか違和感があったのよね。二人とも焦っていたし」
「でも、上手くやった方よ。箒が見えた時は、頭の中が真っ白になったんだから」
「お母さんはまだしも、左内さんはひどかったわ」
「ハッハッ、確かに。箒が進むに合わせて、蟹歩きよ。大胆過ぎる」

 お母さんが笑いながら杖を振ると、引き出しが開いて、手紙が宙を滑ってきた。

「何の手紙を書くの?」もう手紙が浮遊するくらいでは驚かない。
「左内さんは明日か明後日空いてるかなって。学校に行こうと思って」
「本当?!」
「あくまで見るだけよ。近くで他の用事もあるし」
「直接会って聞きなよ」
「ほら、玲禾に魔法界の事情を見せるのも兼ねてるの」お母さんは、いたずらな笑みを浮かべる。彼女は、このみに代わる、玄人学臨時講師に名乗り出た。

「左内さん家に行く約束があったし、私が行ってもいいのよ」

 お母さんは「今日は真っ暗でしょ」と手紙を不死鳥のくちばしのセットし、小振りなお尻を押した。
 不死鳥は、キッチンの窓から湖を通って十秒の旅に出た。素人界で言うと、商店へタクシーで行くようなものだ。
 手紙の帰りを待つ間に、お母さんはご褒美のペットフードを準備し「不死鳥にとっても、悪くない仕事よ」と私の心の声に弁明した。 

 不死鳥は石畳以外でも見聞きした覚えがあると思ったら、それはアーヤカスの偉大的不死鳥軍だった。
 あの紋章は、速さと知性、愛嬌を兼ね備えた不死鳥を表しているんだ。  
 グレートな不死鳥は、ものの数分で、手紙を運んできた。

「久しぶりに不死鳥が来たから、びっくりした。また、湖庵東部からの個人的な仕事の依頼かと思ったよ。どうか違ってくれと願ったら、こずえさんと玲禾がその願いを叶えてくれた。まさか、隣人からのお洒落な贈り物だなんて。それじゃあ、学校は明後日に。明日は、私の家を見に来なさい」

 お母さんと顔を見合わせた。
 彼も、手紙なら冗舌なのかもしれない。しかも、前振りが長すぎて、ほとんど全てを占めているから、肝心な所は最後に曖昧な表現が添えられるだけだ。 
 結果的には、承諾の意思が伝わり、彼の貴重な一面が見れたから良かった、としよう。待ちに待ったご褒美に食らいつく不死鳥を軽く撫でてから二階に向かった。
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