セラルフィの七日間戦争

炭酸吸い

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第四章

002 シルヴァリーとチャイム②

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 鐘楼を直そうと試みるも、なにか複雑な術式が組み込まれているのか、上手く音が鳴らない。ここの世界では時間の流れが遅いらしく、それならば自分が数日くらいいなくても支障はないだろうと判断した。このキームという女性も話し相手が無くとても暇だったと言っていた。話し相手をしている内、互いのことを語り、次第に『仲のいいおしゃべり相手』の関係にまで発展していた。本当はこの世界の仕組みも粗方理解したため、彼女の悩みを解決して帰るつもりだったのだけれど。

「昔からここで?」
「そうなんです。わたくし、外の世界から来るものしか見たことが無くて、上も周りも殺風景でしょう? 地面なんか灰みたいで」

 無表情で寂しそうに言うキーム。当初は感情の起伏が無い女性などと思っていたが、案外そうでもないのだと気付いた。長い間彼女は一人で生きていて、感情を見せるような相手が居なかったのである。ただ、彼女の喜怒哀楽の変化は不思議と感じ取れるようになっていた。

「そうですね……。少しお時間をいただけますか?」
「ええ」

 鐘楼を公園のベンチのようにして並んで座るのが二人のベストポジションという奴だった。一番話しやすく、なにより、この鐘楼しかここには無い。

 そこから立ち上がり、部下を教育する上官のような立ち方でまた懐中時計をぶら下げるシルヴァリー。

「キームさん、あなたは時間を操る術を使えるようですが、時間を早めることは可能ですか?」
「もちろんです」
「では、ここに」

 こくりと頷く彼女に、シルヴァリーは背中に回した手から一輪の青い花を差し出した。

 一種の召喚術だ。花のように小規模なものならば、シルヴァリーにでも簡単に取り出せる。趣味でガーデニングの類を嗜(たしな)んでいるシルヴァリーが、とっておきのモノを自室から召喚したのは体面上伏せておく。

「あらまあ。綺麗な……なんでしょう、これは?」

 小首を傾げる人形のような顔立ちで、シルヴァリーの手の中を見つめる。やはり、キームはこの世界にあるもの以外は知らなかった。当然と言えば当然だが。
  
「花ですね。ブルースターと言います」

 五枚の海色をした花弁。星のような形をしているそれを、キームは興味深そうな無表情で注視した。
  
「あら、素敵な名前。本当に星みたい」

 まるで知っていたような口ぶりで褒めるので、驚き顔で訊いてみる。
  
「星を見たことがおありで?」
「とても遠くですけれど。空間の裂け目でよく見えるんです。いつかちゃんとした場所で見てみたいものですわ」

 そういえばこの前の小鳥も異空間からやってきたのだった。それを考えると、星やそういったものを記した紙切れなどが飛んできても不思議ではない。
  
「ならばいつか連れて行ってあげますよ。川のように星の連なる綺麗な場所があってですね」

 そんな誰でも知っていてキームが知らないことを語りだすと、キームはいつも楽しそうな無表情で聞いてくれる。とりあえずは無表情なのだが、それでも声のトーンが高くなったりするので、興味の有無を判断しやすい。

「そうだ。花言葉というのをご存知ですか?」

 また小首を傾げる。あまり傾げさせると首筋を痛めさせそうだったので、反応を見る前に教えることにした。

「植物を象徴する言葉です。例えばこのブルースターは、『信じあう心』という花言葉があります。よく結婚式などでブーケにするといいと言われていますね」
「シルヴァリーさん」
「はい」
「あなた、やはり私を口説こうとしていません?」



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