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真夜中の秘密

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 夜中に目が覚めた。体が脱水を訴えるので、暗がりのリビングへと自室の丸扉をくぐった。

 吹き抜けは真っ暗でシンとしていると思いきや、こずえさんの部屋から光が漏れていた。患者の私は、悪徳治療を二度も受けているのに、看護婦が深夜まで不摂生しているとはいただけない。

 現場を見逃すまいと天井から漏れ灯を頼りに、忍び足で階段を下りた。中段で捕らえたのは、隣人南淵左内のものだった。

「魔法の・・・知りかけ・・・」壁のせいで、声は途切れ途切れだ。降りかけの足を止め、壁に耳を澄ました。

「でも、玲禾は素人の世界でずっと育ってきたのよ」
「今、向こうの世界に戻っても、引き寄せ魔法で戻ってくるだけだ。しかも、今度は青鷹軍や旗軍のそばかもしれない」
「何でそう決めつけるのよ」
「決めつける訳じゃないさ。その可能性があるだけでも大きな問題だろ」
 演劇部の脚本会議のように、軍団の名前がいくつか挙がった。忌み嫌う口調から判断すると、彼らは悪さをする集団だ。そして、変な魔法とやらのせいで、玲禾が彼らの手に堕ちるというのが、盗み聞きの内容だった。
 
「・・・玄人界が落ち着くまでだ」
「それまでにミズミアが危険に晒される可能性もあるでしょう」
「その可能性もあるが、あの子にとったら、向こうの世界に戻っても同じだ」
「こっちで私達が守った方が良いということ?」
「ああ。それに、玲禾自身が強くなれる」彼が応える。「彼女は誰の子だと思っているんだ」
「うん。そうね」二人の声は雷になり、直撃した。彼らは玲禾の生みの親を知っているような口ぶりだ。「玲禾は独りで立てるわ。あくまで、時間がかかるということだけ。湖庵や魔法のことに少しずつ慣れてもらうの」

「そう、今日のように行ければ良い。いきなりは受け止めきれないだろうから」
「私達が素人の世界に急に移り住むみたいな事なんだもの」彼の同意を得て、こずえさんの声も力強くなっていく。
「一つ違うのは、あの娘は若くて吸収力がある」
「確かに、玲禾には伸び代しかないわ。私とは違うの」
「そう不貞腐れるな。彼女にまだまだ可能性があると言いたいだけだ」

 玄関の襖扉を引く音は、おそらく隣人が帰った合図だ。それを最後に、音沙汰が途絶えた。

 密談が終わり、女主人が戻って来る可能性がある。玲禾は存在がばれたら、盗み聞きを潔く打ち明けようと腹を決め、時が過ぎるのを待った。

 目を閉じてないのに、黒の幕が突然降りた。こずえさんが灯を消して、何も見えなくなった。
 彼女がリビングに来ることはないが、入れ替わるように、暗闇の中を部屋までたどり着くという新たな難題が立ち上がった。灯をともすのは危険だし、そもそも灯し方も分からない。

 目が闇に慣れてから、壁を伝いながら階段それから廊下を一歩一歩進む。
 わずかな音にも神経をとがらせ、その度に足を止めたから、病院から老木まで以上の距離に感じた。ようやく部屋までたどり着いた時には、精神的にすり減っていた。

 水分補給は叶わなかった。盗聴がばれないよう、何とか朝まで我慢するしかない。
 今はあの二人が両親を知ってたという驚きを受け止める時だ。これまで玲禾が探していた人を知る人がミズミアにいたのだ。

 彼女を「誰の子だと思っているんだ」と言っていた。まるで、玲禾の親が偉大な人物であるかのような言い草だ。
 ただ、人生を振り返っても、引っ込み思案で目立つ性格でもないし、とてもそんな風に思えない。きっと何かの間違いに決まっている。
 それに魔法やら何やらは全然わからないし、こちらで偉大な親に会ったとしても、出来損ないの娘に失望されるだけだ。

 でも、親に会えるのなら、ミズミアに残っても良いという気持ちが芽生え始めたのは確かだ。
 初日から二回も怪しい治療に失敗して、ミズミアでの滞在が決まったのもそういう運命なのかもしれない。
 少なくとも、玲禾に関係ない土地とは言えないし、現実に背を向けると決めつけるには早い。摩訶不思議な文化を吸収する事、こちらの世界に慣れることが悪いことばかりではない、と分かった。

 眠りにつきながら、家族の事を考えていた。
 ママやパパは我が家のリビングにいる。爽香はまだ帰って来てないのか、留守にしている。 
 夢の中で、こっちで何があっても、今までの事は消えないし、みんなは大事な家族なんだと胸に刻みこんだ。
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